第228話 「愛の戦士 セイカ・ゴマ(前編)」(バトル)
使い魔達の献身により蘇った特級冒険者セイカ。
その全身は、魔力とは違う激しい黄金の光で包まれている。
セイカ特有の異能の力、超能力は、使い魔達六体の命と相成って元来のセイカの力の数倍にも及んでいた。
咆滅の魔神タタンギィルは、本能に従い破壊と殺戮を繰り返す邪神だ。そこに加え、無限とも思える再生力を有した、悪質極まる邪神だった
そんなタタンギィルは恐怖や畏怖という感性は持ち合わせていない。
だが、今は違った。
狡猾で思慮深い中将軍バイラを食し吸収したことによって、考える知能を持ってしまったのだ。それはタタンギィルにとって極めて蛇足的なものとなった。
邪神に芽生えた恐怖と警戒の心は、目覚めたセイカの危険性を感じ取っていたのだ。
「なんだぁぁこの女、なんて圧だぁ・・・」
邪神は動揺していた。
セイカの超能力は魔力で言えば神域に達しており、人間でありながらタタンギィルに匹敵していたのだ。
乱れる心は身体をも乱れさせる。
邪神の顔は、タタンギィルとバイラの顔が混在した前衛芸術のような形となっていた。
「に、人間がぁ、なぁめるなぁよぉ!」
乱れた顔を怒りでさらに乱れさせながら、タタンギィルは絶叫した。
黄金の壁によって切断された右腕を急速に再生させると、両手を下方に広げ、全ての指を立てる。
「ぽぉ!」
魔砲の声を発した。
次の瞬間、セイカの周りに十の黒い魔力の球が出現した。
タタンギィルは魔砲を乱雑に放つことしか出来ないが、バイラの技量が加わったことにより、魔砲を球状に加工しセイカの周囲に配置したのだ。
『ハウリングケージ』
魔砲で周囲を取り囲み、四方八方から圧潰する、バイラを吸収することで編み出された術だ。
「死ねぇ!ぽぉ!」
広げていた両手を一気に引き、胸の前で交差させると、全ての魔砲球がセイカに向かって突進した。
魔砲球は、セイカに触れると同時に断末魔のような音を発した。
十の魔砲の音が重なり、聞くに耐えない怪音となっていたのだ。
これには、戦いの様子を見守っていたサイガも思わず耳を塞いだ。
「ぐっ、なんて音だ。使い方ひとつで、こうも効果を上げるとは。こんなものをくらったら、いくらセイカ殿も・・・!」
言いかけて、サイガは言葉を止めた。その目に映った光景によって、杞憂であると悟ったからだ。
セイカは無事だった。身の周りに火、氷、風、土、光、闇の六属性の球を作り出し、自身の周りを衛星のように高速で周回させることにより、魔砲を撃墜したのだ。
「な、なんだぁそれはぁあ?魔法かぁ?」
タタンギィルはは理解できずにいた。魔砲が相殺されたのまではわかるが、セイカの周囲を回る魔法の球の存在を受け入れきれなかったのだ。
「ば、バカなぁ・・・六つの属性をぉ、同時に扱うだぁとぉおおお!?」
受け入れがたいセイカの姿に、タタンギィルは驚愕の声をあげる。
タタンギィルが神とはいえ、相反する属性の両用は下手な暴発を招く悪手。必要に迫られない限りは扱う理由はない。
だがセイカは、そんな忌避される芸当をあっさりとやってのけていたのだ。
「これは、ウラエが得意だった、精密な魔法制御。あの子は、魔法を扱うのが下手だった私に代わって、多くの魔法を習得して私を助けてくれた」
飛び回る六属性の魔法球を愛でながら、セイカはウラエを想い返す。
セイカは使い魔達と一体になることにより、その特性を受け継いだのだ。
「この魔法球はウラエの心。そしてこれは・・・」
言いながら、セイカはタタンギィルに掌をかざした。
直後、掌から激しい衝撃波が発生し、邪神の身体を遥か後方に吹き飛ばす。
吹き飛ばされた身体が水平に走り、そして数本の木々をなぎ倒しながら地面に落ちた。
「い、いぃっでぇええええ!な、なんだぁぁ、今のわぁあ!魔法ぉじゃぁあねぇぞぉ!」
胸と背に痛みが走り、神と人が混ざりあった顔の口から苦悶の声が漏れ、そこに魔力を乗せる余裕はなかった。
「これはラースが得意だった衝撃波。あの子はみんなを守るために、常に前に飛び出してくれていた。フィンクが盾なら、ラースは剣となって戦い続けた。そんなあの子が頑張って編み出した特別な技よ」
力強くも憂いを含んだ目で、セイカは取り乱す邪神を睨む。
「ぎぃぃぃぃい!しゅ、集中砲火が駄目ぇならぁ、これはぁどぉだぁあああ!」
仰向けの姿勢から半身を起こし、タタンギィルは右腕を伸ばしセイカに向けた。
腕の先端が変化し、銃身のような形に変化する。
「く、口を絞ってぇ射速をはやめたぁ音の弾だぁぁ。来るとわかっててもぉ、避けられんぞぉお!」
セイカの超能力に対抗するために、タタンギィルはバイラの知恵を使って手段を編み出した。魔砲を圧縮させて高速で撃ち出すつもりなのだ。
そのための銃身のような形だった。
「ぽぉ!」
邪神が発射の声を発した。一瞬遅れて、音速の壁を破った音が、爆音で響く。
人間の反応を遥かに凌駕する速度の魔砲。これならば魔法での迎撃は不可能だろう。と、タタンギィルは一瞬での勝利を確信した。
が、音速の魔砲はセイカに命中することはなかった。
セイカは一歩分、身体を動かすと、音速の魔砲を回避した。
横を通過した魔砲が森の奥へと消えていった。
「なぁ?は、避けただぁとぉ?な、なにかの間違いだぁ!だったらぁ連射でしとめるぅう、ぽぉ!ぽぉ!ぽぉ!」
再び銃身と化した右腕から魔砲が発射された。
だがそれも、セイカは必要最小限の歩幅で移動し、傍らを通過させる。弾は森に消えた。
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