第202話 「エリート・プリンセス・シフォン」(ストーリー)
謁見の時が終わり、シフォン率いる六姫聖は、サイガ達を労う会食のための着替えを行っていた。
ファンク城内、六姫聖達の着替えのために用意された大部屋。
その中で、一人の女を三人の女が取り囲んでいた。
囲むのはメイ、ナル、リン。そしてその中央に主であるシフォンがいた。
シフォンは謁見時とうってかわって、緊張感の抜けた顔でメイと抱き合っていた。
「さっきは大きい声だしてごめんね。だって、仕事だから・・・」
「はいはい、わかってるって。シフォンは頑張ってるから、ちょっと熱入っちゃうんだよね」
甘えるような声を発する主を、臣下であり親友が軽く頭を撫でながらなだめる。
「ドレス姿も綺麗だったわ。もう立派な王族の風格がついたわね」
「でしょでしょ、私すごく頑張ったんだから。うふふ」
リンに誉められ、シフォンは自慢げな笑顔になる。
「ねぇ、ナル、ナルは?」
「ん?いちいち言わなければ解らないのか?」
「・・・え?」
ナルの重い声色に、シフォンの顔がわずかに曇る。
「・・・完璧だった。さすがだ。シフォン、私は、誇らしいぞ」
「やったあ!」
シフォンは軽く跳ねて喜びを表した。
四人は学生時代からの親友というのもあって、人目の無いところでは、途端に関係性がかつてのものに逆行してしまうのだ。
さらにシフォンには極度の甘え癖があるため、三人はシフォンを誉め殺ししてしまうのだ。
「お前達、いい加減にしろ。姫様を甘やかすなと何度も言っているだろう。姫様もです、評価が聞きたいなら、側仕えの私にお聞きください!」
主と同僚をまとめて叱り飛ばしたのは、六姫聖のチェイス・ハーディンだった。
活動的な黒い短髪に、眼鏡越しでも解る力強い眼光。
六姫聖の中で最も事務や内政の能力に優れる反面、戦闘能力に劣るが、その油断の無い性格から、シフォンを近くで支えている。
そのため、シフォンには普段から厳しく接しており、先程のような同級生達のとろけるような甘やかしに、うんざりしているのだ。
「そんなこと言ったって、チェイスは誉めてくれないでしょ?」
「当然です。王族たるものが公務のために尽力するのは職務。当たり前のこと。学生ではないのですよ」
チェイスの厳しい口調に、シフォンは頬を膨らませる。
「まぁまぁチェイス、今はそれぐらいにしておきましょう。はやく着替えて会食に向かいましょう」
背後から近づいたシャノンが肩に手を置き、チェイスをなだめると、軽く息を吐いて落ちいた。
チェイスの袖が軽く引っ張られた。目を向けるとミコがいた。
「なぁチェイス、ミコは着替えが終わったから、先に広間に行ってて良いか?」
「ええ、行ってらっしゃい。でも、おとなしく座って待ってるんですよ」
チェイスは屈んで視線を合わせ、優しい口調で声をかける。
「はーい、いってきまーす」
ミコは喜んで駆け出して、部屋から飛び出した。
「あんただって、ミコには甘々じゃん」
微笑みながらミコを見送るチェイスに、メイがあきれたように声をかける。
「あ、あれは、言ってもきかないから仕方がないのよ。姫様と野生児を同列に扱うわけにはいかないでしょ?」
「ふぅん・・・!」
チェイスの言い分にいささか納得のいかないメイがなにかを見つけ、にやりと笑って口を開く。
「まぁ、ゆとりをもって見てるってことだ?」
「そうね。まさにそういうことよ!」
言い分が通った。と、チェイスは得意気な表情を見せる。が。
「じゃああれも、そのゆとり教育の賜物ね」
メイが指を指す。
その方向に全員が目を向けると、そこには手順を守らず脱いだのだろう、手荒く扱われてボタンも装飾も飛び散った礼服が散乱していた。
一着数百万を下らない、ミコ専用のオーダーメイド。財務も管理するチェイスは一瞬で青ざめる。
「ミ、ミコぉーーーーーーっ!!」
絶叫と共にチェイスは髪をかき乱した。
