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第209話 「絆は何よりも強く」(バトル)

 激戦の中で、魔法使いは飛行魔法を維持することができず、オーリンの刺客三人は地上に降り立った。

 不利な戦況の改善を見るや否や、双子のエンディーとトーマが近づき、同時に右手に握った武器を振り下ろす。

 標的の異界人と魔法使いは、同時に躱す。

 追撃で双子は左の横蹴りを放つが、それも鮮やかに回避された。


 指揮官のグレイドは、十の金属球を捌きつつも、『共有』のスキルで双子の動きを配下に伝えていた。

 その効果により、配下の二人は双子の攻撃を俯瞰で知ることができていたのだ。

 そこは中将軍の器だった。


「ははっ、無駄だよダムド姉弟。おまえらの動きは全部見えてるんだ」

 魔法使いが余裕の声をあげる。


 双子の右からの武器の振り抜きを回避すると同時に、異界人と魔法使いが爆発魔法を発動させた。

 すかさず双子は、揃って後方への宙返りで爆発を避ける。


「なにこれ、全部避けられるじゃない。すごい厄介なんだけど!」

 回避によって距離が空いたことで、エンディーはあらためて感想を口にした。


「やっぱりグレイドを先に潰さないと、動きを見切られちゃうよ。やり方を変えた方がいいんじゃないかな?」

「だめ、そんなの私のプライドが許さない」

「なんだよそれ」

 イラつきを隠さないエンディーにトーマが提案するが、姉の強権で却下した。


「じゃあどうするの?ドクターウィルがグレイドを倒すのを待つ?」

「そんなわけないでしょ。本気でいくわ。トーマ、あれ、やるわよ!」

「うん!」

 双子は再び前進した。

 エンディーとトーマの同時の右の前蹴り。

 異界人と魔法使いは、退って躱す。

 さらに左の回し蹴り。武器の突き。大きく飛び上がっての前回転攻撃。瞬時の同時連擊。

 しかし、その全てが、グレイドの指示によって空を切る。


「いつまでやるつもりだ。無駄だって言ってるだろ!ぐっ!?」

 回避し、余裕を見せた魔法使いの男がエンディーを嘲った。が、その瞬間、エンディーの左の裏拳が体を掠めた。

 虚をつかれた魔法使いは、大袈裟に数歩退く。


 魔法使いは体を掠めた攻撃の余韻を確かめていた。

「な、攻撃を受けた?」

 魔法使いは思わず異界人を見る。だが、異界人にその様子は無い。

「俺だけだと?」

 魔法使いは動揺した。そしてそこで、スキル『共有』が悪影響を及ぼした。動揺が三人に伝染したのだ。

 グレイドは痛みで集中力を欠き、異界人は足をもつれさせる。

「お、おまえら、慌てるな。奴らの攻撃に集中すれば、躱せるはずだ!」

 動揺を見せながらも、グレイドは配下の二人を鼓舞した。


 だが、その間も双子の猛攻は続く。

 上から下への武器の一撃、返す動きでさらに一撃、追いかけるように右の横蹴り、下ろした蹴り足を軸としたバックハンド。

 二人の一糸乱れぬ矢継早の攻撃は先程同様、対する者に僅かに触れ、さらにその頻度は増していた。


「な、何故だ?何故、攻撃が当たるんだ?俺の指示が狂っているのか?」

 グレイドはさらに動揺し、それは混乱の域に入ろうとしていた。


「お姉ちゃん。グレイドのやつ、慌ててるね。なんで圧されてるのか、わかってないよ」

「当然よ。私達の連携の正体、わかるわけ無いわ」

 エンディーとトーマの攻撃は、実は同時ではなかった。

 二人の攻撃は、ほんの僅か、時間にすると十分の一秒以下程度で誤差があるのだ。

 それは、エンディーが先行の場合もあれば、トーマの場合もある。

 誤差の担当は決まっておらず、完全な思い付きのランダムな行動。しかし行動が重なることはなく、互いを邪魔せずに攻撃を繰り出して相手を追い詰めていた。

 それは双子ならではの、完全に呼吸の一致した動きだった。


「トーマそろそろ終わらせるよ!とりゃああああ!」

「うん!たぁあああああ!」

 撹乱行動により、戦いの主導権は完全に双子のものとなっていた。

 二人は、揃うと見せかけてずらし、ずらすと見せかけて揃う攻撃を入り乱れさせ、攻撃の命中の精度を上げていく。

 精神、肉体ともに疲弊したところに浴びせられる、連擊に次ぐ連擊は、異界人と魔法使いの戦闘能力の許容を大きく上回り、ついには回避が間に合わなくなってしまった。


「これで、おっ仕舞ぁい!たぁあああ!」

「たぁあああ!」

 同じタイミングで決着の一撃が放たれた。

 エンディーの剣は喉、トーマのヌンチャクは顔面、それぞれが必殺の一撃を命中させた。

 異界人と魔法使いは血を散らしながら地面に転がった。


「あー、面倒くさかった」

 剣を納めると、エンディーはいまだ金属球と死闘を繰り広げているグレイドを見て、次にドクターウィルへ視線を移した。

 ウィルは弄ぶように金属球を操る指を動かしていた。


「ほれ、お前ももうええじゃろ。大人しく寝とれ」

 ウィルの指が、ひときわ激しく動いた。

 それに伴い、金属球の動きも激しさを増し、グレイドの周囲を旋回し始めた。

「そりゃ!」

 ウィルの両手が閉じた。同時に、金属球も一ヶ所に密集し、グレイドを押し潰す。

 「うぎゅっ!」と、窮屈そうな声を上げて、圧迫されたグレイドは気を失った。


 ◆


 戦いが終わり、気絶したグレイドをトーマが縛り上げた。

「中将軍を倒すなんて、やるじゃないドクターウィル。次は私達と戦場に出てみる?」

 グレイドを下したウィルに、エンディーは上機嫌となった。父親譲りの戦士の一面が顔を出していた。

「冗談じゃないわい。お前らが二人を倒してダメージを共有させたから、ワシでも中将軍を倒せたんじゃ。本来なら、相手にもなっとらんぞ」


 ウィルの言うように、この勝利は双子の働きが大きかった。

 二人なら、例えウィルの加勢がなかったとしても自力で切り抜けていただろうと、ウィルは感じていた。


「さて、ではあらためて研究所に入るとするか」

「え?だって研究所はさっきの爆発で吹き飛んだんじゃ・・・」

 ウィルの発言に、思わずトーマが尋ねる。

「何を言うとる。ワシの作った施設が、あの程度の爆発で壊れるわけ無いじゃろ。吹っ飛んだのは小屋だけじゃ」


 言い残すと、ウィルは焼け残った小屋の残骸を払い、地下への階段を開くと、中へ入り地下へと消えていった。

 数分後、目的のものを回収し、上機嫌なウィルが戻ってきた。


「ねぇ、なにそれ?」

 当然の疑問として、エンディーはウィルの右手に握られた黒い小さな箱を指差す。

「ふふふ、これはワシの研究データがつまった、自作のハードディスクじゃ」

「ハードディスク?」

 異世界からの土産物。当然、エンディーは知るよしもない。

「お前らには説明してもわからんじゃろ。中央都市に着いたらその恩恵に預からせてやるから、楽しみにしとれ。ほら、行くぞ」


 上機嫌のウィルに促され、双子は円盤の上に乗る。

 三人の乗った円盤は、北の地、姫の治める中央都市グランドルへ向かって飛び立った。

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