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最強忍者の異世界無双~現代最強の忍者は異世界でもやっぱり最強でした~  作者: 轟龍寺大鋼
ルゼリオ王国動乱編 特級冒険者ウォルフジェンドの章
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第299話 「主従愛、醜悪にて」(バトル)

「ふむ、どうやら我は命を繋いだらしいな」

 素体の口の中という、異質な空間でまどろみながら、ペルシオスは認識した現状を呟いた。

 地竜マドンと共に素体に包まれたペルシオスは、消化、吸収されることはなく、体内に保護された。

 その行為に特別な意図を感じたペルシオスは、『叡知(えいち)竜ゴーナルオ』の『知識』、『(けん)竜ト・トア』の『洞察』、『感応(かんのう)竜クルーゾー』の『感覚共有』を駆使してその真意を探った。そして理解した。


「貴様、ノルスだな」

 少し呆けた表情で空を見つけたまま、ペルシオスが呟いた。

 肉塊である素体がペルシオスを救った理由。それは、吸収されたノルスの人格と意志が反映されたためだった。

 素体は、その命の方向が定められていないという無垢さから、最初に吸収したノルスの影響をもっとも強く受け、主であるペルシオスのもとに参じたのだ。

「はっはっは、ういやつよ、そのような姿になってまで我に尽くすか。あの愚竜と違って真の下僕の鑑だな」

 ノルスの生命を超越した忠誠心と働きに、ペルシオスは高らかに笑った。


 『生命竜マジュリオ』の『身体活性(しんたいかっせい)』を発動させ、ペルシオスは両手首を再生させた。

 何度か開閉を繰り返し感覚を確かめると、満足げな顔で笑って立ち上がる。

 ノルスの上を数歩歩くと、見下ろす先にはアールケーワイルドがいた。目が合う。

「四凶のさっきはやってくれたな。だが、知っての通り、我を守るこやつには貴様らの攻撃は餌にしかならん。わかるか?貴様らの攻撃は無駄。だが、我の攻撃は健在。・・・さぁ、一方的な殺戮の宴を始めようではないか!」

 宣言と同時にペルシオスが口を大きく開き、その型を闘気でなぞって作られた大型の上下顎骨『()竜デモラ』の『咬擂(こうらい)の牙』を発動させ、口の形そのままに放った。


