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第37話 「ねぼけ」(ストーリー)

 朝の日差しが、瞼の上からセナへ目覚めを促す。

 昨夜、ベッドに入ったセナとエィカは横になった途端、おしゃべりをする間もなく、深い眠りに落ちた。それほどの疲れが蓄積するほど、その一日はめまぐるしかったのだ。

「ん・・・ん・・・え、朝?う~ん・・・いつの間に寝ちゃったんだろ・・・」

 セナは今だ夢半ばの頭で朝を迎えたことを覚ると、目を擦るために左手を動かそうとした。が、左手が何かにぶつかり動きを阻害された。

 顔を左腕に向ける。

「げ!あんた、なにやってんだい?」

 セナは濁った声で悲鳴を上げた。視線の先では上半身裸のエィカが腕を抱きしめていたのだ。

 エィカを起こそうとセナが腕を揺さぶる。だが、エィカの眠りは相当深いのか、頭が左右に振れるほどの揺れにも目を覚ます気配は一向にない。それどころか、刺激されたエィカは腕を手繰り寄せるように、さらにセナの体にしがみついてきた。

「うう~~~ん、だめぇ、もうちょっとぉ」

「ちょ、ちょっと、エィカ・・・」

 セナの体を抱き枕の類と間違えているのか、虚ろなうめきを発してエィカはその半裸の体をセナに絡みつける。

 金色の柔らかい長髪が頬に当たる。腕はさらに侵攻を続けると、右腕を背に、左腕を顔に回して、全身を使って強く抱きしめた。小ぶりではあるが、滑らかな胸の感触が直に顔に伝わって、腹部が優しく腕をなでる。

「ひ、ひぃいいい・・・や、やめてくれぇぇえぇ。サイガ、サイガ、たすけて・・・って、い、いないぃ・・・」

 力任せに剥ぎ取ろうにも、動揺と寝起きで回らない頭では、セナは戸惑うことしか出来なかった。そこにサイガが不在という現実が、より拍車をかけた。

 

 硬直するセナの体を、エィカが全身を使ってさらに締め上げだした。

 足は胴をはさみ、裸の上半身が頭を抱きかかえる。

「あ、あ、ああああああああ」

 セナの精神が発狂寸前まで追い込まれたところで、エィカの鼻を柔らかい風がなでた。

「えくちっ」と、小さなくしゃみをする。その勢いでエィカは目を覚ます。

「ふぇ?あれ、なんだか肌しゃむい・・・」

 「肌寒い」と言いたいのだろうが、寝ぼけた頭ではろれつが回らない。

「目、覚ましたかい?」

「え?きゃあ!セナさん、なんで?え、え、私、裸?なんでですかぁ?」

 肌寒い背中に対し、腹側はやたらと温かい。その原因と声の主が同一のものと覚った時、寝ぼけ娘から一気に眠気が吹き飛んだ。

「なんでって、そんなの私が知るわけ無いだろ?目が覚めたときには半裸のあんたが私に抱きついてたんだよ」

「あ、そっか、きっとお風呂上りで熱かったから、寝てる間に脱いじゃったんですね」

 シーツで体を隠しつつ、エィカが考察する。

「そうなのかい。じゃあ、エィカは風呂上りに寝るといつも裸になっちまうのかい?」

「いえ、普段は風の精霊さんが周りの空気を調整してくれてるんですけど、昨夜は何故か精霊さんが返事をしてくれなくて、体温の調節ができなかったみたいです」

「それであのざまかい」

「はい、すいません。お見苦しいところを・・・」

 エィカは気まずそうにうつむく。

「いや、いいさ。気にしてないよ。ところでさ・・・」

「はい?」

 ここでセナの表情が妖しく変化した。その顔にはよからぬ思惑が見える。

「あんたの肌、ずいぶんさわり心地良いじゃないか。お詫びにちょっと堪能させておくれよ」

「え?え?え?ちょ・・・え・・・いやーーーっ!」


 エィカの抵抗むなしく、今度は逆にセナがエィカの体をもてあそんだ。

 先ほどのお返しと言わんばかりに、シーツを剥ぎ取るとベッドの上に押さえつけ、露となった上半身の首からへそ、手から脇まで、そのきめ細かさをむさぼるように撫でる。その仕草は、いつものがさつさが嘘のようだ。

「へぇ、全身すべすべで柔らかいんだね。うらやましい」

「そ、そんなことないですよ。セナさんもきれいな肌ですよ」

「なに言ってんだい、全然違うよ。特にうなじや背中なんて手が滑るようだよ。ほら、ここ・・・」

 これ以上セナに攻められないよう、エィカは気をそらそうと話題の主軸をセナに移そうとするが、それがかえってセナの追及を呼ぶかたちになってしまった。

「あっ、やっ、首筋は弱い・・・ゆっくり、撫でないでぇ、んんっ」

「ほらほら、私の気持ち少しはわかったかい?」

「わかりました。わかりましたからぁ・・・」

 全身を紅潮させて悶えるエィカに意地悪な笑顔を見せながら、セナはその指を体の中央、胸の先端へと蛇が這い寄るように進めた。

「そしてここも。こぉんなに綺麗な色」

「や、やめてぇつままないでぇ・・・」

「こんな朝からなにをやってるんだ、お前たちは」

 まるで毒牙のような指先が、冗談ではすまなくなる場所まで近づいてきたとき、男の呆れた声が入り口から聞こえてきた。朝の修練を終えたサイガが部屋へ戻ってきたのだ。

 あわてた二人が、跳ね回らんばかりの勢いで、シーツに包まり隠れる。


「きゃあああああああ!」

「な、な、なんだよサイガ。勝手に部屋に入ってくるんじゃないよ変態!」

 痴態を見られたあまりの恥ずかしさに、エィカは顔を火のように赤くして悲鳴を上げ続ける。セナはシーツから顔を出すと見当違いな苦情を吐いた。

「何を言っている。そもそも三人同じ部屋だろう。それに、はしたない声が外まで聞こえていたぞ。文句言いたいのはこっちだ。おれまで変態だと思われる」

「・・・ごめん」

「す、すいません・・・」

 二人はすっかり意気消沈した声で謝罪を口にした。

「まあいい。食事の準備が出来たそうだ、食堂に行こう。食事が終わったら、午前中は装備を整えるための買い物だ。今日は忙しいぞ」

 そういい残すと、サイガは一足先に食堂前のロビーへ向かった。

 扉が閉まるのを見届けると、二人はベッドから出て着替えを始めた。

「セナさん、さっきのまさか、本気じゃないですよね?」

「と、当然だろ。冗談、気の迷いだよ!」

「ですよね」

 セナの答えに、エィカは安堵の息を吐いて胸をなでおろした。一方、セナは自戒の念に押し潰されそうなほど自己嫌悪に陥った。

「はぁ」と二人揃って、深いため息をついた。

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