第231話 「時が動き出す 其の一」(ストーリー)
ルゼリオ王国の中心に位置する中央都市グランドル。
そこに座を構える居城の一室で、城主のシフォン・マ・ルゼリオは深刻な顔で来訪者と向かい合っていた。
シフォンの対面に座るのは、王都より脱出してきた技術開発局長のドクターウィルと、軍事統括局長ハンニバル・ダムドの双子の姉弟、エンディーとトーマだった。
三人は、姫派の戦士達が特級冒険者との接触のために中央都市を発ったのと入れ替わるかたちで到着し、シフォンの前に通されたのだった。
「ということは、現状、父とハンニバル将軍は無事。そして不可侵ということね」
「はい。王室を封印した『封空暗居棺』は、神域に達した魔力がなければ強引に破壊することは出来ません。そんなことが出来るのは、この国ではメイさんぐらいです」
「なるほど。しかもそんな規模で魔力を使用すれば・・・」
「王都ごと瓦礫となるでしょう。ですので、どちらにせよ経過を見るしかないのです」
トーマは王都での体験と、その現状をシフォンに報告した。用いられた禁術、そして術全般においては、トーマがもっとも詳しかったからだ。
「エンディー・ダムド、トーマ・ダムド、大義であった。お父上、ダムド将軍の忠心、私から感謝します」
「はっ、ありがたきお言葉」
「父も喜びます」
シフォンからの労いに、エンディーとトーマは順に礼を言い、並んで頭を下げた。
双子が頭を上げた。
それを見届けると、シフォンは顔を双子の隣で珍妙な黒い箱をいじっている老人に向けた。老人はドクターウィルだった。
「で、ドクターウィル、内部事情はどうなってるの?」
「なんじゃい、いきなり本題かい。せっかく久しぶりに会うたんじゃ。昔話に花でも咲かそうじゃないか」
「もう、何を言っているの。昔話なんてしたことないでしょう?」
「そうじゃったかいのう?」
「そうよ、私が以前元の世界のことを聞いたら、その度に『過ぎたことに興味はない。全部忘れた』って言って、一回も聞かせてくれたことないじゃない!」
ドクターウィルに対した瞬間、シフォンの態度と言葉が一気に砕けた。
十年以上王国の中枢で、開発、発展の権限を一手に握るウィルは、政府の各所に対して顔が広く、王族もその例に漏れない。
加えて、シフォンは幼少から好奇心の強い性格で、魔法という既存の技術大系と全く違う科学技術に常に興味を抱いていたのだ。
そのため、二人は立場を越えた非常に親しい間柄だったのだ。
「だっはっは、そうじゃったか。それじゃあ、ご希望通りの話といくか。王都の状況じゃったな」
頬を膨らませるシフォンを笑い飛ばして、ウィルは向き直った。しっかりと目を見据えてくる。
「状況は最悪じゃぞ。もはや王都の九割以上は反乱部隊じゃ」
「きゅ、九割以上?そんな、まさか父上に反目する勢力がそこまで・・・」
ウィルの口から飛び出した驚愕の数字に、シフォンの顔は絶望に染まる。
「まぁそう取り乱すな。これは、真実の数字ではない」
「え、それってどういうこと?」
「オーリンに与している反乱分子は、そのほとんどがスキルや術によって洗脳状態にあるんじゃ。実際に賛同しとるのは野心の強い上層部の一部と、おこぼれに預かりたい腰巾着共じゃよ」
「でも、その一部が問題なんでしょ?」
「わかっとるの。意志をもって反乱を起こしとるのは、首謀者の三人を筆頭に、三人の『超将軍』も含まれとる」
ウィルが指を三本立てて見せた。これは、超将軍を表す。
「ち、超将軍も与してるなんて・・・軍の主力じゃない・・・」
超将軍の名に、シフォンの顔が青ざめる。
超将軍とは、ルゼリオ王国の軍部において最高戦力の将を示す。
その実力は人知を超越しており、超大型の魔物の集団ですら単独で駆逐してのけ、幾度も国家の危機を救ってきた功績から、特級冒険者と並んで国民から英雄視されている。