◆
会食のためにサイガ達が通された大広間。そこもまた白く、そのうえ広大だった。
さらに中央に数十人が着けるテーブルが迎える。
そこには既に一人が着席していた。
先程、元気に部屋を飛び出したミコだ。チェイスに言われた通り、行儀良く座って待っている。
「あら猫娘やないの。お姫様と一緒違うん?」
一段階高い声でシズクヴィオレッタが歩み寄ってきた。許可も取らずに、喉と背中をなで回す。
「う、うにゃ、ミコだけ着替え終わったから・・・先に来たんだ・・・うにゃ・・・ごろごろごろ」
シズクヴィオレッタの見事なテクニックで、ミコはマタタビを与えられた猫のように酩酊した。
快楽に逆らえず、身を委ねる。
「な、なんだ、お前・・・うますぎるぞ・・・ミコ、眠くなってきた・・・」
「せやろ。うちにかかったら、お嬢ちゃんもそこらの猫と一緒や。ほら、往生しぃや。うりうり」
「何をしとるんだ。俺達も麾下に加わった以上、そっちは先輩だぞ。あまり失礼な態度を取るんじゃない」
見かねたアールケーワイルドが、手刀を軽く頭に当てて、シズクヴィオレッタを制した。
さすがにやりすぎたと自覚があったのか、すぐに手を止めると、ミコを解放した。
「うみゃ、みゃ・・・」
その後、ミコはしばらく呆けていた。
◆
数分後、着替えを終えたシフォンと六姫聖達も広間に入り、席に着く。
会食が始まると、『今後の方針』についてという議題でチェイスが口を開いた。こういう時に話題を切り出すのがチェイスの役目なのだ。
「王派から離反した、ドウマという者の話からすれば、オーリン・ハークという人物が謀反をたくらんでいるというのは確実のようです。そのために、特級冒険者とも繋がりを作っていると申しておりました」
サイガが伝えたのは、ドウマからもたらされた情報だ。
「北西に領を構える、レディム・ルーグストンですね。もとより野心の強い人物でしたが、よもや、謀反に至るとは・・・」
シフォンの顔に無念の色が浮かぶ。
野心のそれ自体が強いのは責められることではないが、露になるということは、見限られたということなのだ。
これは、主君として不足と断ぜられたということになる。
「となれば、オーリンと繋がりのある特級は、レディムだけとは考えにくい。後顧の憂いを断つためにも、他の特級連中の動向を見る必要がありますね」
チェイスが懸念を口にする。
「そうね。離反の意思がなければ良し。しかし、もしそのつもりならば、始末を着けねばなりません」
シフォンの言葉には強い決意が感じられた。
「しかし、レディムを除いてもこの国の特級は四人。揃って曲者のうえ、そのうち二人は根なし草。探しだしたり、心中を探る前に謀反が始まってしまうのではないですか?」
ナルが、ウインナーコーヒーの山盛りのホイップを頬張りながら尋ねてきた。
「僭越ながら、それならば、調べはついております」
声が聞こえた。しかしその声は、テーブルに着く誰のものでもなかった。
「誰だ!?」
いちはやく、サイガが反応して椅子から飛び出し、忍者刀を抜き殺気の警戒網を展開した。
一瞬遅れて、六姫聖も戦闘態勢をとり、シフォンを守るために立ちふさがった。
「いや、心配せんでもいい。味方じゃ」
そう言って皆を落ち着かせたのは、ソウカクサタンコールだった。
広間の空気が静まった。
テーブルの中央に、円状の影が現れた。
影は次第に広がるとテーブル幅半分ほどで止まった。
影から、ゆっくりと頭が浮き出てきた。
紫の唇に紫のスーツ、異様な雰囲気を携えた男、王国諜報部ギネーヴがその姿を表したのだ。
イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。
○諜報部員ギネーヴ
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