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最強忍者の異世界無双~現代最強の忍者は異世界でもやっぱり最強でした~  作者: 轟龍寺大鋼
ルゼリオ王国動乱編 特級冒険者ワーレン・エッダランドの章
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第326話 「お嬢様パワー」(バトル)

 リンとジョンブルジョンが脱獄囚と命懸けの戦いを繰り広げているのと同じ頃。

 町最大のホテルの地下では受難令嬢セニア仕える変態メイドのチカが、脱獄囚の一人、気狂いの美食家と呼ばれたブルームの魔の手から主を守るために奮闘していた。


 ブルームは杖術を駆使する。

 歩行補助用の杖を巧みに回し、突き、殴ることで、かつて並び立つ者のなかった実力者であるチカと対等の戦いを繰り広げていた。


 ◆


 気狂いの美食家ブルーム。

 食人を好み、特に十歳以下の小児を美味として三十人以上を調理し食した異常者である。

 ブルームはその内におぞましい悪魔を飼っているが、それを巧みに包み隠し、老練な芝居で紳士を演じ数多くの子を愛する親たちを騙して宝を奪い食してきた。


 食する際には綿密に記録をつけ、性別、年齢、人種、果ては血筋や食生活に至るまで、食材となった子供たちの情報を残した。

 ブルーム曰く『美食は積み重ねと探究心』とのことだ。

 さらにおぞましいことに、ブルームは子供たちを調理したレシピを写真付きで残しており、そのアルバムは数十冊にものぼる。


 ◆


 そんなブルームがカルカリの力によって強化されたのは、多くの人々を欺いてきた『(だま)し』だった。

 そしてその効果は、戦闘において遺憾無く発揮される。


 まずは歩みで騙した。

 攻撃や回避の際に、一歩出ると見せかけて半歩でとどまり、進むと見せかけて大きく退き、そ動きを利用して蹴ると思えば巧みに杖で突いてくる。

 言ってしまえばいわゆるフェイントなのだが、ブルームのそれは限りなく(じつ)であり、最終的な動作を見るまで、歴戦の強者であるチカであっても見極めるのは至難の技だった。

 結果として動きは後手になり、攻撃される度にチカはなんとか躱すものの、メイド服から所々肌が露出する。


「くっ・・・なんだ、こいつの攻撃・・・とらえどころがなくてイライラする」

 奇っ怪な戦法に翻弄され、苛立ちを募らせるチカ。握るデッキブラシにも力が入る。

 杖を使用するブルームに対し、チカはデッキブラシで応戦していた。

 チカはかつて組織に属していた際には、特定の型を持つことはなかった。

 そんなチカがセニアに仕えるようになって身に付けたのが、かつての戦闘技術とメイドの道具を組み合わせた闘法であり、チカ自身はそれを『メイド闘殺術(とうさつじゅつ)』と名付け呼んでいた。


