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最強忍者の異世界無双~現代最強の忍者は異世界でもやっぱり最強でした~  作者: 轟龍寺大鋼
ルゼリオ王国動乱編 特級冒険者リリー・コールドの章
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第242話 「将の真髄」(ストーリー)

 地獄の将、序列の五という上質きわまりない食事で腹を満たした莢魔の壺の魔物たちは、寛ぎの時間を迎えるために各々帰路に着く。

 が、その一歩目を踏み出そうとしたところで魔物たちに異変が起こった。

 リシャクを口にしたすべての魔物が、苦しみ、倒れ、のたうち回りだしたのだ。


 ドンジャッカル、ドクロヴァルチャーは口から泡を吹き、苦しみから逃れようと地面に爪を立てて引っ掻き続ける。

 苦しみの時間が数分経った頃、魔物たちは揃って絶命した。

 その理由を、当の魔物は全く理解できていなかった。


「・・・・・・!」

 わずかの静寂の後、生命活動を失ったはずの魔物の身体が、跳ねるように動いた。

 表皮が波打ち、その下でなにかが蠢いている。

 

 表皮が破れ無数の穴が空いた。内側から裂けたのだ。

 穴の中に何かがいた。小さい何か。それは虫のように蠢き、空けた穴から這い出してきた。

「ふぅ、ようやく出られたわい。こやつ、えらく頑丈な毛皮じゃの」

 穴から現れた小さな生物が言葉を発した。

 生物はリシャクの姿をしていた。小さくとも、その造形は間違いなくリシャクだった。


 空けられた穴から、次々と小さなリシャクが現れる。その数は百以上にのぼっていた。

 小さなリシャクは魔物の死骸から飛び出すと、一ヶ所に集合を始める。

 一体目のリシャクに二体目が飛び付くと、二つのリシャクは融け合って一つのリシャクになった。


 一つとなったリシャクに他のリシャクたちが続き、溶け合い一つとなっていく。

 一つまた一つ、小さなリシャクが融合する度に、胎児程度だった大きさのリシャクは、人間の赤子そして少女とその大きさを変えていき、すべてのリシャクが融合する頃には、すっかり真体に戻っていた。


「まったく、随分な目に遭わせてくれたの。おかげで食いたくもないお前らの肉を食う羽目になったぞ」

 一糸纏わぬ姿のまま、リシャクはドンジャッカルの頭を踏みつける。


 リシャクは死んではいなかった。

 どれだけ分断され細分化されようと、その分だけ個体となって数を増やす『インフィニティプラナリア』の特性を利用し、食いちぎられた肉体全てを自身に作り替えて、魔物たちを内側から食い破り返り討ちにしたのだ。


 そして再び一つになることによって、リシャクは無傷での復活を果たした。

「ひゃっひゃっひゃ。いかに高位とはいえ、たかが魔物が将の私を食い尽くせると思ったか?だから言ったでろう、後悔することになる。とな」

 笑いながら、リシャクはドンジャッカルの頭を踏み潰した。脳漿が飛び散る。


「とはいえ、再生でだいぶ魔力を消費したのぅ。気は進まんがこいつらをいただくとするかの」

 そう言うとリシャクは、口を大きく六つに開いた。口腔から『アクジキテヅルモヅル』の触手状の舌が無数に飛び出し、魔物たちの死骸を口の中へと運ぶ。


 すべての死骸を口腔内に納めると、リシャクは口を閉じた。

 肉も骨もお構いなしに噛み砕く音がバリボリと響く。

 アナコンダが獲物を丸呑みするのと同じ要領で、リシャクは咀嚼物を呑み込んだ。喉が大きく形を変える。


「げぇ~~っぷ!不っ味いのう。さすがは死肉あさり共じゃ、ろくなものを食っとらんのじゃな」

 感想を吐き捨てると、リシャクは手を自身の喉に突っ込んだ。

 肘まで腕を入れ引き出すと、その手にはドンジャッカルの毛皮とドクロヴァルチャーの羽根が握られていた。


「八腕バジリスクのドレスは、お前らに台無しにされたから、これでまかなうとするかの」

 羽根と毛皮で新たにコートを一着仕立てると、リシャクは裸にそれを纏った。

「さて、それでは食って吸収した能力を使ってみるとするかの」

 そう言うとリシャクは背に大きな翼を生やした。ドクロヴァルチャーの翼だった、

「これはこれは、なかなか勇壮なものじゃの。・・・それっ!」


 翼幅が五メートルほどに達する翼に感心すると、リシャクは大きく羽ばたいて飛翔した。

「少し手間取ったが、この翼ならシズクヴィオレッタにも追い付くじゃろう。それにしてもラシュトンめ、将が将を手にかけるなぞ、地獄をいたずらに乱す真似をしおってからに・・・」

 飛翔しつつ、地上に侵攻をかけるラシュトンの暴挙と言っても差し支えない行動に、リシャクは言い知れぬ不安を抱いていた。


 ◆


 リリーとリシャクがそれぞれトラクタービートル追っている頃、シズクヴィオレッタはミコが囚われているであろうプランクデーモンの巣に向かって、上空の空将鷹と先を競っていた。

