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第26話 「六姫聖 リン・スノウ」(ストーリー)

「ええ!?冒険者の新規登録が出来ないですって?」

 交易都市クロストの南区にある冒険者ギルドの窓口に、市長秘書メリウスの落胆の絶叫が響いた。

 肉体労働とは縁遠い華奢な体つきに似合わず、その声はギルドの隅々にまでよく届く。

「一体どういうことですか?ギルドに登録が出来ないなんて、私は聞いていません。これは、ギルドのみならず市にとっても大事です。きちんと説明を求めます!」

 不測の事態に取り乱しているのか、メリウスは声を荒げて窓口の女性職員を問い詰める。

「市庁舎のほうには、ギルド本部から連絡が入っているはずだが、なにぶんつい今しがた本部から決定が下ったばかりなんでね。入れ違いになっていたのなら、申し訳ない。秘書殿」

 グレーのスーツに眼帯の初老の男が、受付越しに戸惑う職員に代わって答えた。この市のギルド支部長オルトスだ。

 オルトスはカウンターを通り、メリウスに近づくと語りかけた。

「秘書殿ならばご存知でしょうが、最近、冒険者を狙った連続殺人事件がクロスト市内で発生しております。ギルドとしてはこれ以上の犠牲者を出さないために、一時的に実力の程の知れない者の新規登録と下級冒険者の滞留をお断りすることが本部からの指示で決定しました」

「そ、そんな・・・」

 オルトスの報告にメリウスが言葉を失う。



 冒険者の登録は身分や経歴実力の有無を問わず、ほぼ全ての者が登録が可能だ。

 仕事がなければ、とりあえず冒険者に登録して雑多な仕事をこなし日銭を稼ぐというのが、この国の最低限の収入となる。

 内容はピンからキリまでで、宅配便程度のものから魔物討伐という命を懸けたものが存在する。そのため死亡率も高く常に人材が不足している。

 『冒険者の命は使い捨て』という言葉が生まれるほどには新規登録は広く雑に受け入れられているのだ。

「じゃあ、彼らはどうすればいいんですか?」

「こちらから提案出来ることは、クロストを出られて別の支部で登録をしていただくことになるでしょうな。少なくとも、この支部では実力の不明な者と一定以下のランクの冒険者の受け入れ、新規登録はお断りすることとなりました。ご理解ください」

 支部長オルトスは頭を下げた。



「実力が不明なのでしたら、証明すればよろしいかしら?」

 オルトスとメリウスの頭上から女の声が聞こえた。

 二人が顔を上方に向ける。そこには、上品な笑顔の女の顔があった。

 しかし注目すべきはその顔ではなく、身長だった。女の顔は二人の男が首を上げて見上げる場所にある。二人の身長がおおよそ一七〇センチ強ほどだと考えて比較すれば、女の身長は約一九〇センチ以上はありそうだった。

「あ、あなたは・・・」

 オルトスとメリウスが異口同音で女の名を口にしようとした。そのとき。

「リン様!リン・スノウ様!」

 セナが見覚えのあるリアクションを見せた。これは数時間前、六姫聖のナル・ユリシーズと邂逅したときと同じ反応だ。

「待て、今はお前の出るときじゃない落ち着け!」

 サイガがすばやくセナの前に手を伸ばし、その動きを静止した。案の定、飛び出そうとしたセナの胸が腕に当たる。

 セナは不満げに二歩退いた。

 セナに隠れてエィカも急停止していた。ばつが悪そうに身を縮ませる。



「こ、これはリン様。本日は当ギルドにどのようなご用件で?」

 オルトスがリンに向き直る。背の高いリンを見上げて首を痛めないように、距離を調節する。

「同僚から将来有望な方がいらっしゃると報告を受けまして、その方の様子を見に伺ったのですが、なにやら不穏な雲行きでしたので、差し出がましいようですが、口を挟ませていただきました」

 そう言うと、リンはサイガを一瞥し続けて顔を向けた。

「あなたがサイガさんですね。ナルから話は聞いております。大変な技量をほこる、素晴らしい戦士であると。ですので、それを証明するために私と立ち会いましょう。そうすれば支部長様も納得してくださいますわ。ね、支部長様」

 リンが満面の笑顔を支部長オルトスに向ける。

 オルトスはたじろいだ。その笑顔には明らかな圧が含まれていたからだ。

「しかし・・・」

「支部長様、姫様直属の我々六姫聖は、姫様より権限を委譲されています。よって、私の提案は姫様の提案、姫様の提案は国の提案、さらにこの提案に同意は必要ありません。決定事項として執行いたしますわ」

「か、かしこまりました。では、奥にある修練所をご利用ください」

 強引な理屈でリンはオルトスを屈服させた。身長と相成って、その圧はすさまじい。

「お心遣い感謝いたしますわ。では、サイガさん、参りましょう」

 サイガを促し、リンは颯爽と歩き出した。

 オルトス、メリウスがそれに続き、サイガたち三人も歩き出した。

「あ、そうだ」

 リンが歩みを止めて振り返る。

「よろしかったら、皆さんも見学なさいますか?証人は多い方が助かりますわ」

 リンが声をかけると、ギルドにいた冒険者達が野次馬目的で修練所へと移動を開始し、受付から職員以外の姿が消えた。 

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