「速い!」

 ほぼ一瞬で咬擂の牙はアールケーワイルドの前に到達した。

 迎撃、防御、回避。どの対応も間に合わず、アールケーワイルドは大型の上下顎に挟まれ、これまでの意趣返しをくらった。

 上顎の牙は左首筋、下顎の牙は右脇腹に深々と食い込んだ。

「ぐぁ、なんだこれは?いままでの攻撃とは威力が桁違いだぞ!?」

 その言葉どおり、咬擂の牙の威力や速度は先ほどまでの技とは比較にならないほど上で、アールケーワイルドの身体に傷を刻んだのだ。

 咬擂の牙に圧されて数歩退いた。傷口からは鮮血が滴る。


 ◆


 態勢を立て直して技を放った後、ペルシオスは動きを止めて自らの中にある感覚を噛み締めていた。

 全身を力が駆け巡り、高揚、興奮している。しかし心は驚くほどに穏やかで、身体の末端に至るまで制御が行き届いていた。

「ふむ、良いな。まるで身体の中に竜を飼っているような雄々しい感覚だ。ノルスよこれも貴様がもたらしたものだな?」

 足元でうごめく素体に尋ねると、不気味な肉の塊は踊るようにうごめき反応を示す。喜んでいるように見えた。


 素体は封印から解放された後、最初にノルスを吸収し、その本能と使命感をとりこんだ。

 次に荷車を引いていた馬、護衛の兵。さらに先日罠にかけられたまま瀕死の状態で放置されていた数百人の若い兵士を全て食らい尽くした。

 さらにそこにナルの砲撃を受け吸収したことで、素体はノルスの意識を宿した魔力と生命力の貯蔵庫と化した。


 命の塊の支配権を得たノルスが起こした行動は、主のもとへ参じることだった。

 微かに残る人間の頃の記憶をたどり、右腕を形成。地面を掴み本体を引き寄せることでなんとか前進する。

 その道中、転がる戦死者の骸をくらい、無計画に身体を肥大させた。

 そうして蓄えた生命、魔法の力を、素体は主に献上した。


 素体の体内で生命力と魔力を注がれ満たされたペルシオスは、戦闘力を竜統単たっとうのひとえに上乗せするかたちで上昇させた。

 その結果、発動させる竜の力はこれまでのものから格段に威力を増したのだ。

「ノルスよ立て。我ら主従の力をもって、光の丘を攻め落とすぞ!」

 ペルシオスが光の丘を指し、忠実な下僕に命じた。


「もぼぉ・・・ぶぼ」

 声と悲鳴ともつかない音を口から漏らすと、素体は再びうごめく。

 側面から六本の腕が飛び出し、掌が地面に着いた。

 身体を持ち上げると、蜘蛛のように這いながら光の丘を目指して前進を始めた。


 ◆


「え?嘘?こっちに向かってる?」

 進路を定め、一直線に進み始めたペルシオスと素体を観測したコージュが声をあげて身構えた。

 遠距離のため一方的にだが、目が合った。一瞬身体を震わせて、コージュは竜の覇気に畏怖する。

「なんて邪悪な気迫・・・あれは駄目、ここに来させたらメチャクチャにされちゃう」

 主従の放つ気に圧され、思わず拒絶の言葉を漏らした。


 コージュのとなりで弓を構えているエィカも固唾を飲んだ。

 これまで強大な敵は何度も見てきたが、それらとはまた違う無垢な不気味さがあったからだ。


「おいコージュ、手前ぇなにやってんだ、呑まれてんじゃねぇぞ!」

 魔法珠が震えるほど勢いでウォルフジェンドの怒声が響いた。

「ひっ!す、すいません、先生!」

 師から一喝され、コージュは声を裏返らせ、身をすくませた。


「現状、全体が見えてんのはお前だけだ。全員がその目と声を便りにしてる。一瞬でも逸らすんじゃねぇぞ」

 ウォルフジェンドの声に余裕がない。それだけ事態が緊迫していることを告げていた。

「コージュ指示を出せ!」

「は、はい!先生はナルさんたちと合流してください。あの不気味な物体はともかく、超将軍は皆さんで対応可能なはずです」

「おう!」

 ウォルフジェンドは合流のために走り出した。


「全隊は撤退!巨大な怪物が光の丘に向かっています!これを阻止しなければいけません!なお、吸収されてしまうため、攻撃は避けてください!」

 コージュの指令を受けて亜人の全隊が撤退を開始した。もはや王国軍の兵たちのことは歯牙にもかけていなかった。


 数名、扱いに憤った王国軍兵士が突撃を行ったが、ジオールの霊幻兵団に阻まれて追撃を断念した。

「よろしいのですか?放っておけば挟撃のおそれが・・・」

 討たないという対応の甘さに、側の兵が尋ねた。

「かまわん。戦ってわかったが、ゼタの言う通り弱卒だ。私から距離をとった弱体化状態の霊幻兵すら抜けんさ」

 霊幻兵に苦戦する王国兵を一瞥すると、ジオールは殿を務めながら後退した。


 ◆


「コージュさん、あの化け物が吸収する攻撃って今のところ魔法だけですよね?」

 光の丘の上から遠方の素体を見つめながらエィカが問う。

「現状、私が確認したのはそれだけです。ナルさんの砲撃を浴びた後に急激に肥大したので、そう判断しました」

「だったら、物理攻撃を試す価値は、有りですね」

 そう言うとエィカは弦を引く。力強く弓がしなった。

 戦いの中で、エィカはどこか好戦的になっていた。


 精度と威力に絶対の自信を持った一矢をエィカは放った。

 矢はほぼ一瞬で一キロ近い距離を飛び、素体の中央を貫通した。

 衝撃で肉が弾け飛び、ぽっかりと大きな穴を空ける。

「つ、通じた」

「やった!コージュさん、今の何が効果があったと思います?」

 戦果への喜びもほどほどに、エィカは呆気にとられているコージュに尋ねる。

 妹弟子は目を凝らして観察した。


「恐らくですが、速度だと思います。先ほど、竜を補食した際アレは全身を覆っていました。吸収にはそれの状態になる必要があって、エィカさんの矢の速度に対応が間に合わなかったと考えられます」

 見解を述べるコージュ。それを受けて、エィカは再び矢をつがえる。

「だったら、連続で射って穴だらけにすれば・・・っ!」

 第二矢が放たれた。またしても一瞬で素体に到達する。


「覇ぁ!」

 黄金色の斬撃が矢を斬り落とした。ペルシオスの黄金剣だった。

「愚か者め!来るとわかっていて、むざむざやらせると思うか!?」

 さらに第三、四の矢が飛来するが、ペルシオスは難なく斬り裂く。

 主の庇護を受けながら、素体は歩を進めていた。

 


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