第218話 「外道の策」(バトル)
超化したサイガの放った、一瞬で百を越える斬撃によって、咆滅の魔神タタンギィルは原型がわからないほどに細分化された。
切り刻まれ、百以上に分断された邪神の破片が、雨のように降り注ぐ。
セイカは『サイコシールド』を上部に広域展開し、赤黒い肉片と血の雨を防いだ。
「お見事。一瞬で神を屠るとは、さすがのお手前ですな。ティルに見せてやりたいものです」
圧倒的なサイガの技量に、バルバロッサは歓喜した。
主の不甲斐なさがその声に拍車をかける。
「なに、シラに比べればとるに足らない神だ。それに、超能力でかなり弱体化していたのも大きいな」
サイガはシールドで皆を守るセイカを見た。
肉と血の雨が止んだ。それとほぼ同時に、ティルとセナが目を覚ました。
タタンギィルの絶叫の余韻があるのか、その動きは辛そうで鈍い。
「あいたたたた・・・身体中、ヒビが入ったみたいに痛いよ。なんだい、あの攻撃は?」
「あれは『魔咆』よ。魔力を乗せた声で広範囲を無差別に攻撃するの。特別な攻撃方法ではないけど、威力は桁違いだったわ。普通、シールド越しで気絶するなんてあり無いことなの」
セナの疑問にセイカが答える。研究をしているだけあって、その答えは詳細だった。
「でも、それをくらって誰も死んでないんだから、運が良かったですね」
「バカモノ!運なわけがあるか。救ってもらったことを自覚しろ!」
ティルの呑気な一言に、バルバロッサの一喝が飛んだ。ティルは思わず肩をすくめた。
「また復活されても面倒だわ。今のうちに焼き尽くしてしまいましょう」
邪神の回復力を警戒し、セイカは超能力のパイロキネシスでタタンギィルの破片を片っ端から焼きはじめた。
「しかし不覚だったな。おれともあろう者が、ほんの数秒とはいえ気を失ってしまうなど・・・」
サイガは、己の気が緩んでいることを痛感させられた。
以前なら、有無を言わさずの先手でタタンギィルが魔咆を放つ前に、あの不気味な顔を一刀両断にしていただろう。
それが容易く想像できるだけに、現在の自分自身に怒りさえ感じていた。
「どうしたんだいサイガ?怖い顔しちゃって。ただでさえ目付きが悪いんだから、眉間にシワ寄せてたら、子供達が怯えちまうよ」
暗く沈みそうなサイガの前に、セナが横から顔を出した。
「あ、ああ、ちょっと思うところがあってな。だが、なんでもないことだ。さあ、こいつを片付けてしまおう」
そう言うと、邪神の破片を消滅させるために、魔法剣に火を灯した。
気持ちが浮わついて勘が鈍っているなどと、当人の前では口が裂けても言うわけにはいかない。サイガは、黙ってタタンギィルの後始末に集中した。
「ふぅん・・・変なの」
◆
「じゃあ、一気にやってしまうから、みんな離れていて」
「細かいものにいちいち対応していては、再生を許してしまう」というバルバロッサの意見を受けて、セイカが超能力で一斉に焼き払うこととなった。
サイガは、セナや意識を回復した使い魔達を連れて、遺跡の柱、瓦礫の影に身を潜めていた。
邪神の破片をまとめて消滅させるための、『サイコフラッシュボム』を放つため、セイカは右手の指を天にかざす。指先にまばゆい黄金の光の球が作り出された。
セイカが飛翔した。指先の球を地面の破片に向かって投じるために大きく振りかぶる。
「それぇ、サイコフラッシュボ・・・!え!?」
黄金光の球を投じようとしたところで、セイカの身体に異変が起こった。
全く自由がきかなくなり、硬直してしまったのだ。
「な、なによこれ?身体が・・・動か、な・・・」
セイカが謎の現象に必死の抵抗を示すが、身体は指一本動かすことができない。
その間に黄金光の球は消失していた。
硬直したまま、身体が地面に落ちる。身体の不自由に対し、意識ははっきりしており、その事が混乱を誘う。
「はぁい、はいはい、ちょおっとだけ待ってもらっちゃってぇいいかぁなぁ」
気の抜けたような軽い口調の男の声が、洞窟内の影となっている場所から聞こえてきた。声に続いて一人の男が影から姿を表す。
声の主は中将軍バイラだった。
バイラは異界人の停滞のスキルを使い、セイカの動きを封じていた。
そのうえで異界人達を物陰に潜ませ、単独であるように見せかけていたのだ。
「あ、あなた・・・何者なの?一体、私の身体に何を?」
「なぁに、ちょっとしたぁ魔法さぁ。あんたにぃそいつを処理されちゃあ困る、弱者の精一杯の抵抗ってぇやつさ」
バイラの言葉は出任せだった。
タタンギィルとの決着を、少し前の頃から隠行の魔法を用いて身を隠して観察していたバイラは、サイガの戦闘力とセイカの超能力に各個に対応できる機会を伺っていた。
そして二人が距離をとったところで行動を起こしたのだが、全ての手の内を伏せたまま、姿を現した。
その中には、本来の目的である、セイカの扱いも含まれていた。
バイラは策を弄するタイプだった。
「実はぁさ、そこに転がってんのぉ、さる御方がぁご所望でぇねぇ。消されるわけぇにはいかんのさぁ」
平素から気の抜けたような喋り口のバイラだが、ことさら強調して言葉を繋げる。セイカの異常に対し、他者がどのような動きをするか、炙り出しているのだ。