「あかん。あの鳥、速すぎや。このままやと、すぐに追い付かれてまう」


 シズクヴィオレッタの言葉通り、空将鷹の加速はすさまじく、遥か後方から豆粒のようだった小さな点から瞬く間に追い付き、さらには上空を通過していった。

 そして、追い越して数百メートルほどのところで、空将鷹は下方へ角度を変えて急降下した。目的の地に到着したのだ。

「速ぅ、(はよ)走って。ミコを助けられへん・・・!」

 トラクタービートルの背の縁を握りしめながら、シズクヴィオレッタは己の力の及ばなさに歯噛みした。


 ◆


 いち早くプランクデーモンの巣に到着したクライドと空将鷹が、すっかり瓦礫だらけになってしまった巣の中央に降り立った。

 周囲を見渡し、相棒の姿とその結果を探す。

「セティ、いるんだろ?眩惑を解いて出てきてくれ」

 クライドがセティに声をかける。眩惑魔法を得意とするセティの魔法は極めて高度で、相棒ですらそれを看破できないのだ。


 相棒であるクライドの呼び掛けに、セティからの返事はない。

 沈黙が続き、それがクライドの不安を掻き立てた。

「まさかとは思うが・・・つまらんことになってくれるなよ」

 クライドがハンドベルを手にした。上向きにすると、カランと一回鳴らす。

 直後、ハンドベルを中心に衝撃が発生し、散乱する瓦礫を浮き上がらせると、全てを壁際に吹き飛ばした。


 ◆


 クライドは異界人であり、ハンドベルを介したスキルを使用する。

 スキルの名は『命鐘(めいしょう)』。鳴らす向き、強さを変えることにより、攻撃、回復、補助、遠隔操作に洗脳と、あらゆる行為が可能なチートスキルで、道中、魔物を操ったのはこの鐘の効果だ。

 そしてその命鐘の力と、優れた身体能力で異界人でありながら中将軍の地位を手に入れたのだ。


 ◆


 今使用したのは、遠隔操作の効果と衝撃波の効果。クライドは命鐘を駆使してセティを捜索したのだ。


 瓦礫が去った箇所から、全身打撲で瀕死のセティが姿を見せる。

 クライドが慌てて駆け寄った。

「セティ、随分手酷くやられているな。すぐに治してやるぞ」


 クライドがセティに向けて鐘を鳴らした。

 癒しの波動が生じ、セティの身体に浸透すると、全身に刻まれた打撲を消した。

「う、うん・・・く、クライド?マヂで来るの(おせ)ーし、もうちょっとでアタシ死ぬとこだったじゃん」

「すまないな。あの特級冒険者の女が手強くて時間をとられた。だが安心しろ、傷は治ったぞ」

 クライドの言葉にセティは安堵の表情を見せる。


「あんがと。手、貸して」

「ああ」

 セティが手を伸ばすと、クライドはそれを掴み引き起こした。

「で、目的の六姫聖は始末できたのか?」

「いや、その前にアタシがボコられちまったからさ、アイツが魔物と潰し合うの見てるしかなかったよ。んで、その六姫聖がそこ」

 セティが親指で指した先には、尻尾を返され、安心して眠るミコの姿があった。


「超獣ミコ・ミコか。人間の身で獣人よりも激しい気性と高い身体能力の、獣人王に育てられた娘。・・・だが、そんな獣性の化け物でも、この距離でオレの鐘の殺人音波を脳に叩き込めば、脳を破壊して殺せるはずだ」

 クライドが鐘をミコの頭に近づけた。気配を察知され目を覚まさぬように、静かに、ゆるやかに。

 鐘を鳴らすため、クライドが手の力を込める。


「待ちや。なにするつもりか知らんけど、それ以上はウチが許さへんで!」

 すんでのところで、追い付いたシズクヴィオレッタの怒声が響いた。同時に刀から斬撃が飛び、鐘を両断する。

 斬り落とされた鐘が地面を叩き、澄んだ音を立てる。


 それを聞き、ミコが瞬時に目を覚ました。

「ぎに゛ゃっ!」

 身体を竜巻のように回転させながら跳ね起きると、無差別に周囲に爪を立てた。

 クライドはたまらず数歩下がる。

「くそ、目を覚ました瞬間に攻撃してくるなんて、猫そのものだなスーツが防刃じゃなかったら、致命傷だぞ」

 スーツの爪の跡に手をあてがい、クライドは冷や汗を流しながら感想を述べる。


「ミコ、無事やったんやな」

「ああ、なんだか身体がちょっと痛いけど、今のでやっと目が覚めたぞ」

 プランクデーモンから負わされた全身の打撲を、ミコは「ちょっと痛い」と評した。

 ミコは地面に叩きつけられながらも、無意識にその衝撃を逃がしていたのだ。


「マヂ?あの猫娘、ピンピンしてんじゃん」

 ミコの常識外の耐久性に、セティは露骨に眉をしかめる。

「セティ、ここは一旦退くぞ。この上でリリー・コールドに合流されれば挟み撃ちに合う。それではあまりにも分が悪い」

「くそ・・・しゃーない。ここで負けたら任務失敗だ。クライド、やってくれ!」

 クライドの提案を、セティは歯噛みしながら受け入れた。


 セティが目眩ましの閃光魔法を発し、クライドが鐘を鳴らして空将鷹を呼び寄せ、二人を足で掴むと大空へと飛び立った。

 それは、二人の見事なまでの連携による、一瞬の出来事だった。


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