第293話 「竜を統べる騎士」(バトル)
竜は人知を超えた強大な力を持ち、英雄譚においては勇者の味方、時には敵として描かれ、偉大な力の象徴とされる。
そしてそれは、剣と魔法の世界のルゼリオ王国においても同じだった。
竜と名に冠されるものは、問答無用で大きく、そして強い。畏怖の対象なのだ。
そんな竜の力を、ペルシオスは百匹分操ると言いきった。
その言葉通り、竜の形の闘気をその身に宿すと、存在感、威圧感は数倍に膨れ上がり、戦闘に長じるはずの特級冒険者ウォルフジェンドを正面から気押していた。
「うぉぉ、マジかよこれ?これが人間の出せるプレッシャーか?」
「いかにも。これぞ黄金竜騎士ペルシオスの真体!『竜統単』!百の竜を従えし覇者の姿よ!」
竜を模したペルシオスの鎧は、ただでさえ肩、肘、手などに棘状の部位があるのだが、鎧を包む闘気がその鋭角を強調し、さらに数も増やし、全身角だらけの凶悪な姿へと変えていた。
「さて、どこまでついてこれるかな?」
ペルシオスが右篭手の爪をウォルフジェンドへ向けた。爪状の闘気が三本、高速で発射される。
「『爪竜パルバ』が得意とする『爪弾』だ。城壁程度なら余裕で貫くぞ!」
「くそ、絶対ヤベェやつだ!」
ウォルフジェンドは反応すると、ベアリングボールを爪弾一発に対し一発ずつ放つ。
だが、威力は爪弾の方が勝っていた。ベアリングボールはその勢いを削ぐことは出来たが、撃墜には至らなかった。
「強ぇえ!押し負けやがった!」
負けはしたが、ベアリングボールは無駄ではなかった。爪弾の威力を極限まで削り、ウォルフジェンドへの到達直前で消滅させた。
「あっぶねぇ・・・ギリ互角かよ」
「はっはっは、どうだ、洒落た挨拶だろう?」
兜越しだが、表情までわかるほどの嬉々とした声のペルシオス。
「そうだな。洒落が効きすぎてて二度と見たくねぇぐらいだ」
「まぁそう言うな。なにせ百匹もおるのだ、皆自己紹介がしたくてウズいておる。じっくり見てやってくれない・・・かっ!」
ペルシオスが跳躍した。空中で一旦停止すると、両足を揃えて真下に急降下する。
『重竜ザペル』の『大陸砕き』だ。
竜の力を宿した両足裏が地面に触れた。一瞬でペルシオスを中心とした陥没が発生し、その影響はウォルフジェンドの足下にも及ぶ。
「爪竜の次は重竜の技かよ。節操ねぇことだぜ」
後方に跳び、陥没から避難しつつ技の影響を見極めるウォルフジェンド。
陥没は大きく深くなって、巨大なクレーターが出来上がっていた。
「なんだ、遠慮せずに受け止めてくれてもよいのだぞ?折角そのために丁寧に動作を見せたのだからな」
「へっ、殺す気満々でなに言ってやがる。そんなら、こっちもお返しだぜ!」
ベアリングボールを右手一杯に握るウォルフジェンド。
対し、ペルシオスは両拳を握り脇を締めると両肘を引く。胸部と両拳の三角地帯の中央、腹部に炎の塊が生じた。
『滅破竜オルゴーン』の『破崩炎』だ。
「ははははは、無駄だ無駄だ!その程度の金属の弾なぞ触れただけで蒸発する超高温の一撃だぞ!避けたところで炎の海からは逃れられん、くたばれ!」
破崩炎が爆発的な発射でペルシオスから離れた。
直後、ウォルフジェンドの背後から高速で飛来した小さな黒い物体が、横を通過し、破崩炎の中央に命中した。文句のつけようのないほどのど真ん中だった。
中心部を破壊された破崩炎の超高温の炎がその場で暴発した。狂った炎の竜巻が主を呑み込んだ。
「ぐぁあああああ!さ、『去り行く彼方』!」
ペルシオスの足下に光の円が現れた。円は広がると、燃え盛る炎を全て内に収めた。
さらに光の円は天に伸び、光の柱となる。
「消えろ!」
言葉に従うように、光の柱の中の炎が消滅した。
『夢空竜カーシャ』が得意とする空間支配の魔法だった。
自らの業火に焼かれたペルシオスが右膝をついた。
「はぁはぁはぁ・・・おのれぇ、なんだ今のは!?なにが飛んできた!?」
「さすがの竜の炎でも、オリハルコン製の弾丸は溶かせなかったようだな」
