第212話 「特級冒険者セイカ・ゴマ」(ストーリー)
「あ、あなた達、なんですか?ここは一般人が来るようなところではありませんよ。帰ってください」
子供達に囲まれた女がサイガ達に向かって怒りの声を上げた。
声を受けて、子供達が女を守るように間に立ち塞がる。
「ちょ、ちょっと待って。私達は人を探してるんだ。話だけでも聞いてくれないかい?ほら、敵対の意思は無いよ」
険悪な空気を察し、少しでも和らげるために、セナが両腕と広げながら口を開いた。刺激を与えないよう、なるべく柔らかく、穏やかな口調だ。
「人を?」
「そう。ここで調査をやってるっていう、セイカ・ゴマって人なんだけど・・・」
「セイカなら、私です。一体なんの用ですか?」
「え、あなたがセイカ・ゴマ?」
セイカと名乗った女は、セナの話に耳を貸しつつも、警戒の態度を崩していなかった。
「セイカ殿、私はサイガという冒険者です。このたび、王女シフォン様より特級冒険者であるセイカ殿への協力を仰ぐ任を受け参った次第です。任務の内容を記した書簡もここにあります。一先ず、目を通していただけませんか?」
セナの横を通り、一歩前に出たサイガが懐から書簡を取り出し差し出した。
「きみ、これを渡してくれるか?」
一番手前の、白い髪の少年に書簡を渡す。
少年は受け取ると、セイカに近づき手渡した。
書簡から手紙を取り出すと、セイカは目を通し始める。
数分後、読み終えたセイカが前を向く。
「お話はわかりました。私がオーリンに協力する理由はありません。王国の平和のために力を尽くさせてもらいます。ですが・・・」
セイカは言葉を詰まらせた。表情がわずかに曇る。
「?どうかしましたか?」
異変を感じ、直ぐにサイガが尋ねる。
「私が現在調査中のこのオグノス遺跡、ここの調査に決着をつけないことには離れることが出来ないのです」
「調査に決着?一旦中断するわけにはいかないのですか?」
サイガは当然の疑問を口にした。決着という言葉に違和感を覚えたのだ。
「実はこの遺跡、内部に災厄に匹敵するほどの邪神が封印されている恐れがあるのです。しかも、その封印はかつてこの地を満たしていた湖の水で蓋をする形で封じていたのですが、見ての通りあの穴から水が抜けて以来、徐々にその封印の効果が弱まっているんです」
セイカはすぐ側で大きく口を開けるシンクホールを指差す。
「ということは、その封印を再度施すか中の邪神を討伐するしかないということですか?」
話を聞き、事態を理解したサイガが解決策を提案したが、セイカをはじめセナとティルは耳を疑った。あまりにも極論が過ぎたのだ。
「え、と、討伐?サイガ、あんたいきなりなに言い出すのさ?普通、どうにかして封印をやり直すって考えに落ち着かないかい?」
あまりにも力任せな解決案に、流石のセナも肯定できずにいた。
「そちらのお嬢さんの言うとおりです。何とか再封印の方法を見つければ、無駄な戦闘をやらなくても済むはずです」
「再封印ですか・・・ですが、何かあてはあるのですか?蓋をしていた水は既に流れてしまっているのでしょう?」
「それを現在調査中です。今日もこれから遺跡に降りる予定だったのですが、あなたたちが来たから・・・」
セイカが言いよどむと、その重い空気を察して、少年達が一斉にサイガ一行を睨んだ。
「こ、こら、あなたたち。この人たちは敵じゃないから、睨んじゃダメよ。おとなしくなさい!」
「は、はい。ママ」
セイカに制され、青い髪の少年が声を発すると、続いて少年達が敵意を解く。
「いい子ね。さ、あなたたちはさがってなさい。ママはこの人たちとお話しをしてくるから。ウラエ、お茶を用意して」
「はい、ママ」
青い髪の少年の頭をなでながら、子供達を下がらせるセイカ。
給仕を命じられた子供が簡易的な竈に火をくべて湯を沸かし始めた。
◆
セイカに着席を促されたサイガ一行が卓に着く。三対一で向かい合うと、セナが一番に口を開いた。
「お子さん、たくさんいるんですね。しかも年の差もないみたいだし、もしかして六つ子ですか?」
