第365話 「強者拮抗」(バトル)
「こいつら、強い?」
超将軍のリースとクザートに同時に斬撃を浴びせたサイガだったが、その手応えから二人の実力を読み取った。
加減のつもりは一切なかった。しかしそこは超将軍、リースは致命傷を避け、クザートは既に一撃を受けながらも被害を両腕でおさえていたのだ。
そして相手を強者だと判断したのは超将軍の二人も同じだった。
気配を察知させることなく二人の間に現れ先手をとる。それだけで抜きでた実力が伝わってくるうえ、効果的な攻撃を同時に浴びせる。本能と経験を存分に刺激された一瞬だった。
「おもしれぇ!てめぇ、俺たち二人同時に相手するつもりか!?」
「少し違う。相手をするつもりではなく、まとめて始末する。が正しいな」
「言ってくれるなぁ・・・」
仮定ではなく、断定し言い切る。挑発を込めた自信の一言だった。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ、『フィンティー』!」
クザートが叫ぶと、左右の肩口の切断面からアンカーが飛び出し、斬り飛ばされた腕の切断面を捉えた。
アンカーがウインチによって急速に巻き上げられた。腕が引き戻され元の位置に収まる。まるでプラモデルの組み立てのようだった。
「貴様、サイボーグか」
「おうよ、ビス一本にまで解体さねぇと死なねぇぞ!そうら『シャックアン』!」
腹のシャッターが開いた。無数の鋭い釘が散弾形式で高速発射された。
蜂の巣。クザートの脳裏にその言葉が浮かんだ直後、遠方から音速で飛来してきた氷の弾丸がサイガの前に着弾し、氷の壁を形成して全ての釘を食い止めた。
「氷?くそ、これも六姫聖か!」
クザートが遠方を睨む。そこには、氷の道を滑走しながらスナイパーライフル形態のハチカンによって狙撃を成功させたナルの姿があった。
『氷郭飛沫』(ひょうかくしぶき)。着弾の衝撃で発生した氷の飛沫を繋いで壁を作る防御魔法だ。
「あの距離で移動しながらだと?なんて腕してやがんだ!?」
ナルの正確無比な狙撃の技に意識を奪われるクザート。
サイガはその隙を突き、すかさず右に回り込むと忍者刀の鋭い一閃で腕を斬り飛ばし、さらに連続で刃を浴びせて微塵に刻んだ。
「確かに、ビス一本まで刻んだら修復できないようだな」
「そこまでやれとは言ってねぇよ!」
クザートの残った左手の指全ての先端からバーナーのように炎が吹き出した。
「裂けろ!『パンドランカ』!」
掌を開き、炎の爪で引っ掻くように左腕を振ると、強烈な熱波が空を引き裂く。
サイガは警戒、跳び退り距離をとる。
一瞬圧倒されたとはいえ、クザートも只者ではない。サイガはそう認識を改めた。
◆
メイが怒りの魔法を乱れ撃つように発動させる。
高熱の塊を高速で投げつける『ヒートメテオ』。
炎で作った牙を噛みつかせる『バーニングバイト』。
巨大な燃え盛る足で踏みつける『サラマンダースタンプ』。
溶岩を飛び散らせる『マグマスプレッド』。
火炎の上昇気流に巻き込む『レッドツイスター』。
どれも高位の魔物ですら一瞬で炭に変える即死級の高等魔法だ。
魔法と武術の相性は悪い。
徒手による近接戦闘を主とする武術のに対し、遠近両方からの攻撃が可能のうえ天候、事象まで操ることができる魔法ではそもそもの土俵が違うのだ。
さらにそれが国内最高峰の魔力量を有するメイ・カルナックの炎ともなれば、怒涛の連撃はリースから戦況を打開する手段を失う。
「こ、これが魔炎メイ・カルナックか・・・本体はただの女だが、こうも強烈な炎を繰り出されて、近づくことままならないか・・・」
リース・モーガンは武の達人。近づきさえすれば必殺の確信もある。しかし炎の威力は接近を許さないのだ。
「やれやれ、どうやら少し本気を出すしかないようですね。余計な消耗は避けたかったのですがね」