 ブルームの闘法に戸惑いを覚えたが、それを振り払うとチカは前、ブルームに向かって踏み出した。進むと同時にブラシで地面を払い塵と砂利を散弾のように飛ばす。

 メイド闘殺術『玄関の掃除は朝食前に終わらせておきなさい』だ。メイド長から叱責を受けつつの、時間に追われる朝の清掃時間中に思いついた技で、牽制に用いる。

 飛来する砂利と塵の散弾を、ブルームは余裕の表情でゆるりと躱した。

 と言うよりも、攻撃が勝手に逸れた。ブルームの騙しによって目測が狂っているのだ。


「わずかに狙いがずれる。やはりなにかやっているな」

 惑いの小細工を確信したチカが距離をとる。

 セニアの避難した部屋の扉を背に、ブラシの部分を前に突き出す。威嚇だ。

「仕掛けの正体がわからないままなら、イタズラに長引かせても不利・・・それなら!」

 自分に言い聞かせるように呟くと、呼吸を整えるチカ。チラリと後ろのドアを見る。


「お嬢様、いらっしゃいますね?」

「ひゃっ!?」

 ドアの向こうから驚いたセニアの声が聞こえた。戦況に対し聞き耳を立てていたのをチカは察していたのだ。

「な、なによ・・・チカ?」

「決着を急ぎたく思います。ですので、力をお貸しください」

「力って、まさか・・・あ、アレ?」

「はい、アレにございます。アレさえあれば、すぐにでもお嬢様に勝利をお届けいたします」

「わ、わかったわ。アレね」

「はい。よろしくお願いいたします」

 頬を赤らめながら要求を受け入れるセニア。

 チカはニヤリと笑っていた。


「じゃ、じゃあ・・・いくわよ。だ、大好きよチカ。愛してるわ・・・」

 セニアが少しうつむき、小さな声で愛をささやいた。

 チカはセニアの愛を受けて戦闘力を強化するのだ。

「お嬢様、よく聞こえませんでした。もう一度お願いします」

 心の中で激しく踊り狂いながら、チカは無表情で再要求してきた。

「嘘!絶対聞こえてたでしょ!だから嫌なのよ、これやるの!」

 チカのこの所業は今に始まったことではない。機を見ては美酒のごとき言葉を引き出そうと画策するのだ。


「お嬢様、言い争っている場合ではありません。お早くお願いします」

「ちょっと、私が悪いみたいに言わないでよ、あなたが・・・」

「お嬢様!」

「くぅ・・・もぅ!大好き!愛してるから、私のために悪いヤツをやっつけて!」

「よっしゃあ!お任せください、お嬢様!」

 強要されたとはいえ、直接かけられた愛の言葉。チカの身体能力は、喜びによって一瞬で限界以上に達した。


 喜びの雄叫びと勝利の宣誓を終えると、チカの姿が消えた。

「なに、消え・・・!!」

 ブルームが動揺を見せた次の瞬間に、チカは右横に出現した。

「惑わせてくるというなら、それよりも速く動く!」

 デッキブラシのブラシ側で豪快に足を払った。ブルームの身体が宙に浮く。

 さらに間髪いれずの、身体を回転させた大振りによる追撃の一撃で後方に吹き飛ばされる。

 メイド闘殺術『お嬢様が通ります。道を開けなさい』だ。


「ぶへぇ!」

 浮いたまま壁に叩きつけられるブルーム。そこにデッキブラシの柄の先端が突き立てられる。

 腹、右手、左手、右足、左足、顔、顔、顔と、各所を的確に突き攻める。

 メイド闘殺術『高貴なるお召し物に一点の皺も残してはなりません』だ。


 数度顔面を突いた後、チカは距離をとってデッキブラシを構え直す。

 ブラシを前に向け、警戒を緩めない。

「フ、フフフフ・・・今の部屋から聞こえた声、先ほどのお嬢さんの声かな?綺麗な声だね。あの喉をシチューにして煮込んだら、さぞ美味なんだろうねぇ」

 歯を折られ口から血を流しながらも、ブルームは笑った。

「貴様・・・」

 欲望に忠実にして異常な執着。ブルームが気狂いと呼ばれる所以だった。

 チカが怒りで奥歯を噛み締める。


「やらせるわけないだろ!」

 激怒の相でチカが飛び出した。ブラシで顔を狙って直進する。メイド闘殺術『露は私が払います』だ。

 しかしそれはブルームの老練な『騙し』による『誘い』だった。

 心理的弱点を見抜き、攻撃の点を絞らせたのだ。年齢による経験の差が如実に出た瞬間だった。


 デッキブラシの先端が、顔のあった壁を突いた。突進力の勢いによって窪みが出来る。

 ブルームの姿が消えていた。

「くそ!こいつ・・・」

 チカは意識を攻撃から索敵に切り替えた。一瞬前まであった、おぞましい執着の念と殺気が消え去ってしまっていたからだ。

「消えた?どこに・・・まさか、逃げたのか?」

 意識を張り巡らし探るが、ブルームの気配はない。気狂いの美食家は完全に逃走していたのだ。


 セニアを狙う狂人を取り逃がすという失態に、チカは一時的に訪れた戦いの終わりに安堵することは出来ずにいた。

 狂人の生存が、不安がいつまでもつきまとうという懸念を生んだからだ。

「おのれ・・・絶対に殺してやるぞ、ゲス野郎め!」

 チカは怒りと共に必殺の意思を固めた。



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