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第04話 「村」(ストーリー)

 セナの後に続き森を歩くこと約一時間、二人は森を出た。

 道順を知らなければ出られないという、セナの言葉どおり、その経路は獣道どころではなく、ただひたすらに藪の中を突き進むのに近いものだった。

「なるほど、こんな道なき道を進まなければならないとなると、正に迷いの森だな」

 森を振り返りサイガがつぶやく。

「それだけじゃないよ。森全体にも加護があるからね。害悪な存在は道を知ってようが出られないのさ」

 またしても加護。加護の対象は人間だけではない。サイガはその情報を咀嚼して飲み込んだ。


 森を出て三十分ほど歩いたところでセナの村へと到着した。

 広さは視界の範囲で捉えられる程度で、家屋は平屋の家が三十軒、村の奥に目立つ二階建ての家が一軒。おそらく長の家だろう。そして、村を取り囲むように、過剰なまでの面積の見渡す限りの畑が広がっていた。

 歩を進めて村の中央、憩いの場であろう長椅子の置かれた広場に、セナはガロックを置いた。巨体が地面を叩いて豪快な音を鳴らす。

「さあ、今日は大物だよ!みんなでいただこう!」

 大声でセナが呼びかけると、家々から住人たちが姿を現しはじめた。その全ての住人がガロックの姿を見るや喜びの声を上げる。

 住人達が広場へ集まるのを見つつ、首の刀傷を隠すためにセナはガロックの首を落とした。


 村への道中、サイガはセナに一つ頼みごとをした。先ほどのガロックをしとめた技を、他言無用にということだ。咄嗟のこととはいえ、披露してしまった忍びの技。その刀傷の鮮やかさはサイガの技量を示す。それは、何も知らぬ旅人を通したいサイガに、いらぬ勘繰りを誘うことになりかねないからだ。


 住人達が広場に集合すると、皆が手際よく宴席の準備を始める。手馴れた者がガロックを切り分け、男達が机を運び、竈を築き火をおこす。女達が皿を並べ子供たちを席へつかせた。

 大きな獲物が獲れた日は村で分け合うのが慣習なのだろう、一連の流れは手馴れたものだった。

 宴が始まるとそれは大いに盛り上がった。切り分けられた大量の肉を各々が調理して食し、サイガとセナの二人はそんな獲物を仕留めた宴の主役として、宴席の中心で多くの村人達と言葉を交わした。その中でいくつかわかったことがあった。


 この村が、ルゼリオ王国の西端にあるクエール領のさらに西端の村ハーヴェで、村人は総勢五十人程度あること。

 クエール領が国の農作物の約二割を担う大規模な農村地帯であること。そしてそれは豊穣の加護によってもたらされているということを。


 またしても登場した加護という言葉。

 サイガは長い間、疑問にあった加護について尋ねた。

「加護とは一体どんなものなのです?セナの怪力、一地域で国の二割を担う収穫量。それは人や村を問わずあらゆるものに与えられるものなのですか?」

「なんだあんた、加護を知らないのか?そうか、異国では加護がないのか。そうだな、え~~~~と・・・」

 村人の男は言葉を止めて考え込んだ。男が言うには、ルゼリオの国民なら知っていて当然のことで、説明するということを意識したことなどないということだった。

「わからないことだったら俺に聞くよりも、ホレ、あそこに座っている村長に尋ねてみるといい。この村で一番、ものを知ってる」

 男の指差した先には、椅子に腰を下ろし村人達を談笑をするしながら、穏やかな表情で、宴にはしゃぐ子供達を見守る老人の姿があった。

 サイガは席を立つと、老人の正面に立ち自己紹介をした。

「長老殿ですね。私は旅の者でサイガと申します。博識とお聞きして、長老殿ならば私の抱く疑問に対する答えがいただけると思い、お話を伺いたく参りました」

「そうですか。私はこの村の長を務めております、ロルフと申します。さて、この老骨がお役に立てるのであれば、出来る限りの協力はさせていただきましょう」

 村長の言葉を受けて、サイガが「では」と切り出そうとしたが、長老は掌を静かにかざし、サイガを制した。

「では今夜、私の家へお越しください。そこでお話をさせていただきましょう。そのほうが、あなたにとっても都合がよろしいでしょうから」

 長老はそう言うと、立ち上がり広場を後にした。サイガは妙な既視感を覚えながら、その姿を見送った」


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