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第45話 「怒涛」(バトル)

 四つの竜巻が唸りをあげて、怒れる忍に襲い掛かった。

 風の力を使い、空中に浮遊した状態から放たれる拳足の打撃は、予備動作や構えを必要としない。纏った小竜巻が攻撃を加速し、威力を高める。

 右拳、左拳、右拳、左拳と左右の連撃かと思えば、突き出した拳のままで深く進んでくる。上下左右と角度を変えながらの三十連続の前廻し蹴りを防ぐが、四肢に発生している竜巻は激しく防具や体を抉ってくる。

 最早、人間を逸脱したその動きは、サイガの経験の多さの裏をかくかたちで効果を発揮していた。予想や反射といった、経験に基づいた感覚的なものが一切通用しないのだ。

「旦那、どうしやした?防戦一方になってますぜ。もう諦めて刀を納めなせえ」

「偽りの力で調子に乗るな!こんなものに屈する心は持ち合わせていない!」

 降伏を誘う言葉に怒りを孕ませた言葉で返すが、防戦一方なのは事実だ。

 反撃を繰り出そうとするも、竜巻の勢いと風に阻まれ、刃が届くことはない。反対にリュウカンは素手よりわずかに延びた射程と側面の、通常の攻撃とは別の角度からの追撃で、命中させずとも体力を消耗させてくるのだ。


 リュウカンの足が大きく天へ伸びた。その足がすぐさまサイガの頭上へと急降下する。かかと落としだ。

 襲い来るかかとをサイガは後退して回避する。

 かかとが地面を叩いた。続いて、足の竜巻が激しく螺旋を描くと、地面をえぐり砂利をとばす。

「っとと、ちょろちょろと避けなさる。その身軽さは厄介だね」

 体勢を立て直しながら、リュウカンは距離をとったサイガを見据える。

「そんなら、これでどうですかい?」

 即座の追撃を警戒するサイガに、重心を落とし姿勢を安定させたリュウカンは両の手首を合わせ掌で口の形を作ると、両腕の竜巻を手の周囲で合流させ、前方に打ち出した。

 二重となった竜巻が龍の形となってサイガを襲う。

 拳法使いから風の龍を打ち込まれるという予想外の攻撃に、サイガの判断は遅れた。正面から龍に飲み込まれると、内側に向かう風の力で体を防御の体制で拘束される。

「うぐっぐうううううう」

 荒れ狂う渦が四方八方から礫を体に叩きつけてくる。

 サイガは腰を落とし、マントで体を包むと被弾面を減らすために身を縮ませた。だが、リュウカンの狙いはそこにあった。

 リュウカンは両膝をつくと、竜巻の回転を利用して移動を始めた。竜巻を車輪のように使用したのだ。

 膝立ちの姿勢でサイガの直前まで接近。右足の竜巻を加速させると、地面に接触した状態で滑り込むような右の足払いをかけた。

 低すぎる位置からの足払いはサイガの具足に衝突し、激しく火花を散らす。

 取り巻く竜巻とぶつかる竜巻。二つの竜巻に攻められ、サイガはこらえるためにさらに重心を落とす。

 足払いの姿勢のまま、リュウカンの体が横回転した。サイガに触れた竜巻の回転と出力を上昇させ、足を中心に回転させたのだ。

 軸足を地につけることなく、左の後ろ廻し蹴りが放たれた。発動位置から打点の距離が短いため威力は効果的ではないが、その足には深く強くえぐってくるドリルのごとき竜巻がある。

「まだまだ終わりやせんぜ。ここで畳み掛ける!」


 当てるだけで痛手を与えられる攻撃は、徐々にその手数を増していった。

 左足、右拳、左肘、右拳、左足、右足。自身の体も回転させながら大雑把な連撃を繰り出す。

 拳法の達人の攻撃は一つ一つが必殺の威力があり、受けるたびに体は後ろに押し込まれる。さらに竜巻は手に当たれば手を跳ね上げ、足に当たれば足を押さえつける。動きを制限してくる風は、サイガの回避、防御の動きを鈍らせ、体に傷を増やす。

