第312話 「時が動き出す 其の四」(ストーリー)
隔離された空間「戸外の宮」で密談する諜報局長タリム・シャムシールと内務長官ガリアド・ガンのもとに二人の超将軍、暗機将クザートと神拳リース・モーガンが現れた。
超将軍二人は下座に座る。
「聞いたか?ペルシオスがギタギタにやられて帰ってきやがったぜ」
席に着くなり、隻眼の無頼漢クザートが口を開いた。口調であきれているのがわかる。
「うむ、すでに聞いておるよ。六姫聖の美の化身にやられたそうだ」
タリムが応えた。ブランデーを一口あおる。
「さすがに諜報局長、耳が早い。しかし解せませんね、六姫聖が超将軍を下すなど、彼女らの実力では考えられないことです」
続いて口を開くリース。穏やかな物腰だが、強者の気迫が満ちている。
「ちょうどその事を話しておったところだ。おそらく原因はサイガとかいう異界人だろう。とな」
「異界人・・・ですか?たった一人の異界人がどうして?」
「おそらく、この男は特異点なのだ。この国にとってのな・・・」
言い終わるとタリムは再びブランデーを一口あおり大きくため息をついた。
「クザート、リース、今回のこの反乱の目的は理解しておるだろう?」
少しうつむいたまま、タリムは二人に尋ねる。
「当然だ。この国の本来の姿、戦乱に満ちた状態を取り戻す。だろ?」
「そうだ。この国は古来より戦闘を繰り返す戦火の国。それを現王が平定、統治することで平和が訪れた」
「だがそれが問題だった。抑え込まれた戦闘の意識は国の内部でうごめき続け、それは異界人の召喚、魔物の増加、太古に封印された邪神の復活、というかたちで発散され、新たな問題を生んだ」
タリムの言葉を受け取るように、ガリアドが続ける。
「そこで我々はこれまで蓄えてきた戦力を用い、あえて戦乱を起こすことによって、この国をあるべき方向、位置へと導くために蜂起した。ゆくゆくは大陸の覇権も狙ってな」
「知ってる。だからそれがなんだよ?」
結論を語らないタリムとガリアドに苛立つクザート。
「世界が変わることを選択しようとしている。ということでしょうか?」
リースが推論を口にすると、首魁の二人は、小さく、黙ってうなずいた。
ガリアドが続ける。
「王をスキルで操り、遷都し姫と引き離したが、姫が王に反目し、さらにその下に特異点となるサイガが現れた。もしかすれば、この世界自体が戦を拒んでいるのかもしれん」
「そのための切っ掛けとして、サイガを中心に異界人や戦力を導いて、姫のもとに集結させていると考えられる」
タリムが話を結んだ。
「それがサイガとやらを危険視する根拠ですか。たしかに、この国に科学を持ち込んだドクターウィルも姫側についた。六姫聖も超将軍を下す急成長。戦力が拮抗しつつありますね・・・」
合点がいったのか、リースは呑み込んだように言葉を発する。
「じゃあどうすんだ?一気に中央都市に攻め込んで決着つけちまうか?」
短絡的にクザートが尋ねる。
首魁の二人は首を振る。
「いや、表立って姫を攻める大義名分が無い。下手な手を打てば、支持層の国民ごと敵に回すことになる。戦乱を求める我らとは言え、国内に戦火を広げるのは本意ではない」
「戦を仕掛けるのはあくまで他国へ、だ」
理不尽な理屈だが、タリム、ガリアドの意見は一致している。
「そんじゃあ今は、これまで通り動くってことか?各地から戦力を集めつつ、姫派の戦力を削る。でいいんだよな?」
クザートが確認すると、タリムが顔を向けた。
「ああ、それでいい。その事を知っていてもらいたくて君たちを呼んだんだ」
「わあったよ、そんじゃあ俺は仕事をするぜ。六姫聖と四凶の一人がカルカリ監獄に来てるらしいからな。そいつらを片付けてやるよ」
立ち上がると、クザートは出口へ向かう。
「ああそうだ、相手が六姫聖だからよ、念のためにメカニックとしてドクターギアを連れていくぜ。いいだろ」
「好きにしなさい。いい報せを期待してるよ」
静かに許可を出すと、タリムは再びブランデーを口にする。
クザートは部屋から消えた。
「やれやれ気が早いな。ところで、オーリン殿はここに呼ばれないのですか?一応異界人管理局長ですよ」
クザートを見送り、首魁に向き直るとリースは尋ねる。
「一応な。たまたま異界人と波長が合うヤツだったから人事部に手を回して要職に置いてやったが、アイツの先走りで王は禁術に囚われた。性根はただの小者だよ、駒として使っておけばいい」
ガリアドが苦々しく吐き捨てるように語る。
「そういうことだ。いざという時は真っ先に切り捨ててやればいい。王の方も間もなく打開できるしな」