野太い男の声がした。ウォルフジェンドの後ろから、声の主、アールケーワイルドがのっそりと姿を表す。
「四凶の、貴様か!昨日のみならずまたしても・・・!」
ペルシオスが苦しみの声を漏らしアールケーワイルドを見る。兜越しで表情は見えないが、睨んでいることは間違いなかった。
「オリハルコン製の弾丸か・・・上等なもん持ってんだな」
「陛下直属ともなれば、色々優遇されてるのさ。ま、弾と銃は別口だがな」
回復魔法の魔法珠で傷を癒しながら、ウォルフジェンドはアールケーワイルドのマグナムリボルバーを眺める。
アールケーワイルドが握るリボルバーは、異界人のドクターウィルによって、この国で最初に開発された大型拳銃で、反動の強さと狂暴性から頑強な肉体のアールケーワイルドにしか扱うことが出来ず、専用のものとなった。
そのため、アールケーワイルド当人がリボルバーを面白がって使い、それにあわせてオリハルコンで弾丸が作られたのだ。
「特級冒険者と四凶が揃い踏みか。これは我とて分が悪いな・・・作戦を急ぐか・・・」
圧倒的に不利な形勢に、ペルシオスは動きを変えた。
ウォルフジェンドを討つことより、任務の完遂を優先させたのだ。
「ノルス、アレを走らせろ」
懐の通信用魔法珠に独り言のように語りかけた。「はい」と短く返事が返ってきた。
通信を終えると、ペルシオスは並び立つ二人に顔を向ける。
「さて、まだまだ戦い足りぬが、事は本筋に参るとしよう・・・はぁぁぁぁ」
深き息を吐くと、ペルシオスは気合いを込めた。身体を包む竜の気が膨張する。
「ここで一旦の区切りだ!『クラッシャーロード』!」
竜の闘気を纏った右手で全力で地面を殴りつけると、爆発したように地面が捲れ上がり、前方へと走る。
『地征竜アンゴル』の『クラッシャーロード』が、大きく深く長い亀裂を生んだ。
亀裂が戦場を裂き、その道は先日王国軍に深刻な被害をもたらした大穴へと続く。
「将軍、失礼いたします!」
ペルシオスの後方から、荷台を引き連れた騎馬のノルスが現れた。指示し運ばせたアレとは、ドクターワットに託された人工生命体の『素体』だったのだ。
「うむ、行け、道は確保済みだ」
「は!」
主の傍らを通過し、ノルスが荷台を引き連れた数人の兵士たちと共に亀裂に走り込んだ。
亀裂は下部がトンネルになっていて、ノルスはそこを穴に向かって疾走する。
◆
「あいつら、なにしやがるつもりだ?」
突如方針を切り替えたペルシオスと、それに続くノルスの行動に、ウォルフジェンドが怪訝な顔で呟いた。
「わからん。が、静観するわけにはいかんな」
隣でアールケーワイルドがリボルバーを構えた。間をおかずシリンダーに残っていた四発を爆発的な音と共に連続でノルスに向かって発射した。
だが、トンネルの中に消えてしまった標的を捉えることはできず、弾は土の中に消えた。
「て、てめぇ、撃つなら撃つって先に言いやがれ!耳がぶっ飛んだと思ったじゃねぇか!」
至近距離でリボルバーの発射音を聴かされたウォルフジェンドが両耳を塞いで悶えた。
不意の行動だったため、防御行動をとっておらず、直接鼓膜を刺激されたのだ。
「すまんすまん、なにやら嫌な予感がしたもんで、身体が先に動いちまったんだよ」
謝りながらもアールケーワイルドは緊張感を継続させ、弾の充填を完了させた。
「良い勘をしているな。四凶の」
声と共にペルシオスが眼前に飛び出してきた。両手には黄金剣が握られている。
「接近戦だと!?ワシらを足止めするつもりか?」
「そうだ。計画を完うするため、我自信が囮となる!くらえ、『終槌渦』」
『審判竜リブ・トラ』の放射式無差別全方位雷撃『終槌渦』がウォルフジェンドとアールケーワイルドに浴びせられ、二人は絶叫をあげた。
百の竜の猛威はとどまることを知らなかった。
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