全ての炎攻撃を軽やかな身のこなしで躱しながら、リースは意を決して呼吸を整えた。
リースは本来、必要以上に拳を交えるつもりではなかった。
リンを戦闘不能に追い込んだ時点で身を引く流れだったのだが、邪の涙の暴走によって事態をのみ込めぬままメイとの戦闘に突入してしまっていた。
代償を伴わない帰還が不可能と判断したリースは、手の内を明かす覚悟を決めたのだ。
「本当は、もっと大きな戦いの奥の手にしておきたかったんですよ」
リースが軽やかなつま先立ちの回避の足取りから、一転して足裏全面で地を捉えた構えに切り替わった。それを切っ掛けに身に纏う雰囲気も様子が変わる。
静から動。寂から騒。全く逆の印象を抱かせるものとなった。
「なにが本気よ、その前に消し去ってやるわ!バァァァニングゥ・ハンドォォオ!」
メイが爪をたてるように右腕をかざすと、その手を包むように巨大な炎の掌が出現した。
「だぁぁぁぁ!」
炎の掌を突き出した姿勢で、メイがリースに突進する。
「くらえ、バーニング・ハンド・ビーボールグラップ!」
炎の掌がリースに覆い被さり、握りしめるように閉じた。
ビーボールグラップ。蜜蜂が多勢で雀蜂を包み込み熱で殺す『蜂球』行動を模した技だ。
「さぁ本気っての、出せるもんなら出してみな・・・さ、い・・・?」
リースを包んだ炎の行く末を目にして、メイの言葉が勢いを失った。
炎が消えた。まるで幻や霞のように散って消えたのだ。
「ど、どう言うことよ?なんで、私の炎が消えるの?」
「言ったでしょう、これが私の本気ですよ」
余裕の顔で微笑み、人差し指をたてるリース。
「私は物事の『点』を見極め、それを突くことにより操ることができるのです。今のは、魔法の結束点を突いて分解させました」
「ま、魔法を分解?しかも私の魔法を?」
「おや、がら空きですよ」
「しまっ・・・」
予想だにしなかったリースの奥の手をメイが理解する前に、反撃が始まった。決着のために接近したのが、あだとなったのだ。
鋭い平拳がメイの腹部に刺さった。たまらず「げぶっ」と口から空気が漏れる。
超将軍からの一撃。しかし手応えは弱かった。
「浅い。防御魔法ですか」
「そうよ。『エクスプロードシェル』。外からの衝撃を爆発で中和する防御魔法。だけど、それでもなんて威力・・・ぐっ!」
中和してなお内臓を揺さぶるリースの拳の威力に、メイはたまらず上昇し空中に避難する。
「やはり身体は少し強い程度の女ですね。暴風の彼女と比べればまるで子供だ」
「と、当然でしょ。あいつと一緒にするんじゃないわよ。・・・けど、油断して近づきすぎたわね。こうなったら、拳の届かない上空から滅してやるわ!」
己を戒め、メイは気持ちを整えて冷静さを取り戻すと深呼吸をする。
「ハァァァァッ・・・ハァッ!」
肺から息を出し尽くし、気合いを込めるとアグニフォームが変化した。
炎の性質よろしく上向きだった肩や背の炎がさらに大きく高く荒ぶる。
「うぉおおおおおお・・・『カーリー・ブトゥーム』!」
右掌を突きだすと、大きく燃え上がった炎がそこに集中し巨大な火球を作る。
一角楼で発動させ、敵味方共に混乱に陥れたカーリー・ブトゥームだ。
「お、おい、メイ、その炎は・・・」
到着した早々、一角楼の悪夢を思い返したナルが焦り気味に声をかける。
「安心して、私もあの頃のままじゃないわ。ちゃーんと範囲と標的を限定して燃え続ける改良型よ!さぁ、いっけぇええええええ!」
灼熱の火球が手から離れ、地上のリースへと向かう。
「これは・・・さすがに手に余りますね・・・」
リースの額から一筋の汗が流れ、迫る炎の色がその顔を赤く染めた。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