タリムは半笑いだった。
「リース、一つ頼まれてくれんか?」
タリムがリースを向く。
「なんでしょう?」
「一角楼の諜報員からの報告によると、我らに与する特級冒険者のレディム・ルーグストンに、離反した異界人の特務部隊が接触する恐れがある。そいつらを始末してくれ」
「特務部隊。ドウマとかいう男が率いている部隊ですね」
「そうだ。手強い男だから君に頼みたい」
「かしこまりました。噂の異界人、一度手合わせしたいと思っていたところです。ふふ・・・拳が疼きますな」
静謐な雰囲気を醸し出しながらも、リースもルゼリオ王国の戦士らしく来るべき闘いに、期待に胸を膨らませていた。
◆
王都内技術開発局長室。その扉を開くや否や、クザートは目当ての人物の名を呼ぶ。
「おいドクターギア、出撃だ同伴しろ!」
突然の横暴な訪問者に、連日の徹夜が祟って机で突っ伏して寝ていたドクターギアは跳ねるように起きた。
「な、なんですか?クザート将軍。出撃?同伴?何を言って・・・」
「今からカルカリ監獄に出るぞ。オメェはメカニックとしてついてこい。他のヤツじゃアテにならねぇ」
「か、勝手なことを・・・なんで私がそんな・・・」
「なぁに、タダとは言わねぇよ、監獄には六姫聖と四凶がいる。その意味がわかるな」
「!まさか、戦うのですか?」
「おうよ、十中八九そうなるだろうな。兵器開発するには、絶好の観察対象だろ?」
自らの身を差し出す誘い文句に、研究の虜囚であるドクターギアは目を輝かせる。
国内最高峰の戦士同士の戦い。研究者にとってこれ以上無いほど貴重な情報だった。
歪むように口角が上がった。
「・・・一時間ください。すぐに機材と資材の準備を整えます」
目を見開くギア。
静かに燃え上がったギアの情念を感じ、クザートはニヤリと笑った。
「おう、城門でまってるぜ」
上機嫌に一言放ち、クザートは踵を返して消えていった。
一時間後、約束どおりギアは城門に現れた。
「お待たせしました。将軍を整備するための資材は一通り揃えてきましたので万全に戦えるはずです」
そう言うと、ギアは白衣をめくって内側に備えられた大規模収納魔法を施した魔法珠を見せる。
「へっ、俺を戦わせられるの間違いだろ?」
「そう捉えてもらっても構いません。私はデータさえ収集出来れば、それでいいので」
「臆面も無しか。やっぱりテメェは面白ぇ女だな。そんじゃ、行くか」
クザートが懐から掌大の歯車を取り出すと空中へ放った。
歯車が巨大化し、三メートルほどになると水平に着地した。
「飛転輪だ。乗れ、これで移動する」
「すごく・・・安定性が悪そうですね」
「贅沢言ってんじゃねぇよ。そこらの馬よりかずっと速ぇんだよ」
不安を覚えながら、ギアがしぶしぶ飛天輪に乗ると、二人はカルカリ監獄に飛び立った。
◆
王都内、技術開発局の一室で、黄金竜騎士ペルシオスはドクターワットの用意した培養槽の中に身を浮かべていた。
意識、体調は、治療を始めて十二時間程度ですでに健常となっており、確認としてドクターワットが検査を行っているのだ。
「万能臓器と言ったか?我の体内に投じた物は。あの状態から失った臓器を補えるとは大したものだな。お陰で命を繋いだぞワットよ」
身体を槽の中に浮かべたまま、ペルシオスは讃えた。
戦闘時とはうってかわって穏やかな顔だ。
「ありがとうございます。結果として回復できましたが、投与した直後は順調に癒着したのですが細部が滞ってしまって焦りました。細胞が凍結していたんです」
「細胞が凍結?なるほど、ナル・ユリシーズめ念の入った置き土産をしてくれる。細胞単位で凍らせてくるか」
「この傷、六姫聖によるものだったんですね。鮮やかだと思ったら、そう言うことだったんですね」
「うむ。だが、馴染んできて気付いたが、この万能臓器、素体と同じ素材で出来ておるな」
「え?わ、わかるのですか?」
「ああ、実はな・・・」
ペルシオスは光の丘での出来事、素体がノルスを吸収し、さらにそれをペルシオスが従えたことを語った。
「そ、素体と一体になったんですか?」
「そういうことだ。その事があって、我の戦闘力は飛躍的に上昇した。細胞の凍結とやらを最終的に乗り越えたのは、我の内部の素体と万能臓器が馴染んだお陰であろう」
穏やかに微笑むペルシオス。幾度の死線を乗り越えたことで、戦闘力のみならず精神も新たな段階に進んでいた。
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