第309話 「貴様は技におぼれたのだ」(バトル)
美の化身ナル・ユリシーズと黄金竜騎士ペルシオスの一騎討ちは、対峙した状態からどちらともなく前に出ると、止まること無く進み、互いの射程圏がふれあう位置まで接近した。
その距離約五メートル。
ナルのハチカンとペルシオスの天を冠する技。
実際のところその射程には天地ほどの開きがある。しかし、ペルシオスはあえてその距離を詰めた。
ナルのもっとも得意とする位置で打ち負かし、完全なる敗北を与えて雪辱を果たそうというのだ。
それは竜と騎士の矜持がとらせた行動だった。
「『天逆』!」
先んじて一歩踏み出したと同時に、ペルシオスが右手を振り上げた。
一本の巨大な爪がナルの足元を突き破り、その身体を貫かんと飛び出す。
対してナルは氷の真球『冬玉』(ふゆだま)を足元に作り出すと、爪の先端を滑らせて爪全体の流れを外側に反らした。
「動じずに応じるか」
「無駄に派手なだけだ。この類いの技は御しやすい」
言いながらも二人は足を止めない。さらに距離が縮まる。
次にナルが動いた。
ほんのわずか、肩幅より数センチ両手を広げると、腰部後方から四本の細い氷の帯が飛び出した。
帯は外に広がり、曲線を描くと、ペルシオスの背後に回りその先端を向ける。
『氷河空征』(ひょうがくうせい)。
氷の帯を作り出し、それに沿ってハチカンの弾を滑らせることによって超加速を付与する補助魔法。
さらにペルシオスの周囲に六角形と円形の氷が出現する。補助魔法の『蜂巣障隔』と『反鏡』だ。
「全方位からの弾丸の豪雨だ、存分に味わえ!セアッタ弾装填、発射ぁ!」
二丁のサブマシンガン形態のハチカンから、高速連射一万発のセアッタ弾が射ち出された。
氷河空征が曲線滑走による加速と死角からの曲射、蜂巣障隔が視界を遮る働きと、反鏡が乱反射。それぞれが銃弾に作用し、三百六十度の包囲網を完成させる。
「なんだと、こんな馬鹿げたことが・・・」
言い終わる前に計一万発の銃弾が咄嗟に防御を固めたペルシオスに浴びせられた。
被弾の音が鳴り止まない。
「うわぁあああああ!」
大声をあげ、ナルは左右のサブマシンガンを乱れたように振り回す。だが、当然この行為は狙いがあってのものだ。
ナルはペルシオスが包囲網に順応できないように補助魔法を移動させ続けていた。そこに向かって発砲を行っているのだ。
大声を出すのは冷静さを悟らせないためのものだった。
ペルシオスは黄金の鎧とその下を竜の闘気と鱗で身を固め、防御の姿勢をとることで銃弾の雨を凌いでいるが、それも限界を迎えつつあった。
銃弾が鎧を砕き、竜麟を剥がし、内の身を抉りだしたのだ。
「ぐぅぬううううう!おぉのれぇえええぇ・・・調子に乗るなよぉ!」
怒声発奮。追い込まれたペルシオスの怒りと気合いが同時に爆発した。
神域に達する三竜の力を従えた超将軍の怒りは凄まじく、ナルの展開していた補助魔法を三つ揃って吹き飛ばし、空の彼方へと消え去らせた。
「くっ、こんな雑なやり方で・・・これではまるで・・・ふっ!」
美意識の欠片もないペルシオスの対処法に、ナルは同僚である六姫聖の面々との戦闘訓練を思い浮かべる。
綿密に作り上げた補助魔法の結界を粗雑な手段で打ち破るリンやミコ。そんな光景を思い出し、ナルは思わず吹き出した。
「そうだな、こんな手合いは初めてじゃない。それならば馴れたものだ。普段通りに闘いを組み立てる!」
ナルの気勢に従うように、二丁のサブマシンガンのハチカンが一門の石火矢形態に切り替わった。右脇に抱え直す。
補助魔法を破ったペルシオスが、打破の直後に前に飛び出した。闘将竜 京麟君の気性が出たのだ。
京麟君の闘争意欲と狂暴性は異常だが、その本能は常に最適解を選択する。
前に出ると同時の、右の竜の掌の爪でハチカンの砲門を外側へ弾いた。
続けて左の竜の掌が張り手で顔を狙う。受ければ顔面崩壊は必至だ。
「そうだな、ミコもそう動いていたな。野生の勘と言うやつか?」
本能に忠実な動きは、ナルにとって既知のものだった。猫と同じ動きをするミコと寸分違わず同じだったのだ。
唯一の違いは、ペルシオスがミコほどの敏捷性を持たないことだった。そのため、余裕をもって回避ができた。
ナルは両足を左右に百八十度開き、上半身を直下に落とした。柔軟さがなせる技だ。
見慣れない動きにペルシオスは虚を突かれ、左手が空を切り、わずかに体勢が崩れる。
