第59話 「決戦・中編」(バトル)
規格外の外皮と戦闘力を誇るギドンを前に、クロスト防衛の士達は一時撤退を余儀なくされた。
対策案を練るため警備隊本部に総員約五十人程度が集合していた。
「セナ、大丈夫か?」
リンに救出され運ばれてきたセナに、サイガが駆け寄ってきた。
「なんだい、サイガ。そんな心配する必要ないよ。あれぐらいなら、ほらポーションで回復したよ」
空いたポーションの瓶を見せながら、セナは笑って応えた。
「残念ながら、武器は回収できませんでしたわ」
「ありがとうございますリン様。だけど、あの戦鎚なら重すぎてあいつ等じゃ使えないだろうから、あとで回収します。気にしないでください」
「死者がいないのは何よりだが、あのギドンの顔をした巨大なアント。あいつは一体なんだ?このままでは、あいつ一匹にクロストは蹂躙されてしまう」
警備隊本部の屋上から三百メートル南、今だ霧中八辺の幻惑の中で無差別に暴れまわるギドンを見ながら、ライオネスは歯噛みした。
「リンはあのアントの親玉、ギドンの成れの果てとみるか?」
「そうですわね、冒険者の連中がアントになっていたことを鑑みるに、同じ理由でアントと化したと考えてよいでしょう。故意か過失かは解りかねますけど」
サイガの問いにリンが答える。サイガは少し考え込んだ。そして一計を案じた。
「ライオネス殿。たしかギドンは次期市長の座と権力に固執してる。そのため、現市長を敵視している。そうでしたね?」
「ええ、そうです。それがどうしました?」
「でしたら、私に案があります。そのためには市長の協力が必要なので、ライオネス殿、ご協力願えますか?」
「というと?」
「ライオネス殿に、市長を説得していただきたい」
「説得?まさか・・・」
「はい、市長を囮にギドンを罠にはめます」
サイガの提案に、全員からどよめきが起こった。
「それは・・・どのような策ですか?非戦闘員を巻き込むなど、とてもではないが、そんな案、応じるわけには参りません。だが・・・」
ライオネスは否定したかったが、ギドンの戦力を目の当たりにした直後では、その意思も揺らぐ。それだけ今は危機的状況であり、藁をも掴む心境だったのだ。
「安心してください、市長には指一本触れさせません。その内容ですが・・・」
サイガは全員に案を伝えた。
「たしかに、それなら一応は安全か・・・」
「隊長さん、そろそろ私の魔法が切れる、迷ってる暇はないわ」
「そうです。我々も全力を尽くして作戦成功に勤めます。ここはこの策に賭けましょう」
しぶるライオネスを、上級冒険者の魔道士フィーリアと剣士ブルーノの二人の言葉が決心させた。
「わかりました。お二人もそうおっしゃるなら。ここで眺めるより希望に賭けましょう。みんな覚悟はいいか!」
顔を上げたライオネスからは迷いが消えていた。全員の前に立つと作戦の決行を宣言する。混成部隊の全員が拳を上げて応え、作戦が実行に移された。
ギドン討伐作戦が開始され、各員が行動を開始した。
ライオネスは市長を迎えるために避難所へ向かう。歩兵騎兵は南北道のギドンの北側に配置。エィカを含む弓兵、魔道士は建物の屋上で援護の配置。サイガとリン、セナ、リュウカンの四人は作戦の最後の一手のために身を潜めた。
「こちらライオネス。市長の身柄を確保、現在作戦位置へ向かっている。始めてくれ」
ライオネスの通信を受けて、弓魔法部隊の指揮を執るフィーリアがギドン視界を遮っていた魔法を解除をする。
霧中八辺が徐々に薄れ、散るように消えた。
数十分ぶりに視界を取り戻したギドンが再び侵攻を開始した。足元には討伐され尽くされ、最後の十匹ほどとなったアントが護衛を勤める。
「よし、来たぞ。仕掛けろ!」
フィーリアの掛け声を受け、弓と魔法がアント達に飛来した。数匹のアントが倒れ、状況を理解したギドンがいきり立った。
「突撃!雑魚を一掃しろ!」
遠距離からの攻撃が終わると、次は剣士ブルーノが率いる歩兵隊が警備隊の騎馬兵と共に路地から奇襲をかけた。
隙を突かれた護衛のアントたちは瞬く間に刃と槍に倒れる。
アントたちは全滅した。残すのは親玉であるギドンのみとなった。
「よし、あとはこいつを北に導け!」
兵たちは南北道を北に向かって走り出し、配下の全てを失ったギドンが怒りの表情でそれを追いかけた。
兵士達はひたすらに北へ向かって疾走した。ギドンも必死にそれを追いかける。
巨体誇るギドンと武具を身にまとう歩兵達。その一歩は同じ一歩での大きく差があった。徐々にギドンが距離を詰めてきていたのだ。次の一歩で歩兵を踏み潰せる距離まで足が迫っていた。
「間に合った。散れ!」
歩兵たちは中央の十字路に到達すると、ブルーノは指示を出し、北へ向かっていた足を東西に向けさせて二手に分けた。
ギドンは足を止めて左右に首を向けた。分かれた兵のどちらを追うか考えたのだ。
「おい!こっちだ!」
ライオネスの声が聞こえた。声の方向、北側にギドンが顔を向ける。そこで見たものに、目を釘付けにされた。
ライオネスの隣には馬にまたがる、市長ラウロの姿があったのだ。
「ラ、ラウロォオオオオオ!」
市長の姿を見つけるや否や、ギドンは北に向かって走り出した。四本の足が、地中に打ち込まれる杭のように激しく地を鳴らす。
「市長、逃げて!」
ギドンの突進を確認して、ライオネスは市長を促した。
ライオネスが導き、市長が続いて駆け出す。
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