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最強忍者の異世界無双~現代最強の忍者は異世界でもやっぱり最強でした~  作者: 轟龍寺大鋼
ルゼリオ王国動乱編 特級冒険者リリー・コールドの章
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第244話 「死闘への一歩」(ストーリー)

 莢魔の壺、中央の地『奈落の井戸』。

 それは文字通り、遥か地底に続く大きな縦穴であり、その底は地獄へと届き、地上と地獄の直通路となっている。

 その結果として、当然、奈落の井戸は壺全域で魔力と瘴気の純度と濃度が最大となる。

 そんな奈落の井戸に、今、多くの高位の魔物が集い、次々と井戸の中へと身を投じていた。


「ひゃーすごいすごい、我の強い魔物が全然抵抗せずに身を投げてるよ。これがチートスキルってやつ?」

 魔物たちの行動を眺めながら、地獄の将、序列の三、三面妖ラシュトンの躁の相は高らかに喜びの声を上げた。

 己の意思とは関係なく、大挙し列をなして井戸の中に自ら進む魔物たちの様は、異様ではあるが、壮観でもあった。ラシュトンはその光景に思わず興奮したのだ。


 高位の魔物たちから自我と意識を奪ったのは、中将軍クライドの使う『命鐘』の効果だった。

 クライドが鐘を一鳴らしする度に、魔物たちはためらうことなく穴へと消えていく。


「私たちのいた時代には、そのような能力の者などいなかったが、魔法とは違う大系だな。興味深い・・・」

 躁に代わり、静の相が考えるように口を開いた。

 そのラシュトンの姿を見て、セティは眉をひそませる。


 ラシュトンはあまりにも異形だった。

 身体は人間と同じ青年のそれなのだが、首から上が違いすぎた。

 その頭部は胴体と首で繋がっておらず、首元の上に浮いており、顔の部分に躁、激、静の三つの相が並び張り付いているのだ。

 頭部はゆっくりと回転しており、状況、感情に従いその都度、口を開く相が正面を務める。


 これまで見てきたどんな魔物とも違うその異形ぶりに、セティとクライドは、肩を並べる位置にいながら緊張感に囚われていた。


「しかしまぁ、「地獄の軍勢と同盟を組むから特使を迎えろ」って言われて来てみたら、まさか音に聞く地獄の将自らお出ましとは恐れ入ったよ。こんなの、姫派の討伐と平行していい任務じゃないぜ」

