第317話 「変態メイドと受難令嬢・後編」(ストーリー)
隣国の辺境領主の娘セニアの国境侵犯の理由を語るメイドのチカ。しかしその内容は、尿意をこらえきれなかったためと言う、当人としては知られたくない内容だったのだ。
無表情なメイドの口から主の痴態が水のように流れ出続ける。
「ちょ、チカ、やめなさい!そんな話・・・」
セニアは口を塞ごうと、何度もピョンピョンと飛び上がるが、額に手を置かれ制される。
「国境地帯はかつての戦乱の影響で今だ不毛のままのため、物陰が御座いません。ですので、私はその辺りで済ませてしまうことをおすすめしました。青空の下での放尿も趣があって良いのではないか。と」
「良いわけないでしょ・・・バカ!」
話が続くにつれ、セニアの顔の赤みが増していく。
「そうして数分ほど馬車を走らせたところで、ルゼリオ王国側に小高く岩の積まれた場所を見つけましたので、お知らせしたところ、そこで放尿したいとおっしゃられたので、致し方なく侵入した次第でございます」
「チカ、私そんな言い方してないでしょ!しょうがないからそこで我慢するって言ったの!」
赤くなって声を荒げるセニアとうっすらと微笑むチカ。
あえて恥ずかしい表現を用いることで、チカはセニアから反応を引き出すことを楽しんでいるように見えた。
「で、野盗と遭遇したのがその時ということかな?」
辱しめられる少女を見かねて、ジョンブルジョンが話を導く。
「はい、粗野な男たちに驚いたお嬢様は、取り乱し下着も整えぬまま、あられもない姿で側にいた私に抱きついてこられました」
「だから、いちいち変な言い方しないで!」
抗議するセニアにチカは顔を向けると一瞬微笑む。
「え、なんで今笑ったの?」
特に意味の無い笑顔だった。抗議する姿が愛らしかったのだ。チカは再び前を向いて話を続ける。
「野盗の動きは狡猾でした。私たちの退路を巧みに断つと、王国側へと誘導し、先ほどお二方に助けていただくまで追われていたというわけです」
ここでチカは話を締めて会釈をする。
「・・・まったく不覚でした。私が油断していたばかりに」
説明が終わり、状況が理解できたと思ったところで、再びチカが口を開いた。
「油断?なにかしてらしたの?」
「はい、私はお嬢様の排尿音に耳を澄ませておりました」
「は、はいにょ・・・?」
「なん・・・だと?」
「きゃああああああ!」
常軌を逸したチカの暴露に、一同はそれぞれの拒否反応を見せた。
「私はお嬢様を心の底から愛してお仕えしております。それ故、お嬢様の全てを知る必要があるのです」
眉ひとつ動かさず、チカは偏愛を語る。
「青空の下でのお嬢様の排尿音は、それはそれは清らかなもので御座いました。まるで雪解けの岩清水から生じた、小川の清流のごときせせらぎの音。耳に届くたびに私の心を満たし清めてくれるのです」
恍惚の顔で、チカは無呼吸で言ってのけた。
「いやぁあああああ!あんたなに言ってるのぉおおおお!?」
いかに美しく形容しようが、排泄は排泄。無闇にさらされた秘するべき様に、セニアの悲鳴の音域はどんどん高まっていく。
「ず、ずいぶん熱心でいらっしゃるのね・・・」
無下に否定せぬよう、精一杯言葉を選ぶリン。
チカは頷いた。
「当然です。私はお嬢様に仕えるようになった日から、毎日欠かさず睡眠、食事、排便、勉強、身長、体重を記録し続けています」
言いながら懐から小さなノートを取り出した。カバーに記された数字が今年のものであることを教えてくる。
「今週一週間の睡眠、食事、排便時間は平均。健康を維持されています」
ノートで記録を確かめ眼鏡を光らせる。
「ひぇっ・・・」
リンが小さい悲鳴をあげる。
「チカ、貴女そんなことしてたの?私に秘密でいろんな所で聞き耳を立ててたのね!?」
