第363話 「交わる時」(ストーリー)
ルゼリオ王国中央に位置する『中央都市グランドル』。そこでは、各地での特級冒険者の引き入れの任務を既に終えた戦士たちが来るべき決戦の時に向けて、休息と研鑽を行っている。
あるものは長所を伸ばし、あるものは短所を補うため、内外へとその手段を求めていた。
六姫聖の一人、猫科の獣人に育てられた人間で『超獣』の二つ名で知られるミコ・ミコは、莢魔の壷において地獄の序列の二『蛮君ゾグラス』に恐怖を覚えた己を激しく悔い、精神を鍛えるために同じく六姫聖である『百眼鬼チェイス・ハーディン』に力を借りていた。
チェイスは魔力によって万を越える数の眼球を作り出しそれを同時に操る。
更に全ての眼球は視力を有しており、そこから得た情報を同時に処理するだけの頭脳の保有者なのだ。
そして魔力は『視る』という機能を反転させて『視せる』ことが可能となる。
ミコはその機能を使い、視覚的な恐怖と向き合っていた。
中央都市、王女シフォンの居城、白亜の城『姫城フェンク』の一階部に設けられた修練場。その中央でミコは闘衣の姿で一人佇む。その顔はいつになく真剣で緊張感を孕んでいる。
「始めるぞ」
少し離れた場所、ミコが暴れても被害の及ばぬ距離を確保してからチェイスが声をかけると、ミコは「にゃん」と頷いた。
「『心写・萎恐』(しんしゃ・いきょう)。これでミコの心の中にある、今一番怖いものを像として出現させる。本当に良いんだね?怪我をするよりずっと辛いが、泣かないようにね」
最後にチェイスが声をかける。彼女なりの思いやりだった。
「だ、大丈夫だ。ミコはあいつに勝たなければいけない。強くならないといけないんだ!にゃ!」
ミコが決意を口にすると、その目に黒い物体が映る。恐怖を植え付けた蛮君ゾグラスだった。これはミコの目にだけ視えるものだ。
「ゲゲゲゲゲ!ウキャキャキャキャ!」
人語を発さず狂った獣のように声をあげ、よだれを飛ばし頭を掻きむしる虚像のゾグラス。ミコの心に残る印象が投影されたための所作だった。
「う、うぅ~~・・・こ、こわ、こわ、こわ・・・くぅぅぅぅ・・・恐くない!ミコはお前をやっつける!」
恐怖を振り払い、ミコは奮い立った。前を睨み、両足は地を踏みしめ、拳は強く握られていた。
だが、尻尾と耳は少し萎れていた。
「威勢が良いけど、身体は正直ね」
「ああ、尻尾と耳が垂れきっているな」
修練場端のベンチに腰掛けながら、メイとナルが感想を呟く。
そこには他の戦士たちも顔を連ねる。戦闘力の上昇、戦力の強化は急務であり、関わる全ての者たちの関心事なのだ。
「ところでさ、シフォンどこいったの?お昼から見てないけど」
「それなら、ドクターウィルとセイカ殿と一緒に用があるとやらで地下に向かっていたぞ」
「セイカってあの考古学者?と、ウィル?それと一緒に地下って、あそこって用途不明の遺構しかないじゃない。なんの用があるのよ?」
「さあな。考古学者や科学者の視点から見れば意味があるんだろう。シフォンに同行を要望する様子を見ていたチェイスが言うには、存在を知っている様子だったらしいからな」
「ふぅん・・・考古学者がねぇ・・・もしかして、古代の兵器とかが封印されてたりして」
「まさか、そんなわけないだろう。ここは数代前からの王都だぞ。そんなものがあったら城を作った時点でとっくに見つかっている」
「そりゃそうか。あはは」
メイとナル。級友からの長い付き合いの二人の会話は軽妙だった。
その間も、ミコは心の中に住み着いた畏怖の権化と睨みあっていた。
◆
一方、地下では王女のシフォンが、特級冒険者にして考古学者のセイカ・ゴマの要望により共に遺構を訪れていた。