 鐘を鳴らしつつ、クライドはぼやきを漏らす。

 その言葉どおり、中将軍の二人が莢魔の壺を訪れた目的は二つ。

 一つは姫派であるミコやシズクヴィオレッタの抹殺。

 そしてもう一つが、同盟の打診を送ってきた地獄からの特使の出迎えだった。


 特使と聞いて、迎えのクライドたちが思い描いたのが、人間で言うところの文官に相応する魔人だった。しかし現れたのは、序列の三に数えられる地獄の将だったのだ。

 二人の緊張は当然だった。


 浮くラシュトンの顔がセティに近づいてきた。躁のアンリンが正面を務める。

「ねぇきみ、セティちゃんだっけ?可愛いよね。僕の妾にならない?毎日可愛がって上げるよ。僕上手いからさ。ね」


 この状況でナンパを仕掛けてくる躁のラシュトンに、セティは不快感を露にする。

「はぁ?冗談じゃねーし。アタシ、チャラい男はお断りなんだよ!」

 怪訝な顔で手を振り、軽くあしらうセティ。

「アハハー残念」

 その見た目に反して、セティの好みは堅実だった。


 ◆


 奈落の井戸を遠方にのぞむ茂みの中、ミコたち四人は、気配を悟られぬよう身を潜めて井戸での魔物たちの奇怪な行いを観察していた。


「なんだこいつら?まっすぐあの嫌なところに向かってくぞ」

 脇目もふらず、一列となって井戸に向かう魔物の集団に、ミコは不快感を示す。

 嫌なところとは、もちろん奈落の井戸だ。

 地獄と直結する奈落の井戸は、地獄からの瘴気が直接流れ込んできており、その周辺の草木は枯れて、さながら地獄そのものだった。


 よどんだ空気に人間たちが不快感を示すなか、リシャクだけは満たされた顔で深呼吸をした。

「おぉ、これは心地よいのぅ。久々の故郷の空気じゃ。肺が(けが)れるわ」

「こんなけったいなんがええんか?よぉわからんわ」

 瘴気を吸い込みながら恍惚の表情を浮かべるリシャク。

 そんな姿を、鼻と口を袖で覆いながらシズクヴィオレッタは冷ややかな目で見る。


 そんな会話をする三人を尻目に、リリーは奈落の井戸へ目を凝らす。

「なぁ、どれも知らねぇ(つら)なんだがよぉ、どれが誰だ?」

 目をしかめるリリーの横にリシャクが立ち、同じ方向を見る。

「ふむ、三人おるのぅ。私がわかるのは、一番左じゃな。あの頭が浮いておるのが地獄の将の三、ラシュトンよ。奇っ怪であろう?」

「な、なんだよあれ?一体、どういう構造だよ?」

「あやつは三つの人格が、あの球状の頭で一つになっておる。それ故に人格がコロコロ変わって、とらえどころのないやつじゃ」


「ほんで、右の二人は服装からして中将軍やな。さっきウチらが逃がしたんがアレや」

 リシャクを追って、シズクヴィオレッタも照会に参加してきた。

「てぇことはまさか、地獄の将と反乱の連中が手を組んだってことか?」

「せやろな。少なくとも、敵対しとるようには見えへん。これ、結構ヤバいんとちゃう?」

 地獄の将と中将軍の共謀。その事実がシズクヴィオレッタに固唾を飲ませる。

「確かにな。魔物を操ってたのも、恐らくあの中将軍のどっちかだろうからな。かなり厄介な戦いになるぜ。へへ・・・ゾクゾクしやがる」

 待ち受ける、明らかな激闘と苦戦。そんな事態を想像して、リリーは口角を大きく上げて笑った。


「いかんのう、これは早々に決着をつけんと、えらいことになるぞ」

 なにかを察したリシャクが思い口調で発した。

「なにかわかったのか?」

 リリーが振り向いて尋ねた。

「魔物たちが井戸に飛び込んでおるじゃろう。あれは贄じゃ。あやつら、高位の魔物の命を捧げて、地獄との道を開こうとしておる」

「開くとどうなるんだ?」

「・・・真っ先に考えられるのが、さらに序列が上の将、一と二が地上に出てこれる」

 リシャクの額に汗がにじんでいた。その様が、ただならぬ事態であることを物語る。


 ◆


 リシャクは語る。

 本来、地獄と地上は繋がることはないが、二例の条件の元、繋がることがある。

 比較的頻度の高いのが、ラシュトンが人間の時に落とされた谷や奈落の井戸のように局所的に繋がる場合だ。

 この場合は、その規模が小さく、瘴気が漏れるか、死者が直接落ちてくるときだ。

 この規模では、将が行き来することはできない。


 そしてもう一つが、ワイトシェルでシラが行った、闇に属する神が盟約の下に召喚することだ。

 この場合は、規模は関係なく序列も問われることはない。そのため、序列の五という高い位のリシャクが地上に出ることができた。


 ◆


「だが、そんな召喚にも一つ欠点がある。地獄と地上では瘴気の濃度に差がありすぎるため、序列が高ければ高いほど、弱体化してしまうのじゃ・・・」

「てことは、地獄への道が開かれるってことは・・・」

「地獄の将が一切弱体化することなく、地上に出てきてしまう。出てきてすぐに地上を荒らし回るぞ!」

 言い終わる頃には、リシャクの顔から余裕は消え去り、険しさ一色に染まっていた。


「ん?じゃあ、あの丸い顔のヤツはどうやってこっちに来たんだ?」

 ミコはラシュトンを指差した。リシャクの話の通りなら、序列の三ほどの将なら弱体化していなければならないからだ。

「あやつはもとが人間じゃ。故に地上との繋がりが強いのじゃろう。それに加え、次元を跳躍する術も持つ。それを用いて直接地上に出てきおったんじゃ。今回の件、恐らくあやつが橋渡しとして動いておるのじゃろうな」

 リシャクの顔が苦々しく歪んだ。


 悪化し続けるリシャクの様子。それだけ、序列の一、二の将が驚異的な存在なのだろう。

 見かねたリリーが一歩前に出る。

「安心しな。一だろうが二だろうが、私がブチちかまして、一発で片付けてやるよ!」

 気っ風よく言い放つと、リリーは拳を鳴らした。


「それに、まだ道は繋がってへんのやろ?せやったら、さっき言うとったとおり、あの三人をちゃちゃっと始末したったらええねん」

 シズクヴィオレッタも、刀を抜き放ち静かな殺気を宿す。


「そうだ。先手必勝だ!」

 ミコも揚々と篭手から爪を出し、光らせた。


「お前たち・・・ふっ、そうじゃな。幸いに数もこちらが上、蹂躙してやるとするかの」

 心強い仲間たちに支えられ、リシャクは戦いに向けて笑いながら歩みだした。

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