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第40話 「異界人サイガ」(ストーリー)

 ギルド奥の応接室に通されたサイガ一行、六姫聖リン、市長秘書メリウス、ギルド支部長オルトスの六人は、サイガ達と向かい合う形で、三対三でテーブルについた。

「さて、依頼というのは現在この市が抱えている重大な事件についてです」

 リンが口を開いた。その表情には初対面の印象を覆すようなまじめさがある。

「クロストでは三ヶ月前より連続殺人が起こっています。これをご覧ください。これはその殺人事件の死体報告書です」

 テーブルの上に紙の束がさしだされた。サイガが手にとって目を通す。その内容に眉をしかめた。

「この殺害方法はずいぶんと不可解な・・・」

「ええ、内臓と骨を攻撃するという、並みの冒険者や魔法使いでは不可能な芸当ですわ。そして昨日、私はその犯人と遭遇し戦闘を行いました。その男は報告書にある通り、私の骨を外し、内臓を攻撃してきました。その際、男の風貌を目の当たりにしたのですが、その姿がサイガ様あなたと酷似しておりました」

 リンの指摘にサイガの手が止まった。全員の視線がサイガに注がれる。

「そ、それは、サイガが犯人って言いたいんですか?」

 セナが動揺して口を挟んだ。エィカとメリウスも不安げな表情でリンを見る。

「いえ、そうではありませんわ。でしたら依頼などと申さず、力尽くで強引に連行します」

 リンはサイガを笑って見つめる。

「確かに。では、その男の風貌が似ているという話は一体どういう意味が?」

「・・・」


 サイガの質問にリンは沈黙した。次の言葉を探っているようだ。

「・・・要点をぼかしたままでは、本題に入れませんので単刀直入に申し上げます。サイガ様、あなた、異界人ですわね」

 応接室に緊張が走った。サイガとリンは目を合わせたまま動かず、周囲の四人は驚きで空気が固まる。

「え?い、異界人って、あの、別世界から来たって言われている?都市伝説じゃないんですか?」

 沈黙を破ったのはメリウスだった。

 メリウスの都市伝説という発言にリンは首を振る。

「いいえ、異界人は存在しますわ。それも約二十年ほど前から確認されています。その容姿はまちまちですが、多くの場合は我々と異なった人種で、未知の技術体系をもちます。そう、サイガ様、あなたのようにですわ」

 リンの指摘にサイガは目を閉じて息を吸った。意を決して口を開く。

「確かにおれは異界人です。十日ほど前、任務の最中に謎の光に包まれ、気付いたときにはこの世界の森の中にいました。そこでセナと出会い、村で世話になり、今に至ります」

 言い終えて、サイガはリンから目を放し、セナを振り向く。

「これまで黙っていてすまない、セナ。騙すつもりではなかったんだ」

「気にしてないよ。どこの世界かなんて関係ないさ。サイガはサイガだよ」

「そうです。この世界のいやな人より、サイガさんの方がよっぽど素敵な人です。少なくとも私はサイガさんに出会えて良かったと思ってます」

「ありがとう。二人にそう言ってもらえるなら、何より心強い」

 二人に感謝を伝え、サイガはリンに顔を戻した。その光景にリンは微笑んでいた。

「それで、サイガ殿とその犯人の装いが酷似していることに、リン様は何か見出されたのですか?」

 オルトスが話を主題に戻した。再びリンの顔が引き締まる。


「ええ。犯人とサイガ様が同じ異界人の同じ人種。多くの点が似てらっしゃるので、何か交流のある方に心当たりはないかと思ったんですの。もしくは骨を外すという奇怪な技への対処法をご存知かと思いまして」

「心当たりですか・・・もしや・・・」

 サイガは「酷似した装いの異界人」「骨を操る闘法」一人の人物の顔が思い浮かんだ。和装の整体師リュウカンだ。

 リュウカンはサイガの体の痛みを、わずかの手数で解消しそれを肉と骨の関係を知ることと言った。報告書の死体の状況は、昨夜の施術によって自身におこった、不思議な感覚に良く似ていたのだ。