城の地下には、かつてこの地が王都だった頃から封印され立ち入り禁止とされる遺構があり、それはナルの言葉通り数代前から伝えられているものだった。
「姫様はこれについて、国王陛下から何か聞かされておいでですか?」
地下の一角、遺構を前にセイカがシフォンに尋ねた。
「いや、私はなにも。ただ、父上はこれを封じ続けいずれ亡失させよ。と・・・」
「なるほど。陛下はある程度ご存じなのかもしれませんね・・・それであえて・・・」
シフォンの答えを受けて、セイカは考え込む仕草でブツブツと独り言を始めた。
「で、それはなんなのだ?知っているのならば・・・」
「動いとるところを見たわけではないが、ワシらが知っとる情報だけで判断するなら、おそらく次元干渉装置じゃ」
遺構の一部、教卓のような形状の台座を調べながら、同行していたドクターウィルがシフォンに答える。
「じ、次元・・・干渉?」
聞きなれない言葉。シフォンは理解が出来ない。
「この世界を別の次元や異世界に繋げる装置。古代文明の残骸じゃ。いわゆるオーバーテクノロジーじゃよ」
「い、異世界に繋げる・・・。!ま、まさか!?」
ウィルの言葉を復唱したところで、シフォンは気付いた。
「そうじゃ、この国に異界人を召喚しているのはこの装置じゃよ」
「な、そ、そんなものが私の城の下に・・・?」
信じがたい事態にシフォンは目眩を起こし、壁に背を預けた。
「ど、ドクターウィル・・・私は、この装置をどうすれば・・・」
「わからん。この装置には特殊な処置が施されとって、操作はできるが、改造、分解、破壊といった手出しが出来んようになっとる」
先史の未知の技術に、感心したようなあきれたような物言いでウィルは見解を語る。
「では、人為的に異界人を招くことは出来ないということですか?もちろん仮定の話ですが」
セイカが尋ねてきた。いつの間にか装置に張り付き、判断できる範囲で調べている。
「現状見る限りにはの。どうするかは、コイツの機嫌次第だろうがな」
不用意に手出しできないもどかしさに足止めを食らったウィルの探求心が、悪態をつかせた。ついでに腹いせとばかりに装置を小突く。
ウィルの手が当たった瞬間、装置が光を放ち唸りだした。機械の駆動音が低く響く。
「う、動いた・・・ドクターウィル、一体なにをしたのだ?」
シフォンが軽率な行動に怒りをみせる。
「ち、違うぞ、勝手に動き出しただけじゃい。あの程度の刺激でこの装置が誤作動するものか。何かやろうとしとるんじゃ」
ウィルの読み通り、装置はその機能を自ら動かしていた。
『エリア零A地区カルカリニオイテ、判別困難ナエネルギーノ発現及ビ異常放出ヲ感知。規模、影響共二危険領域ト判断。対応マニュアル二基ヅキ、対象ヲ本設備付近ノエリア二召喚シマス。係員ハ直チニ対応ヲ行ッテクダサイ』
装置から聞こえてきた機械の合成音声が地下に響く。
「え、なに?この声!?どこから聞こえてくるの?」
「古代文明のシステムメッセージです。お聞きの通り、カルカリ地方からここに何かが送られてきます」
戸惑うシフォンにメッセージの意味を理解したせいかが説明する。
「姫様、ここの調査は一旦中止いたしましょう。今は異変に対応する必要がありそうです」
「そ、そうね・・・」
セイカに促されたシフォンは、後をドクターウィルに任せて地下を後にした。
残されたドクターウィルが腕組みをしながら装置を見つめる。
「どうやら、相当なじゃじゃ馬のようだの。どぉれ・・・腕が鳴るわい。完全に解析して、しっかり運用してやるぞい」
意気込みを口にすると、ドクターウィルは装置全体を掴み食い入るように観察し始めた。
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