第328話 「闇夜に生きるもの」(ストーリー)
宿場町の襲撃の最中、町の中心部には、建物内に避難しているはずの多くの住人たちが外に出て溢れ返っていた。
「どういうことだこれは?こんなところにいては巻き込まれるぞ」
到着し、混雑する中心部の様子を見たジョンブルジョンは驚きの声をあげた。
「た、助けてください!地下室に避難してたんですが、黒い影みたいな人間が入ってきて、女性を何人も切りつけてきたんです」
駆け寄ってきた住人がリンとジョンブルジョンに訴えかける。
「それがさっきの悲鳴ですのね。場所は?」
住人が震えた指で避難所を指す。
それを受けて二人が走る。
二人が避難所に踏み込もうとした瞬間、入口から黒い塊が飛び出してきた。
咄嗟に反応して、リンは拳、ジョンブルジョンは左腕を剣に変えて振り下ろす。
しかし黒い塊は粒のように散ると、攻撃を躱し、二人の後ろに回り込んで人の形となった。
「・・・黒い影、散らばる動き、さっきのヤツですわね」
リンが振り返りながら指摘する。南西部からエディックと共に侵入してきた際に取り逃がした男と同じ挙動だった。
「貴様、中で何をしていた!?」
右手の指を変化させた小型ミサイルを向けながら、ジョンブルジョンは威嚇混じりに問いただす。
「ヒヒヒ・・・捧げ物さ」
「なんだと?」
「偉大な神様が言っているのさ、血と悲鳴を捧げろってね・・・だから、死なない限界まで刻んで、傷つけて、血を流させて叫ばせるんだ。特に母娘がいいんだ。娘が傷つけば母親が叫んで、母親が傷つけば娘が泣くからね。神様も大喜びさ・・・ヒヒヒヒ」
口角を耳まで上げて笑うラミーラミー。その面相は邪悪な道化を思わせる。
「だったらキミを贄にしてあげるよ」
「誰だ・・・げぇっ」
ラミーラミーに後方から声がかけられた。その声に反応して振り返ろうとする。だがその直前に、一本の忍者刀がラミーラミーの口を後ろから貫く。
刃を上にして口から飛び出した切っ先から、赤い血が滴った。
「そりゃ」
小気味よい掛け声で刃が上へ走り、顔が縦に割けた。
顔を割かれたラミーラミーは二、三歩前へ進むと前のめりに倒れた。手足が痙攣している。
「これから大事になりそうだからさ、キミみたいな雑魚には構ってられないんだ。ゴメンね」
忍者刀の血を拭いながら、刀の主、ドウマが心のこもっていない謝罪を述べる。
刀を納めると、ドウマはリンとジョンブルジョンに顔を向けた。
「貴方、確かサイガの・・・」
一瞬の出来事に呆気にとられながらもリンが口を開いた。
「そう、最強のライバル、ドウマさ。どうやら、こっちも面倒なことになってるみたいだね」
周囲を見渡し、宿場町の惨状を確認するドウマ。余裕な物言いだが、油断する様子はない。
「何故ここにいますの?貴方たちは特級冒険者の・・・」
「そう、レディム・ルーグストンのところに行っていたんだ。でも、ちょっと事態が深刻になりそうなんでね、急遽ここに来たってわけさ」
「事態が深刻?」
「ああ、君たちの姫様にも関わる重大なことさ。ま、それは後で説明するよ。今はほら、もっと大切なことがあるだろ?」
話を打ち切って、ドウマが避難所の中を見るように促すと、リンとジョンブルジョンは本来の目的である住人の救助を思い出した。
ラミーラミーが襲撃したという犠牲者を救うために二人は避難所の内部へと走り出した。
「やれやれ、せわしないね。・・・ん?」
二人を見送ったドウマが、なにかを察知し視線を移す。そこにあるのは頭を割られ息絶えたはずのラミーラミーだった。
「へぇ、その状態で生きてるんだ。たかだか殺人鬼ごときを化け物に変えてやるなんて、カルカリじゃ面白いことが起こってるみたいだね」
割かれた顔を復元させ、ラミーラミーが立ち上がった。
回復というよりは、傷口から溢れ出た黒い影のようなものが癒着した戻り方だった。
「ヒ、ヒヒヒ・・・これが偉大な神の力さ。これでお前を供物にしてやるよ!」
左右の歪みの残る顔を手でおさえながら、ラミーラミーは邪悪な笑みと共に黒い影のような力で己を武装した。
◆
町の北東部、防衛戦の状況は好転していた。
元異界人特務部隊のシュドーが駆る大型車両が、攻め込んできた野盗たちを次々と撥ね飛ばし一網打尽にしたのだ。
野盗の中には当然実力者もいたのだが、シュドーがスキルによって作り出した異世界の近代兵器である「重・小火器」の前になすすべもなく命を落としていた。
「こいつら、揃いも揃って目がイカれてやがったな」
握る小銃の弾倉を交換しつつシュドーが転がる野盗の死体を見下ろす。
チャールソンによって洗脳状態にあった野盗たちは正気を失っており、その様子が顔に出ていたのだ。
「で、シュドー、こいつどうするの?隊長の命令通り殺さないの?」
少し離れたところから、同じく元特務部隊の一員、アラシロが声をかけてきた。
しゃがみこんだアラシロの正面では、縄に縛られたチャールソンが首にナイフをあてがわれている。
「ああ、カルカリ監獄から来た奴らは拘束しろってよ。『邪力』ってヤツをよく知っときたいらしいぜ」
「ふーん、邪力ねぇ。それで監獄から来た奴らは妙な能力を使うってわけだ。貰い物でイキッてんだね」
アラシロは馬鹿にするような口調でチャールソンを見る。
チャールソンが睨み返してきた。目が大きく開かれて怪しく光る。アラシロを洗脳しようとしているのだ。
「ハイハイ、ダーメ、そんなの私たちには通じないわよ」
極彩色の大扇子を二人の間で開き、元特務部隊のクジャクが割って入って視線を遮った。
対象を支配下に置くという、同じようなスキル『万物誘惑』を有するクジャクはチャールソンの狙いと、その条件、動作を看破していたのだ。
「ふぅん。なるほどねぇ、その目で見られたら催眠状態になっちゃうんだね。じゃあさ、目だけは先に抉っちゃうのは問題ないよね。重要なのは能力じゃなくてこいつ自体でしょ」
無邪気にアラシロが提案してくるが、シュドーは「やめておけ」と首を振った。
「はいはい、検体は大切に・・・クジャク離れて!」
気の抜けた振るまいから一転して、アラシロが叫んだ。スキル『未来予知』によって数秒先の未来を視たのだ。
アラシロとクジャクが同時に飛び退る。
直後、チャールソンの身体が風船のように膨張した。
「爆発するよ!身を守って!」
「馬鹿、言うならまずそれだろ!」
大小を取り違えたアラシロの警告にシュドーが苦言を呈した。
それを掻き消すようにチャールソンの身体が弾けて散った。爆発の跡だけが残る。
「どうなってんだ、自爆したのか?」
「わからない。予兆もなにもなくて、急にこいつが膨らんで爆発するのが視えただけ」
爆風で汚れた顔を拭いながらアラシロが答えた。クジャクはちゃっかりその後ろにいた。
チャールソンの爆発に原因は、セジーマが放った『薬炸脳虫』によるものなのだが、アラシロがそれを知るはずもなかった。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




