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第49話 「鋼鉄の胃袋」(ストーリー)

「はへぇ、大きな病院だね」

 リンが搬送され入院している病院を見上げ、セナは子供のような率直な感想を漏らした。その口は大きく広げられている。

「これは、ずいぶんとらしくないな」

 三人が訪れたのはクロスト最大規模を誇る総合病院で、地上四階建ての堅牢な建物だ。

 四角形の形状は、周囲の建造物と比べると、文化的に明らかな違和感があった。サイガはそれを感じた。その外観はビルそのものなのだ。

 らしくない。というサイガの言葉は、そのあまりにも強い違和感に向けられたものだ。

「宿の受付の方がおっしゃるには、市内で一番大きな病院なので、重傷者が運ばれるならここしかないとのことでした。とりあえず受付で、いらっしゃるか聞いてみましょう」

 三人は院内に入った。受付に向かう。

「サイガ様ですね。警備隊の方から話は伺ってます。リン様のお見舞いですね」

 受付でサイガが名乗ると、話は流れるように進んだ。見舞いのための来院を見越してライオネスが話を通していたのだ。

「リン様は、ただいまあちらの、レストランでお食事中です」

 受付嬢は建物の奥にある来客用のレストランを指した。

「食事中?もうそんなに回復しているのか?」

 サイガは思わず驚きの声を上げた。昨夜の負傷を見る限り、リンの頑強さを鑑みても絶対安静だと思っていたからだ。

「きっと、腕のいい魔道士さんがいらっしゃったんじゃないですか?」

「回復魔法はそんなに便利なのか?」

「よほどの魔力や技術がない限り完治とまではいきませんけど、リン様の頑強さならそれも可能かも・・・」

「まぁリンなら考えられるな・・・」

 エィカの答えにサイガは納得した。リンの頑丈さはその身をもって体験しているからだ。


 一行は受付からレストランに歩を進めた。その入り口には、『本日貸切』看板が立てられている。

「貸切?リンが食事中ではないのか?」

 不思議に思いながらサイガは中の様子を窺った。

 レストラン内には数人掛けのテーブルが幾つも並んでいた。が、その中の一つ、ひときわ大きな多人数掛けのテーブルが異様な光景となっていた。

 テーブル上には所狭しと料理が並べられ、その傍らには空いた食器が塔のように積み重なっている。

 奥の厨房からは忙しく動き回る声と音が聞こえ、給仕たちが絶え間なく動き回り料理を運んでくる。

 そして、その料理を口にするのが、他でもないリンだった。

 リンは運ばれてくる料理を次から次へと口へ運ぶ。その仕草は速いものの、決して乱暴でも品性を欠くこともない。良家の出身にふさわしい優雅なテーブルマナーを用いて上品に平らげていく。

「リン様、これでちょうど百皿目でございます。そろそろよろしいかと」

 隣に立つ店長と思われる男がリンに声をかける。その数字に三人は驚愕する。

「百皿・・・そんなに食べたのか・・・」

「あら、サイガじゃありませんの。もしかして、お見舞いに来てくださいましたの?」

「ああ、もしかしたら面会謝絶かと思ったが、まさかもう食事が可能だとはな・・・」

「ご存知の通り、私、頑丈でしてよ」

 リンは笑いながらナイフとフォークを八の字に置いて、口を拭いた。

「少し客人とお話いたします。前菜の皿だけ下げていただけます?」

「はい、かしこまりました。メインはお話が済み次第、お持ちいたします」

「今の、前菜だけで百皿か!?」

 二人のやり取りに含まれた事実に、サイガは驚きを隠せない。

「あれだけの怪我を負っては、回復にはそれなりの栄養が必要ですわ。さあ、おかけください」

 着席を促され、空いたテーブルの向かいに三人が掛ける。


「サイガ、昨夜はお疲れ様でした。お兄様から聞きましたわ、あの後も闘いがあったと」

「ああ、風の精霊がちょっかいを出してきてな。リンには申し訳ないが、手柄を横取りする形になってしまったかもしれない」

「よろしくってよ、私達の目的は殺人犯の逮捕。個人の戦果を競うものではありませんわ。それに私の悦びは闘い自体ですもの」

 食間の紅茶を口にしながら、リンは余裕の笑みを見せた。

「しかし、あれだけの怪我、いくらリンが頑丈とはいえ一晩でここまで回復するものなのか?」

 サイガの疑問はもっともだった。リュウカンの抜骨術で放たれた技は、常人なら絶命必至。リンも絶命は免れたとはいえ、顔中が血で染まるほどの出血と負傷をした。それは脳への後遺症も懸念されるほどだった。

「その理由はこれですわ」

 リンが懐に手を入れ、白い光を発する魔法珠を取り出した。

「それは魔法珠か」

「ええ、昨夜サイガが魔法剣に用いたものと同じものですわ。中の魔法は色の通り、回復魔法ですけど」

「なるほど、回復魔法は白で表されるのか」

 武器の魔法珠に回復魔法は含まれなかったため、サイガは回復の魔法珠を見るのは初めてだった。

「この中には国内でも最高峰の回復魔法が封じてありますの。これがあったので、私は搬送後すぐに使用して怪我のほとんどを回復いたしましたわ。それでも回復しきれなかった体力や魔力がありましたので、こうやって食事で補っているんですの。ちなみに後遺症はまったくありませんわ」

「へぇぇ、魔力って食事で回復するんだねぇ。なぁ、サイガもたくさん食べれば、だるいの回復するんじゃないか?」

 感心したセナがサイガに提案する。だが、リンがセナに対して手をかざし、制止する。

「それはお勧めできませんわ。食事での回復は、あくまで私のような生来から魔力を有する者の方法です。異界人であるサイガはおそらく魔力を持ちあわせていないため、内部よりも外からの供給の方が適しているでしょう」

「それってつまり・・・」

「アイテムで補うと言うことですわ。もしくは他者から魔力を譲り受ける。どちらにせよ供給は手間でしょうから、浪費と枯渇にはご注意ですわ」

「だってさ。気をつけなよ。さっきみたいにヘロヘロになっても、もう待ってやんないよ」

「大丈夫だ。理由がわかっていて同じことは繰り返さん」

 茶化すセナの言葉に、自身に戒めるように答える。


 ここで、リンの腹の虫が食事を催促する音を鳴らした。リンの顔が思わず赤くなる。

「し、失礼しました、恥ずかしいものをお聞かせしましたわ」

「そ、そうだな。そろそろ、おいとましようか」

 心情を察し、三人が席を立つ。

「これからどこに行かれますの?」

「留置所へ向かおうと思っている。エィカがリュウカンと面会したいそうだ。逮捕されたばかりの容疑者と面会できるかどうかはわからんがな」

「功労者のサイガが同伴なら可能でしょう。今の時間なら、お兄様もいるはずですから、そこは心配無用ですわ」

「お待たせいたしました。メインの料理でございます」

 頃合を見計らって、料理が運ばれてきた。肉、魚、麺、各五十皿。テーブルに乗り切らない分がカートに控える。

「私は最後の検査で異常がなければ、夕方にも退院いたしますので、次は外で会いましょう」

「ああ、楽しみに待っているよ。では失礼」

「じゃあね、リン様」

「失礼致します」

 別れの挨拶を済ませると、三人はレストランを出た。

読んでいただき、ありがとうございます。

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