「心当たりがおありのようですわね。その方の名前、お聞かせ願いますか?」

「それは・・・」

「まさか、リュウカンさんですか?そんな馬鹿な!?」

 サイガがリュウカンの名前を口にする前に、メリウスが悲鳴にも似た声をあげた。

 リンから出されたヒントから、同じ答えにたどり着いていたのだ。

 昨夜のリュウカンに対する態度から、メリウスはリュウカンに対して心酔に近い信頼を寄せているようだった。それだけにこの展開に脳が理解を拒んだのだろう。

「落ち着いてください、メリウス殿。そうと決まったわけではありません」

 オルトスが肩に手を置き、声をかける。一瞬で顔色をにごらせたメリウスを椅子に座らせた。


「リン殿、自分は元の世界にいた時、暗殺や諜報に関わる任に就いていました。その中で、『抜骨術』と言われる殺人術を耳にしたことがあります。概要は先ほどからあるように骨を操る殺人術。その殺人の精度は自分の大きく上回ります。この二十二人の犠牲者がその証明です。もし、闘うとなれば無事ではすまないでしょう」

「それは身をもって思い知りましたわ」

 リンはブラウスの胸部に両手をかけると胸骨の部分を開いて見せた。昨晩、リュウカンの抜骨術を打ち込まれた箇所だ。そこには外され、浮き上がった胸骨の跡がくっきりと残っていた。

 全員が声を失った。その中で、サイガだけは身を乗り出してその痕を凝視した。

「これは、話には聞いたことはあるが、これほど見事とは・・・」

 サイガは始めて見る抜骨術に我を忘れて心を奪われていた。右手が上がり指が差し出され、今にも疵跡に触れようと手が伸びる。

「サイガ、なにやってんだい!」

「乙女の胸になにをしてるんですか!?変態!」

 セナとエィカ、二人の拳がサイガを襲った。特にセナの拳は頭が沈むほどの勢いだった。

「す、すまん、あまりの見事な技に我を失った」

「ふふ、構いませんわ。私も魔法で消せる疵ですが、あえて残しております。それぐらい、戦いを好むものにとって芸術的な美しさですのよ、これは」

 リンは胸を閉じた。


「それで、ここからは本題である依頼の内容になりますわ」

 リンは襟を正して前をサイガを見た。

「昨晩は私は殺人犯と対峙し、その容姿を確認いたしました。そして、今のサイガ様の証言から、犯人は整体師のリュウカンと目星をつけております」

 リンの言葉にメリウスがつばを飲む。何か言いたそうだが、今は黙った。

「さらに犯人は昨晩、私との戦闘で顔を見られ打撲を負っております。そうなれば捜査の手が迫ることも覚悟をしているはずです。そう考えれば、追いつめられた犯人が取る方法は一つ」

「なるべく多くの目標を道連れ・・・か」

 サイガの結論にリンは黙ってうなずく。

「これまでの犠牲者は、例外なく、ならず者の冒険者達。昨晩のゲーツ一味も、悪名高い連中ですわ」

「なんと、やはりそうでした。ギルドでも噂はされてましたが・・・全員が・・・」

 リンの語る事実に、オルトスが呟く。

「そして先ほどの連中の発言から、ここ数ヶ月で市に増えたならず者の冒険者達はギドンに手引きをされていると考えられます」

「た、確かに、あいつらはいつもギドンの名前を口に出します」

「ギドンは次期市長選の対立候補。いうなれば、現市長の敵。そして、その敵に飼われる冒険者が殺人事件の被害者」

「その殺人事件の容疑者は、市長に命を救われた大恩を抱く整体師で拳法の使い手のリュウカン」

 リン、メリウス、リン、サイガと推理がつながっていく。

「ま、まさか・・・リュウカンさんが、市長のために冒険者を殺していると?・・・そ、そんな・・・」

「まだ推論の段階ですわ。事実は容疑者を捕まえて追及しなければ判明いたしません」

 しおれるメリウスをリンがなぐさめる。


「そこでサイガ様、あなたに依頼いたします。『今夜行われる容疑者リュウカンの捕縛への参加要請』お受けいただけますか?」

「そんな、リュウカンさんがそんなことすはずありません。何かの間違いです!」

 サイガが返事をするより早く、メリウスが声を上げた。悲哀に満ちた声は震えている。

「メリウス殿、信じたいあなたの気持ちは良くわかります。ですのでその容疑を晴らすため、一度本人に話を伺ってみるべきです。リン殿、その依頼お受けいたします。犠牲者が悪人だけとはいえ、殺人が続く場所では市民も安心出来ないでしょうから」

「お受けいただき、感謝いたしますわ。あ、それと、私のことは殿をつけず、リンとお呼びください。作戦の際にはそのほうが伝達が早くなりましょう」

「そうですね。では、自分のこともサイガとお呼びください」

「ええ、そうさせていただきます。あと、堅苦しい言葉も無しとしましょう。ね、サイガ」

「そうだな、リン」

 二人は軽く笑うと、依頼の契約を交わした。

 これが、冒険者サイガの初仕事となった。

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