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第205話 「因縁の老将」(ストーリー)

 ルゼリオ王国王城ハクテ最上階、王の居室前の大扉の前に三人の姿があった。


 三人の中央、ひときわ高い背と分厚い肉体。獅子のたてがみのような髪と髭。威風堂々たる立ち姿の男。名をハンニバル・ダムド。ルゼリオ王国軍事統括局長を勤める豪胆な男だ。


 ハンニバルの左右には副局長の騎士アレックスと魔導師グレース。共に副局長を勤めるだけあって、その道に長けており、上級冒険者並みの実力を持つ。


「長官、オーリン殿は本当に謀反を起こすとお考えですか?」

 大扉の前、横並びの姿勢のまま、アレックスはハンニバルに尋ねた。


「噂を信じるならそうだろうな。だが、同期のワシから言わせれば、あいつは、そんな大それたタマではないがの」

 ハンニバルは腕組みをして天井を見上げた。いささか理解できないといった反応だ。


「同じ噂で言うなら、異界人のスキルに魅入られたというのが原因といわれています。ちょうど、国王陛下に異変がみられた頃と言われてますが・・・」

 魔導師グレースが述べた。

 国王の容態の異変は、国民は知ることはないが、内政に深く携わる立場なら周知の事実だった。


「狂ったオーリンが国を盗るために陛下を狂わせたというやつか・・・たしかに、異界人のスキルなら魔法と同等かそれ以上の効果を望めるが・・・過ぎた力は小心者を力に駆り立てるか。それとも、小心者故に力に呑まれたか・・・」