「腕が邪魔ですな、旦那!」

 リュウカンが回転する両腕で、守りを固めるサイガの両腕を挟んだ。竜巻が上方向への回転を加速する。

 風はサイガの腕を上方に跳ね上げた。胴体ががら空きになる。

「なん、だと!?」

 サイガの脳に『死』の一文字が去来した。この状態から考えられる攻撃は唯一つ、両腕の竜巻による圧殺だ。

 その予想は的中した。リュウカンは両腕でサイガの胸を左右から挟むと、竜巻を右を上方向に、左を下方向に加速させた。双方向に走る力がサイガの体を引きちぎらんばかりに捻りあげる。その勢いに、サイガは後方に弾き飛ばされた。

 痛みの中にあっても体は反応し、何とか受身を取る。追撃を警戒し、すぐさま前を見据えた。

「旦那、何か着込んでますな?どうにも技の決まりが悪ぃや」

「ああ、ライフルの弾も受け止める特殊繊維製だ。幾度となくおれの体を守ってくれた。その程度の風や攻撃ではおれの命には届かない。そして、お前の攻勢もこれまでだ」

「なに?」

「お前の力、底が知れた。終わらせるぞ」

「ふっ・・・面白い冗談を言いなさる。そんじゃあ、やってもらおうかい!」


 サイガの言葉に乗って、リュウカンは襲い掛かった。

「底が知れた」という一言が神経を逆撫でたのか、リュウカンは小細工を弄した。四つの竜巻を操作し、体の位置を不規則に入れ替えながら距離を詰めたのだ。正面から上下左右と消えては出て、瞬間移動のように動き回る。その動きはまさに神出鬼没だった。

 姿を消したリュウカンは警戒するサイガの後方上部に出現した。体勢は最大の威力を誇るであろう、かかと落としだ。

「大口のわりには反応が遅い。もらった!」

 後頭部めがけて竜巻を纏ったかかとが振り下ろされた。しかし、そこに的としたサイガの頭は既に消え去っていた。大きく外れた一撃は空を切りリュウカンはその場に着地する。

 サイガは前に倒れるかたちでかかとを回避していた。そのまま倒れながら体をひねり反転させると、首跳ね起きの要領で両脚の蹴りを、着地して無防備のリュウカンの胸に叩き込んだ。蹴りとは思えないような重い衝突音が発生する。

 「ごふっ!」と、リュウカンの肺から押し出された空気が口から漏れた。

 さらにサイガは上体を起こすと、静かにたたずむ。

「どうした?後ろをとって外すとは、目でもつぶっていたか?」

「な、く、だったら、もう一度」

 リュウカンは再び構えた。が、その眼前には既にサイガの飛び膝蹴りが迫っていた。回避が間に合わず、膝の直撃を鼻にもらった。

「ぐ、は、速い・・・」

 大量の鼻血が流れ出て、たまらず数歩後退する。

「言っただろう、底が知れた。と。もうお前の攻撃はおれには届かない」

「これならどうだ」

 苦し紛れか、リュウカンの両手が再び口の形になった。風の龍を放とうというのだ。そこに、両端に鉛の玉がつけられた鉄線が投じられた。

 鉛玉は鉄線と共に竜巻に吸い込まれると、指と腕に絡みついた。乱れ舞う風がその複雑さを助長する。

 リュウカンの両腕は絡み付いて、その動きは封じられた。

「しまった、風で絡まっちまった」


 密着した腕に気をとられ、上半身の守りが手薄になった。開いた喉に鋭い前蹴りでつま先が刺し込まれた。

「げぅっ!」

 嗚咽のような声を漏らして、のけぞり倒れた。しかしその背は地面に着くことはなかった。

 精霊の起こした風が体を支えたのだ。抱きかかえるようにその身を起こす。鼻と喉には風が舞い、傷を癒していた。

「ありがてぇ、こいつは気兼ねなく闘えまさぁ」

 たれた鼻血をぬぐい、風の精霊に愛される男は笑みを見せた。

「そうか、だったら存分にいかせてもらうとしようか」

 余裕の言葉を受け、サイガが動いた。一瞬で姿を消すと、一瞬でリュウカンの頭上に現れ、脳天にお株を奪うかかと落としを叩き込んだ。

 鉄槌のごとき一撃で、ごく短い時間、一秒にも満たないほどだがリュウカンは意識を失った。即座に頭を振って立て直す。

「闘いに水を差して汚すような連中には、徹底的に教えてやるとしよう。不純な力など、何の役にもたたんということをな!ここからは地獄だぞ!」

 底が知れたという言葉の意味と攻防が逆転した理由もわからぬまま、サイガの反撃はさらに勢いを増した。

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