「お許しください、お嬢様。それも全てお嬢様を思えばこそなのです。あと、聞くだけではありません。お風呂もトイレもしっかりと覗かせていただいております」
再び眼鏡が光る。
「いやぁ!もう聞きたくない!バカぁ!このクソメイド!」
「ああ、お嬢様、そんな汚い言葉を発されるなんて・・・わかりました、その想い私が受け止めましょう。さぁ、お好きなだけ浴びせてください」
そう言って、母性愛全開で両腕を広げるチカ。
「あんたのせいで怒ってんのよ!他人事みたいに言わないで!」
「ま、まぁ、お話は解りましたわ。それで、襲撃の子細な情報はございますの?」
これ以上はセニアを追い詰めると判断したリンが話を切り替えた。
「それに関してはお嬢様がお聞きのはずです」
三人がセニアに注目する。
それに気付き、セニアが呼吸を整え前を向いて口を開いた。
「言っていることが難しくてよくは解らなかったのだけど、決行は今夜で強い仲間がたくさんいるみたいなことを言っていたわ」
「強い仲間・・・脱獄囚たちか」
ジョンブルジョンの顔が険しくなる。
「さきほどの二人から鑑みるとそれなりの対策をとる必要がありますわね」
リンの顔も臨戦のそれとなる。
「じゃあ、これで話は終わりね。私は宿に戻るわ!」
そう言うと、セニアは振り向いて全速力で駆け出した。
「お嬢様お待ちください。一人では危険です」
「着いてくるな、この変態!大嫌い!」
「!!」
溺愛するセニアからの拒絶の言葉を浴び、チカは足を止め呆けて立ち尽くす。
「お、お嬢様・・・何故・・・?」
「何故って、それはそうだろう」
己の発言の不用意さを理解できていない変態メイドに、ジョンブルジョンは思わず呟いた。
◆
拒絶、置き去りにされ、失意となったメイドを連れ、リンとジョンブルジョンは町役場を訪れた。
計画されている野盗の襲撃の件を町長に伝え、対策を練るためだ。
「だ、だ、脱獄囚が来るですと!?」
野盗の計画を知らされた町長が爆発のような絶叫をあげた。
襲撃の対策会議に参加していたギルド長と警備隊長が思わず耳を塞ぐ。
「カルカリ監獄には連続殺人や国家転覆などの超重罪人しか収監されていないんですよ。そんな奴らに襲われたら、こんな町は一夜で潰されてしまう・・・」
絶望的な展望に肩を落とす町長のジョグ。ギルド長ロレンソと警備隊長ケールズも険しい顔でうつむいていた。
見かねたリンが町長ジョグの執務机を拳で叩いた。
うつむいていた三人が同時に顔を上げる。
「下を向いている暇はありませんわ。全面降伏や命乞いが通じる相手ではないことは明白。だとすればやることは一つのみ!総力を上げての徹底抗戦しかありませんわ!」
嬉々とした声で発奮を促すリン。激戦の訪れを予感して高揚している。
「ですね。来るとわかっているなら応じましょう。幸い、土地柄冒険者には事欠きません」
ギルド長ロレンソが椅子の肘掛けを叩いて声をあげた。
「おうさ、たかだか野盗ごときに好きにさせてたまるものか。やってやろうぜ」
警備隊長ケールズも立ち上がって抗戦を誓った。
奮起する代表たちに促され、町長ジョグの顔が青から血の気と生命力をーを帯びた色へと変化していく。
「わかりました。座して死を待つわけにはいきません。やりましょう」
力強く拳を握り、リン同様に机を叩くと、立ち上がり眼光強く全員を見渡す。
「ロレンソさん、ケールズさん、今すぐ人員を召集して厳戒態勢に入ってください」
ギルド長と警備隊長が頷く。
こうして、宿場町の面々は襲い来る野盗に対して徹底抗戦の意思を固め、日の入りを前に住人たちに緊張が走った。
◯受難令嬢 セニア・ビバリオ
◯変態メイド チカ
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