 目を閉じて、ハンニバルは言葉と思考を巡らせる


 廊下に複数の足音が響いた。執務官の革靴の音ではない。武装した兵隊の軍靴の音だ。

「どうやら、噂は本当だったようですな」

 アレックスの顔が一気に険しくなった。

 前に出て左に向き直ると、兵士の一団を睨み付ける。


「貴様ら何用だ!?雑兵の分際で、王室を前に武装など不敬であるぞ!」

 威嚇と同時にアレックスは剣を抜いた。反逆の徒に対して敵意を抑えることはない。

 続いて、グレース、ハンニバルも通路を塞ぐように左を向く。


「不敬か。それはこれから王位を失う者には不要な言葉だな」

 ふてぶてしい言葉を吐きながら、兵達の間を一人の老人が進み出てきた。

 渦中の人物、異界人管理局長オーリン・ハークだった。


 討つべき国賊の姿をみとめると、ハンニバルをはじめとした三人が身構えた。

 形を錯覚するほど、はっきりと殺気が立ち(のぼ)る。


 軍の最高峰三人の怒りを前にしても、反逆者オーリンの顔は余裕に満たされていた。口角を上げ、微笑んでいるほどだ。

「余裕だな。ワシを前にそんな顔をするとは、この数年でずいぶんと太くなったものだな!」

 強い言葉。思わず、両脇のアレックスとグレースがわずかに身をすくめる。


 この数年というのはオーリンが異界人管理局長に着任してからを指す。

 それまでのオーリンは、同期のハンニバルの知る限り、力に怯える小物だったのだ。

 その事を踏まえて、ハンニバルは威嚇気味に声の調子を少し強めていた。


 オーリンの持つ杖の先端が床を叩いた。

 澄んだ金属音が走り抜け、声を消すように静寂を作る。

「やかましい!いつまでもそんな虚仮威しに怯む私ではないぞ。私は今や百人以上のスキル持ちの異界人を抱えているのだ。いくら数万の兵がいようが、恐るるにたらんぞ!」


 声を張り上げ張り合うオーリンに対し、ハンニバルは「ほぅ」と感心した反応を見せた。

 数年前までうだつの上がらなかった同期の弱卒が、気迫だけとはいえ武勇の誉れ高い将と拮抗したのだ。


「他人の力でよくもまぁ、そこまで居丈高にいられるもんだな」

 黒々とした立派な髭を撫でながら、ハンニバルは同期の増長ぶりを切り捨てる。

「どうやら噂通り力に狂っとるようだ。それならば、そのおごり、首と一緒にたたっ斬ってくれるぞ!」

 気合いと共にハンニバルが巨大な矛をかまえた。


 『暴竜(ぼうりゅう)牙矛(がぼう)』。

 金属の塊すら熟れた果実のように噛み砕く、『暴竜カーラーン』の牙を加工して作られた矛。

 ルゼリオ王国に伝わる宝具のひとつであり、数多くの軍功に国王テンペリオスが直々にハンニバルに授けたものだ。それ故にこの牙矛は、誉れと同時に誇りでもあった。


 牙矛を構えるハンニバルの姿は勇壮で、歴戦の貫禄を感じさせる。

 その堂々たる勇姿にオーリンは強く歯噛みした。

 王より直接宝具を賜るなど、臣下として最大の誉れである。ハンニバルはそれを受けている。

 歩み出しが同じである、同期ならではの負の感情がこみあげてきていた。


「おのれ、宝具まで引っ張り出してきたか。だがいくら宝具といえど、スキルの前には無力だということを教えてやる。出ろ」

 オーリンに呼ばれ、黒いフードを目深に被った人物が前に歩み出てきた。

「ハンニバル、お前の言う他人の力、存分に味わわせてやるぞ!やれ!」


 オーリンが杖の先を前に向けた。

 それに従い、フードの人物が両手を前にかざす。

 次の瞬間、手の先から衝撃波が放たれ三人を襲った。

 スキル『衝撃波(ショックウェーブ)』だ。


「ぬぅっ!」

「うあっ!」

 衝撃に押され、アレックスとグレースが後方に転がった。

「未熟者!この程度の衝撃で何をしておるか!」

 唯一微動だにしなかったハンニバルが、ふがいない副官を叱り飛ばした。

「も、申し訳ございません!」

 二人はすぐさま立ち上がった。


「・・・それがお前の自信の源か?ふん、児戯だな」

 そう言うと、ハンニバルは矛を横向きに大きく振りかぶった。

「正面から放っておきなが、二人程度転ばせるのが精一杯なもので、ワシの命がとれると思うな!」

 矛が横一文字で振り抜かれた。


「!!ひぃっ!」

 オーリンが誰よりも早く身を伏せた。

 直後、フードの人物と取り巻きの兵達の体が上下に両断され崩れ落ちた。

「陛下のお住まいの城を血で汚してしまったか。オーリン、責任の一旦はお前にもある。しっかり償ってもらうぞ」


 振り抜いた矛を肩に担ぎ直すと、ハンニバルはオーリンに歩み寄る。

「自ら出てくるとは、浅慮だったな。お前の野望もここまでだ。法の下で徹底的に裁いてやるぞ。さあ、縛につけ!」

 矛の刃を首に当て、オーリンを追い詰めるハンニバル。


「アレックス、グレース、こいつを拘束しろ」

「は、はい!」

「すぐに!」

 命じられた二人が、拘束のためにオーリンに近づき手を伸ばした。


 だが、その伸ばした手に、殺意が迫るのを二人は感じ取った。

 瞬間的に体を翻し、後方に回避する二人。

 培った戦闘経験が命を救った。二人が居た場所は、一方が斬撃で十字に刻まれ、一方が打撃で穿たれていた。


「貴様ら、なんのつもりだ!気でも違ったか馬鹿者ども!」

 ハンニバルが怒鳴った。感情の込められ激しい怒りの声だった。


 アレックスとグレースを襲ったのは二人の若者だった。

 一人は、二刀流の曲刀を持つ眼鏡の女、エンディー・ダムド。

 もう一人は、鋼鉄製のヌンチャクを構えるトーマ・ダムド。

 共にハンニバルの実子にして、実力で副長官の座を勤める戦闘の天才達だ。

 目の当たりにした我が子の凶行。ハンニバルの怒りは尤もだった。厳格な顔が憤怒に染まる。


「ちょ、長官、あの二人様子が変です。何か、意識が朦朧としているような・・・」

「だからなんだ!スキルか魔法か知らんが、術中にハマる馬鹿に手加減はいらん!殺せ!」


 エンディーとトーマから伝わる違和感を、グレースが口にするが、ハンニバルは聞く耳を持たなかった。

 その言葉通り、副長官の身で敵の手に落ちるなどという、醜態、父として上司として、これ以上の恥はなかった。


「アレックス!グレース!その馬鹿共を押さえつけろ!首を斬り落としてやる!」

 天地が震えそうなほどの怒声で、ハンニバルは怒りを見せた。



イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。


○軍事統括局長ハンニバル・ダムド

挿絵(By みてみん)


○エンディー・ダムド

挿絵(By みてみん)


○トーマ・ダムド

挿絵(By みてみん)

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