第214話 「欲望にまみれた夢」(ストーリー)
『しかし娘、いや、セイカ女史よ、お主はなぜ我の声が聞こえるのだ?これは特別な波長で、ティルにだけ向けたものだぞ』
邪神封印の対応にかかるセイカに、覇王剣バルバロッサが問いかけた。
「その理由でしたら、これから封印を処理しながらお話しします。ですけど、このまま話を続けては彼らが置いてけぼりになってしまうので、声を皆さんに聞こえるようにしていただけませんか?」
セイカはサイガたちを気遣い提案をした。
「そうだよ、もう今さら隠す必要もないだろ?」と、ティルも同意する。
『確かにそうだな、信頼に値する御仁達なのは疑うべくもない』
そう言うと、バルバロッサは声の波長を切り替えた。
「・・・これでどうだ?」
「うん、聞こえるよ」
ティルが笑顔で頷く。
「ほ、本当だ、剣がしゃべった」
セナが目を剥いた。
「この世界に来て、今まで色々なものを見てきたが、これは驚きだな」
サイガも同じような反応を見せた。
◆
「ところでバルバロッサ、さっき神殿の封印が破魔式って言ってたけど、知ってるの?」
「うむ、いくつかある封印形式のひとつだが、その説明に関しては適任がおるだろう。物知りな本がな」
ティルに尋ねられたバルバロッサは魔録書を指名した。
指名を受け、「なるほど」と、セナが魔録書を開く。封印の形式について尋ねた。
魔録書は語った。
封印の形式は五つ。
強力な結界でおさえつけて強制的に封じる『破魔』。
拘束し自由を奪い、その内の魔力を吸出し続けることでインフラなどの供給源とする『抽贄』。
意識を奪い、力だけの状態にし、そこから力を得続ける『燃導』。
不滅の存在を極限まで弱らせ、人外の地に追放する『永殺』。
同等の位の神をぶつけ、双方拮抗、膠着した状態のまま一緒に神霊地に封じる『止界』。
その五つの中で『破魔』は、制御の利かない蛮神等に対する封印であり、その封印の時点で人間の手に余る厄災級の邪神である疑いが強いのだ。
「蛮神、邪神を封じるための封印か・・・。どうやら、今回も一筋縄ではいかなそうだな激戦は覚悟しておくべきかもしれないな」
サイガが懸念を口にする。
その間にも、セイカと使い魔たちは、封印の紋様を囲み、対応の方針を定めるための調査を続けていた。
封印の状態次第では、封印の再施行か破壊して邪神を討伐するか選択しなければならない。
「シーシン、漏れ出てる魔力量に変化は無い?」
「うん、ママぁ。昨日と同じだよぉ。・・・あ、ぎゃん!」
セイカに振り向き、笑顔で状況を伝える犬耳少年のシーシンが悲鳴を上げた。
「シーシン!?」
セイカをはじめとした全員が一斉に注目する。
そこには壁の封印の紋様に体を吸い寄せられているシーシンの姿があった。
「シーシン、俺の手を掴め!」
白髪のラースが駆け寄って手を伸ばす。
しかし、紋様から複数の闇色の手が飛び出し、ラースに絡み付くと、シーシン同様壁に吸い寄せ、押し付ける。
「いやぁ、シーシン!ラース!」
取り乱したように使い魔の名を叫ぶセイカ。その悲痛な声は子を想う母親のそれだった。
悲劇的な結末を防ぐために、サイガが飛び出した。
明らかな闇属性の手に対抗するために、魔法剣に光の魔法珠をはめ込み斬りかかる。
壁の紋様に到着と同時に、魔法剣の八連の斬撃。使い魔を拘束する闇色の手を霧と散らせた。
「お前たち無事か?」
サイガがラースとシーシンを受け止める。
そこにセイカも到着し、使い魔の二人を抱き締めた。
「ああ、よかった!無事ね。ごめんなさい、危ない目に遭わせちゃって!」
目に涙を浮かべながら、自身の油断を悔やむセイカ。そこには、実の子へ向けるのと同等の情があった。
セイカが壁の封印を睨みつけた。全身に魔力とは違う力が漲り、神が逆立ち始める。
「やってくれたわね!私の可愛い子達に何する気か知らないけど、私の夢、少年ハーレムの邪魔しないでよね!」
「ブッ!しょ、少年ハーレムだと?」
怒りに任せた、セイカの人目を憚らない発言に、思わずサイガは吹き出して、むせてしまった。
少年をはべらせる行いに、なんとなく感じてはいたのだが、あまりにも明け透けに宣言された欲望の衝撃は、すさまじい破壊力だったのだ。
「シーシン、ラース、サイガさん。みんなも下がっていて。私の『超能力』で、封印ごと邪神を消し飛ばすから!」
セイカが両手をかざすと、漲っていた謎の力の量と勢いが増す。全身がまばゆい光を発しはじめた。
◆
超能力という唯一無二の技能。それがセイカ・ゴマが特級冒険者たる由縁だった。
セイカは、若輩の頃から考古学に愛された優秀な学者だった。
調査を行えば、関わるすべての現場で歴史的発見があり、論文を書けば新説を打ち出す。
さらに解明、解読にも才能を発揮し、復活させた古代魔法は二桁にのぼり、ロストテクノロジーも数多く再現させた。
そしてあまりの功績の偉大さから、『一年ごとに教科書を上書きする才能』とまで称されている。
そんな順風満帆に学者生活を送っていたセイカに転機がおとずれた。
二年前、安全のために用心棒として雇うことが義務付けられている冒険者の随伴に煩わしさを感じていた頃、調査を行っていた古代神を奉る神殿跡において、古代神に見初められたセイカは自身を依り代として神を降ろし、超能力を得た。
それ以降、セイカは考古学者としての調査を単独で行うようになったのだ。
バルバロッサの声が聞こえたのも、その超能力の一つだった。
◆
「ちょ、超能力?まさか、この世界でそんな力が・・・」
セイカの思いがけない言葉に、サイガは一瞬戸惑う。
魔法が当たり前の世界で、まさか超能力などと言う単語を耳にするなど、考えてもいなかったからだ。
「信じられないでしょうけど、これはこの世界で私だけが持つ、特別な力。まさに神の力なの。この力なら、邪神を封印ごと消滅させられる!サイガさん、子供たちを連れて封印から離れて!」
セイカの両手から、黄金の光が封印に向かって放たれた。
光が封印を撫でるように触れた。
テレキネシスとリーディングで封印内の様子を読み取る。
「うん、大丈夫。長い封印の作用で、中の邪神はかなり弱体化してるわ。これなら、私が本気を出せばやれる。私の子供たちに手を出したことを後悔させてあげるわ!はぁああああああ!」
セイカが精神を集中させると、神殿と空気が激しく振動をはじめた。
その揺れの強さにとセイカの様子に命の危機を感じた子供たちが、サイガに群がり、しがみついてきた。
「これだけのエネルギーの迸は、人間でなくても恐怖を覚えるのか。わかった、こっちにこい」
サイガはしゃがんで子供たちを抱き寄せた。
「す、すごい揺れだね。穴ごと崩れちまいそうだよ。気をつけないといけないね」
セナがサイガに寄り添い、肩にしがみつく。
「あ、ああ・・・そうだな」
「僕たち大丈夫でしょうか?生き埋めになったりしませんよね?ああ~不安だな~」
続いて、ティルまでもが近づいて、のんきな声で肩を掴んだ。
「大人は自分で何とかしてくれ!」
全員集合という高い密集率に、思わずサイガはあきれて大きな声を出した。
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