ナルが左手を地に着け、右足をペルシオスの股下に滑り込ませ左足に絡めた。直後、右脇に抱えたハチカンを放ち右足を破壊。さらにその反動を利用して後方に退くと絡めた左足を刈った。
ペルシオスの身体が一瞬宙に浮き、地面に落下した。
「おのれ、この程度・・・『天昇』!」
竜の拳が地面を叩く。すぐさま反応で地中の岩盤の隆起が発生し、ペルシオスを押し上げるとナルから引き離す。
「離れた。回復される!」
地盤を操る緊急回避にナルは反応が遅れた。
体勢を立て直し、数瞬の暇から生まれた猶予を取り返すためにハチカンを上方に向ける。
「愚鈍だぞ、六姫聖!」
真横、岩盤の中からペルシオスの声が聞こえた。既に回復し、内部に潜んでいたのだ。
「『天崩』」
ナルの顔近くの岩盤に亀裂が走った。
「礫が来る」そう察したナルが『蜂巣障隔・紡』(ほうそうしょうかく・つむぎ)を発動させ、岩盤との間に六角形の氷を繋げた壁を形成した。
岩盤が砕けた。破片が一斉にナルの美しい顔に襲いかかる。
しかしその全てを、柔らかく仕立てられた氷の幕が個々に包み地に落としていく。
「私の顔に傷をつけようなどとは、この国で一番の大罪だぞ!」
「黙れ!図に乗るなよ六姫聖!ならばその顔、徹底的に狙ってやるぞ!我破ァァァ・・・」
崩れた岩盤に手を掛け、ペルシオスが身を乗り出した。歯を剥き出し、吐息をもらしながら顔を近づける。京麟君の獰猛さだ。
岩盤からペルシオスが飛び出した。
即座に応じてナルは飛び退る。
「逃がすか!邪っ!餓っ!陀っ!」
身体に残った岩盤の破片を撒き散らしながら、ペルシオスは叫び、両手足を暴力的に振り回して攻撃する。
対してナルは蜂巣障隔、冬玉の補助魔法を軌道上に出現させて攻撃を逸らす。
「小細工だな!」
強烈で強引な連撃で、ペルシオスは補助魔法をものともせずに散らす。
しかしナルはさらに補助魔法を展開する。
退がりながら出す。追いながら散らす。さらに出す。さらに散らす。
「頃合いだな・・・それっ!」
そんな攻防を数度繰り返したところで、ナルは蜂巣障隔を放つ先を正面から足下へと急遽変更した。
六角形の氷が幾重にも足に絡み付き、地へと縫い付ける。
「この期に及んで、つまらん手を・・・」
搦め手に足を止められ怒るペルシオス。
直立のままナルを睨む。
「この程度の氷なぞ一撃で・・・『天・・・』?」
クールウェンフォンの技を用いようとしたところで、正面のナルが立ち止まり、美しい指を立てて空を指した。
それを見てペルシオスが動きを止める。
「なんだ・・・それは?」
「終わりの合図だ。ようやく準備が整ったんでな」
「貴様、なにか仕込んでいたか!」
「そうだ。そしてそれが今、終わる」
ナルが指を空からペルシオスに向けてゆっくりと振り下ろし、そのままさらに下、地面を指す。
「さらばだ」と一言放った。
その直後、何かがペルシオスの頭頂部を直撃、固定された身体を縦に貫通すると股から飛び出して地面に突き刺さった。
「がびゃあ!」
正体不明の強烈な一撃に、ペルシオスはたまらずケダモノのような悲鳴をあげた。
視界が赤く染まる。頭骨内で出血が起こり、眼窩から流れ出していた。
内臓が燃えるように熱い。貫通の衝撃で全ての臓器を引き裂いていた。
股間から赤黒と白が混ざった液体が間欠泉のように吹き出る。物体が身体から飛び出した際に股に穴を空け、血と内臓、子宮内に蓄えていたノルスの精液が流れ出たのだ。
「いいい、一体いいいいい、ななななな、なにががががが・・・」
脳を激しく損傷したのだろう、ペルシオスは言葉を正確に発することができなくなった。
「私の銃弾だ」
ナルが地面に刺さった物体を指しながら答えた。
「さっき私が貴様を止めるために撃った銃弾。それが貴様の呼んだ雷雲の中にある氷晶で跳弾、加速を繰り返し、充分に威力を高めて貴様を貫いたのだ」
敵の技の雷雲であれ、その中にある自らが扱いを得意とする発雷の氷を利用した一撃。思いもよらない箇所からの攻撃だった。
「貴様の天鳴という技、驚異的な威力だが、その仕組みと敵との相性ぐらい考えて使うべきだったな。貴様は自身の技におぼれて、敗北の中に沈んだんだ」
ナルが足の氷を解くとペルシオスが倒れた。そして髪を軽くかきあげながら、それを見届けた。
その姿は、強敵との闘いのあととは思えないほど美しさを保っていた。
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