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第03話 「加護」(ストーリー)

 わずかに痙攣する鹿へ視線を落とし、「南無阿弥陀仏」とサイガが短く経を読んだ。葬った命へのせめてもの敬意である。

 サイガが女へと向き直った。一瞬での命のやりとりに呆気にとられている女に「大事はないか?」と声をかけようと歩み寄った。

 しかし突如として、その二人の間に割り込むように二匹の異形の鹿が茂みから躍り出た。討たれた仲間を認識したのだろう、敵討ちとばかりに強い敵意をその角と牙に宿らせ、むき出しの殺意でサイガに狙いを定める。

 獣の攻撃に小細工はない、直進するのみだ。サイガは静かに最小限の動きで二匹の右側面に回りこむと、一匹の右目に小手から針を発射した。人間相手なら即座に昏倒させるほどの薬を仕込ませた針だ。しかし人間よりも圧倒的な筋肉量の獣ではそうはいかない。サイガの反撃は、獣から視界の半分を奪い自身を標的から外すにとどまった。

 傷みにもだえる獣を尻目に、サイガは再び刀を抜いた。その意識と体は既に二匹目に向いている。

「ガァアアアアア!」

 二匹目の獣に攻撃を仕掛けようとするサイガを静止するように、絶叫があたりに響いた。絶叫の主は二匹目の獣だった。サイガが攻撃をするよりも速く、女が握りしめていた鉈で獣の顔を横向きに振りぬいたのだ。獣の顔は半分がひしゃげ、原形をとどめない。



 獣が二匹そろってサイガと女に背を向けた。二人の反撃に仲間殺しへの恨みを忘れて、戦意喪失し逃げ出したのだ。

「逃がすか!」

 サイガが止めをさそうと、追撃のために体勢を立て直した。

「待った。必要ないよ!」

 突然の人の声にサイガは体を硬直させた。謎の光に包まれ、見知らぬ森を迷った果てに聞いた人の声。おかれた状況もあってか、その抑止力は強く、サイガの動きを急停止させた。

 一歩踏み出していた足を戻し、声の主の女へと顔を向ける。

「一度、背を向けたガロックは人は襲わないよ。それに、あれだけの怪我だ。もう獲物も獲れやしない。あとは自然に還るだけさ」

 女はガロックと呼んだ二匹の獣を見送るように言うと、顔をサイガに向けた。

「助かったよ。私には力の加護があるけど、流石に荒ぶったガロック三匹は危ないからね」

「ガロックの次は加護か」

 サイガは心の中でつぶやいた。立て続けに発せられた単語に、文脈から理解を追いつかせようとしているのだ。しかし、単語以上に気にかかることが発生した。女の容姿だ。服装や顔立ちが、日本人のそれではなかったのだ。

 特に服は簡素な作りで、まるで中世ヨーロッパをモチーフとした創作物に出てくるような服装なのだ。

「私はセナ。あんた冒険者かい?」

 セナと名乗った女から、冒険者というまたしても聞きなれない言葉が出てきたが、サイガは話をあわせることにした。

「俺はサイガ。冒険者ではないが、旅の途中でこの森に迷い込んで出られなくなってしまったんだ。そして出口を求めて彷徨っている途中で先程の場面に遭遇したんだ」

「なるほどね。ここは迷いの森だからね、正しい道順を知らない者は死ぬまで迷い続けることになるのさ。私が外まで案内するよ。それに、もう日も落ちる。今夜は私の家に泊まっていきな。助けてもらった礼もしたいしね。そして、こいつ・・・よっと!」

 言い終わる前にセナが体をかがめてガロックの体を掴んだ。その直後、跳ね上がるように宙を舞った。セナが両手で軽々と持ち上げたのだ。

「な・・・」

 闘牛にも匹敵するほどのガロックの巨体。膂力が一般の成人を圧倒的に凌駕するサイガですら、一人で運ぶには台車や器具を用いることになる。そんな巨体を若い女が手荷物を扱うように持ち上げ、肩に乗せて悠々と歩き出した。サイガは言葉を失った。

「まさかそれも」

「そう、力の加護だよ」

 サイガの質問に笑顔で答えると、セナは肩の上の荷物の重量を感じさせることもなく前へと進んでいく。あっけにとられながらも、サイガはそれに続いた。

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