大勢の子供を目の当たりにしたセナが無邪気にセイカに尋ねたが、セイカはひきつった顔で「ま、まぁ・・・」と歯切れの悪い返事をした。明らかに様子がおかしい。
「?」
三人に疑問符が浮かぶ。
ここでサイガは一つのことを思い返した。魔録書がセイカについて解説した際に述べた、他人を煩わしがって一人で探索を行っているというところだ。
「なるほど、子供の奴隷を引き連れていては、他の冒険者や研究者からの評判も悪くなりますからね。他人を遠ざけるのも頷ける。だが、魔物が出るかもしれないところに子供を連れて歩くのは感心しませんね」
批判めいた口調でサイガが言った。
奴隷という存在は、ルゼリオ王国において違法のものではないが、それで連れて歩くのはあくまで成人だ。
未発達な子供をむざむざ危険な目にさらす行為は、どの立場の者に対してもやるべきではないと、サイガには義憤の色が湧き上がっていた。
「ち、違います!」
セイカが怒鳴った。
「た、確かに、あの子達は見た目は子供ですが、違うんです!」
「?」
三人にまた疑問符が浮かぶ。
「あ・・・あの子達は・・・使い魔なんです。昔、私が調査した遺跡で発見した、意思を持つ魔法生物で・・・鳥の刷り込みみたいに、封印を解かれた直後に目にした私に懐いたので、そのまま使役して身の回りの世話を任せているんです」
子供達を連れている理由を、ぽつぽつと成果は語り始めた。が、理由を述べてもなお、その顔から謎の罪悪感の色は消えない。
「人間ではありませんでしたか、それは失礼しました」
サイガはすぐさま自身の早合点を謝罪した。
「い、いえ・・・人間の子供の姿で誤解するなというほうが無理な話ですので・・・そ、それに・・・この子達、本来は別の姿ですし・・・ごにょごにょ・・・」
語りながら、セイカの語尾が徐々に弱まっていく。
ここに関しては、サイガは全く理解できないでいた。
「本来の姿じゃない・・・?あ、わかった!使い魔が子供の姿なのって、セイカさんの趣味なんですね!だからそれを見られたくなくって、一人で探索してるんだ!」
ティルがたどり着いた答えを、大声叫んだ。一瞬でセイカの顔が赤く染め上がる。
「・・・・・・!!!!!」
図星をつかれたセイカが両手で顔を覆って伏せた。手からこぼれた耳まで赤くなっているのがわかる。
「ええ?しゅ、趣味って、子供をはべらせるのがってことかい?」
初耳の嗜好なのだろう、セナは信じられないという様子でセイカと子供達を交互に見る。
「はい、そういう趣味の人がいるって聞いたことはあります。だから、あの子達に『ママ』って呼ばせていたのも、きっとそういう親子ごっこみたいなことをやりたかったんですよ」
触れられたくない恥部に、無作法に踏み込んでくるティルの言葉で、セイカは更に追いつめられる。
「い、言わないでくださぁぁぁい・・・。これが異常なことだって解ってるんですけど、でも、可愛い男の子に囲まれていると、仕事にもやる気が出るし、満たされて頭の回転も上がって、古代文字の解読の速度や精度もあがるんです。だから、だから・・・」
「わ、解りました。別に責めているわけではありません。罪でないなら、個人の趣味に口を出すつもりはありませんので・・・」
取り乱すセイカに、サイガは落ち着かせようと声をかける。
「でも、男の子って、今お茶を入れようとしてくれている子は、可愛いドレスを着てるじゃないか。って、まさか・・・」
何かに気付いたセナがウラエと呼ばれた少女をじっと見る。
「あ・・・あの子も・・・男の子です・・・女装が似合うので、女の子の格好をさせてます・・・」
これまでで最も言いづらそうな態度でセイカは言う。
「すごい!徹底した変態だ」
ティルがまた大きな声を出した。
「言わないでくださぁぁぁぁい!」
セイカはティルに負けないほどの声で絶叫した。
イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。
○特級冒険者 セイカ・ゴマ
○シーシン
○ラース
○フィンク
○リュオ
○ヌェス
○ウラエ
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