第25話 「冒険者ギルド」(ストーリー)
「一体どれだけ待たせる気なのさ?いっそのこと、この壁ぶち破って強引に中に入ってやろうか」
待合所に通されてから約一時間。セナは苛立ちを隠さない様子で壁に手をつけた。
「セナさん、落ち着いてください。もう少しだけ待ってみましょう。ね?」
「わ、わかってるって、冗談だよ」
エィカのたしなめる言葉に、セナは前言を撤回した。いくらセナといえども、流石にそこまで粗暴ではない。
「セナ、どうやら、その必要はなさそうだ」
「サイガまで。だから冗談だって言ってるだろ!」
セナが顔を紅潮させ否定するが、サイガは顔をセナではなく扉の方に向けていた。直後、鎧を身に纏った中年の男と、眼鏡をかけた青年の男が扉を開けた。
「サイガ、気付いてたのかい?」
「あわてた足音が近づいてきていたからな」
サイガは立ち上がり、二人を迎えた。
中年の男と眼鏡の青年がサイガの前に整列する。
「大変お待たせいたしました。サイガ殿。ロルフ様紹介の市長へのお客様でしたとは、知らぬこととはいえ大変失礼いたしました」
開口一番、謝罪から始まると、中年の男は西門警備の班長、眼鏡の青年は市長の秘書であると自己紹介をした。
挨拶を軽く済ませ、秘書の青年は三人を外に待たせてある馬車へと案内した。
扱いの変わった詳細を中で説明するといい、四人を乗せ馬車は移動を開始した。
「改めまして、このクロストの市長ラウロのもとで秘書を務めておりますメリウスと申します。このたびは、ロルフ様からのご紹介の方々をお待たせすることとなり、大変失礼いたしました」
メリウスが深々と頭を下げた。
「どういうことだい?なんで村長の紹介ってだけでそんなにかしこまるんだ?」
「おそらく、村長殿の前歴が内務長官ということが関わっているのだろう」
セナの疑問にサイガが答えた。メリウスが左様ですと肯定する。
「ロルフ様は二十年前、内務長官を務めていらっしゃいました。その際、指導した部下達が現在、多くの要職に就き、国を支える柱として活躍してらっしゃいます」
メリウスは続けて語った。ロルフの指導力は素晴らしく、その教えを受けたものはその才能をいかんなく発揮した。
関わったものたちは例外なく出世し、そろって大恩を口にする。そしてクロストの市長ラウロもその一人だというのだ。
「ロルフ様からの手紙をラウロが確認してすぐに、私が使いに出されたしだいにございます。師と仰ぐロルフ様の紹介を無碍にするのは、あってはならないことですから」
「でも、師と仰ぐわりには、その客人を自分で迎えに来ないんだね」
セナが無邪気に質問した。疑問一点で他意はない。
「はい。本来なら直々に参りたいとラウロも申しておりましたが、なにぶん現在は厄介ごとを抱えておりまして、そのため市内を東奔西走しているしだいなのです・・・」
そこまで言ってメリウスは、はっとして口をつぐんだ。
「すいません。こちらの話です、忘れてください」
メリウスの心中を察して、三人は追及の質問をすることはなかった。しかし、サイガだけはその理由を推察していた。
それは馬車の窓から何度も目にしていた、街中に幾つも立つ看板だった。その看板には二人の人物のポスターが対立するように左右に貼らている。
さらに二人の名前であろう『ラウロ』と『ギドン』を連呼する町を練り歩く集団。このことから、市は次期市長選の選挙活動の真っ最中。
一方のラウロは先ほどから耳にする現職の市長の名。対するギドンは門の前で清掃部隊の御者と衛兵の会話から、票を獲得するために躍起になっている評判の悪い対立候補ということが推察できた。
だが、そんな見ただけで察することの出来るようなことで口をつぐむ必要があるのか?サイガはこの市に立ち込める暗雲を察した。
「ところで、この馬車は一体どこへ?」
サイガが尋ねた。
「それが、本来なら市庁舎にて市長と面会をしていただきたいのですが、なにぶん時間が取れないということで、申し訳ありませんが面会は省略させていただきます」
メリウスは再び頭を垂れる。
「代わりといってはなんですが、滞在中の支援はさせていただきます。費用などはこちらで持たせていただきますので、装備などを整えください。本日はこのまま宿に向かいがてら、ロルフ様から手紙により依頼されていた冒険者への登録のために冒険者ギルドに向かいます」
「冒険者ギルド?宿に直接向かわないのですか?私はやくシャワーを浴びたいのですが」
サイガが質問しようと口を開こうとしたところを、エィカが割り込むように尋ねた。その口調からは怒りすら感じ取れる。その気迫に押されサイガがわずかに身を反らせた。
「なぜですか?それは火急なのですか?どうしても今でなければいけませんか?乙女のシャワーよりも優先事項ですか?」
矢継ぎ早の質問で、エィカはメリウスに詰め寄った。
「お、落ち着け、エィカ。メリウス殿、すまないが理由があるなら説明していただけますか?」
エィカの取り乱しように、思わずサイガはその肩に手をかけて落ち着かせ、メリウスに質問をなげかけた。
セナがまぁまぁと、頭をなでてエィカをなだめる。
「は、はい。それが、ロルフ様の手紙によりますと、サイガ殿はその身分が保証されてないとのこと。それで身分証として比較的安易に発行が可能で、行動にも制約のない冒険者として登録を勧められているのです」
「冒険者か・・・やはり登録していないと不便なものですか?
「そうですね。このクロストのように一定以上の規模の都市となれば、身分の明らかでないものは入場を断られる場合があります。それに、冒険者となってランクが上がれば、報酬を王族や貴族から直接授与される機会もあり、場合によっては兵士として登用され、立身出世の足がかりにすることもできます」
「なるほど」
「この国でこれからも旅を続けるおつもりなら、登録は必須かと」
メリウスが言い終わったところで馬車が動きを止めた。
件の冒険者ギルドへ到着したのだ。