案の定、離れたオグノス遺跡に動きが見られた。バイラはそれを目の端に捉えながらセイカと会話する。
「あんたのその能力ぅ、厄介だねぇ。ちょいとぉ封じとこうかぁ」
バイラの右手の指がスナップ音を鳴らす。
二つの火炎弾が発生し、セイカの両手を焼いた。
「くっ!あああああああ!」
両手を火に包まれたまま、セイカが苦しみの声をあげる。身体は停滞のスキルで動けないままのため、火を消すことも叶わない。
「どうだぁい?動きがぁ封じられていれば、無詠唱の下級魔法でもぉ充ぅ分効くだろぅ?」
母の惨状を目の当たりにし、使い魔の子供達がいてもたってもいられなくなった。
一斉に飛び出そうとするが、サイガとセナに押さえつけられる。
だが子供の数六に対し、二人の腕は四。
対処の及ばなかった二人が、怒りに任せて飛び出した。シーシンとウラエだった。
サイガとセナは戦闘力の高い使い魔を優先して押さえたが、その隙をつかれたのだ。
「ママに何しやがる!ぶっ殺してやる!グゥルルルル!」
犬耳、茶髪のシーシンが犬のような唸り声をあげる。
「ママ!すぐ助けるからね!」
全身を水魔法で包んで、救援に向かうウラエ。
どちらも怒りに狂っていた。
バイラはほくそ笑んだ。
狙い通り、まんまと誘い出されてくれたからだ。
「残念。それはぁ無理だぁ」
向かってくるシーシンとウラエに右手を向けると、バイラは大袈裟に振り下ろす仕草を見せた。
直後、二人が自身の制御を失い、失速して地面に落ちた。
「グルルルル、なんだこれ、動けない?なんの魔法だ?」
「はは、お前らが知らない魔法さぁ。ちょっとやそっとじゃ解除できねぇよぉ」
バイラはシーシンの顔を踏みつけた。見た目は子供だが、魔力の質と戦闘力、犬耳の外見から人間ではないと判断して、ぞんざいに扱ったのだ。
実のところ、バイラが使用したのは魔法ではなく異界人のスキルだった。
シーシンには停滞。ウラエには支配のスキルが命令によって使用されていたのだ。大袈裟な動きは、その合図と注目させるためのパフォーマンスだったのだ。
バイラの行動と言葉は全てが偽りに満ちていた。
「さぁて、そんじゃあぁ、謎の新作魔法をもぉっと味わってもらおうかなぁ」
そう言うと、バイラの右の指がわざとらしく踊った。再び異界人に指示を出したのだ。
支配のスキルが発動した。ウラエの身体が意思に反して動き出す。
「な、なに?身体が勝手に動いてる。怖いよ、ママ、ママぁ!」
立ち上がり、セイカのもとに歩み寄るウラエ。己の意思の反映されていない行動に、ウラエは恐怖を覚えていた。顔が青ざめひきつっている。
ウラエの両手に再び水魔法が発動した。支配のスキルは他者の魔法すら支配権を持つのだ。
「ひぃっ、な、なんで魔法が?怖いよぉママ」
怯えた声をあげつつ、ウラエは魔法の水球を作りながらセイカに近づき続ける。
「あ、あなた、ウラエに何をさせるつもりよ?」
「なぁに、愛するぅママの苦しむ姿なんてぇ見てられないだろうからねぇ。せめて子供の手で楽にさせてあげようってぇ、俺なりの思いやりさぁ」
そう言って、バイラはウラエの背に手を当てる。
「さぁさ、その水球でママの顔を包んでぇ楽にしてぇやりなぁ」
そっと背を押した。
ウラエが歩き続ける。
「いや、いや、ママぁ!ごめんなさい!ごめんなさい!」
ウラエが涙を流しながら詫び続ける。母を手にかける苦しみと、迂闊に飛び出した浅慮への後悔だった。
「いいのよ。ウラエは悪くない。悲しまなくっていいから。愛して・・・」
言い終わる前に顔が水球に呑まれた。
瞬く間にセイカの顔が苦しみにまみれる。魔法の水は強制的に喉に流れ込んでくるのだ。
「ガボッ!・・・ボッ!ゴポポポ」
水と入れ替わりに肺から空気が押し出された。
火と水は容赦なくセイカを攻め立てる。
「いやぁぁぁマ゛マ゛ぁ~!ごめんなさい、ごめんなざぁぁぁぁい!ぎゃああああああん!」
もはや声にならない声で泣き続けるウラエ。
他の使い魔達の怒りも限界を迎え、感情によって魔力が暴走しそうなほどに昂る。
「くそぉおおおおおお!殺してやるぅ!」
ラースがタタンギィル級の怒声を発した。
だがそんなラースよりも先に動いた者がいた。サイガだった。
これまでのセイカと子供達の絆を目の当たりにしていたサイガは、バイラの非道な行いに誰より怒りを覚えたのだ。
これまで見せたことのないような、鬼神のような形相で、サイガはバイラに斬りかかった。
怒りのままに放たれたサイガの初撃は、軌道が単純となった。バイラはそれをクックリ刀で受け止めた。中将軍の戦闘力は上級冒険者と同等なのだ。
「外道が!情愛を踏みにじるその行為、貴様、生きて帰れると思うなよ!」
怒声はラースよりも激しかった。
「一番の大物が釣れたぁねぇ」
バイラはなおもほくそ笑んでいた。
イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。
○中将軍バイラ
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