そんな、実力、人気共に王国の象徴的な人物が揃って敵となったというのだ。
その現実が絶望となってのしかかってきた。
「姫様。顔色がお悪いですが、少し休まれますか?詳しい話は後からでも聞けます」
シフォンを慮って、チェイスが後ろから声をかけてきた。
しかしシフォンは首を振ってそれを拒否した。
「超将軍が敵対したのはわかったわ。それで、オーリンの裏には誰がいるの?」
一度深呼吸をして、気を持ち直したシフォンが質問を続ける。
「内務長官。諜報局長・・・」
ウィルが該当人物を挙げながら、指を一本ずつ立てる。
一人毎にシフォンは頷く。
「そして、スキルマスターじゃな」
最後の人物にシフォンを始め、後ろに控えているメイ、チェイス、シャノンが反応した。
前述の二人はともかくとして、スキルマスターというものに、聞き覚えがなかったからだ。
「スキルマスター?誰よそれ?」
後ろの臣下を差し置いて、シフォンは思わず荒い口調で大声を出した。
「姫、落ちついてください」
シフォンの迂闊な発言に、チェイスを筆頭とした六姫聖三人が同時に前に出てたしなめる。
「んっん、失礼・・・」
姿勢と声を正し、シフォンは再び前を向いた。あらためてスキルマスターへの質問をする。
「スキルマスターとは何者なの?少なくとも私は聞いたことがないわ」
「まぁ、それもそうじゃろうな。スキルマスターは極秘中の極秘。本来なら、王とワシら技術開発局、軍事統括局、異界人監理局の三局長。そして限られた数人しか知りえんはずの存在。最初の異界人じゃ」
「さ、最初の異界人?それって、二十年前に現れたというあの・・・?」
「そうじゃ。最初にこの人物が現れ、それに続くように続々と異界人がこの世界に現れた。王が異界人を知ったのはその頃じゃな」
「姫、失礼します。よろしいですか?ドクターウィル」
「なんじゃい」
スキルマスターの話を受けて、チェイスが話の間に入った。
「スキルマスターとは一体どのようなスキルなのですか?我らが知るスキルは、その名で効果の察しがつくものがほとんどですが、『マスター』が持つ意味とは?」
「そのままの意味じゃ。あやつのは、この世界のすべてのスキルを統べるスキルじゃ」
「!?す、すべてのスキル?」
「正確に言えば、死亡などで所有者がいなくなったスキルを、己に取り込むことが出来るスキルじゃ」
「スキルを取り込む?それはつまり・・・一人で多数のスキルを所有できるということですか?」
チェイスの出した結論に、ウィルは「うむ」と頷く。
ウィルが語るスキルマスターの詳細は、チェイスのみならず、そこにいる全ての者に衝撃を与えた。
スキルの効果や威力は言うまでもなく強力なもので、一つだけでも戦局を左右するものもある。そんなスキルを複数有することが出来るというのだ。
これは、禁術や上級魔法、超将軍等に匹敵する脅威となり得た。
「そ、そんな人物が・・・敵勢に・・・」
シフォンは言葉を続けられずにいた。行く先に立ち込めた暗雲はあまりにも大きかったのだ。
「確かに、一人で大量にスキルを持てるなんて、厄介どころじゃないわね。でもさ、ドクターウィル、あんた考えあるんじゃない?」
チェイスに続いて会話に入ってきたのはメイだった。
こちらもまた知った仲だった。メイやナルの武装、ハチカンや戦闘服の草案を組んだのはドクターウィルなのだ。
それは、王と姫が袂を分かつ前のことだった。
メイの指摘を受けて、ウィルはニヤリと笑う。
「当然じゃ。シフォン姫よ、こいつで六姫聖から雑兵まで一気に強化して見せるぞ!」
笑うウィルの右手には秘密の研究所から持ち出した、ハードディスクが握られていた。
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