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第201話 「王女シフォン・マ・ルゼリオ」(ストーリー)

 一角楼から出立して約二日、東進を続けたサイガ達の前に、堅牢荘厳な純白の建物が現れた。

 ルゼリオ王国 姫宮(ききゅう)フェンク城。

 かつての都であり、王城だったものだ。

 遷都の際に姫であるシフォンへ譲られた、ルゼリオ王国最大の都市であり、文化、流行の中心地だ。


 一行は門の前で車両を降りると、シャノンに導かれて都市に踏み入った。

 サイガ達は目を奪われた。都市内はあまりにも白かったのだ。

 城から城下町の建物に至るまで、純白と言って差し支えないほどの白さだったのだ。


「驚いたでしょう?姫の方針でね、王家を象徴する色と、高潔さを表すために定期的に城壁内を白く染め上げるの」

 シャノンが誇らしげに語った。

 姫の統治後、実施されたこの政策により、観光客が増加し治安が向上したというのだ。


「おれの世界には『水清くして魚棲まず』という諺があるが、それを聞くと、一概にそうとも言えないようですね」

 感心しながら、サイガは街並みを見渡す。


「しかし、この作りは平和すぎるのではないですか?」

 門から城まで一本道が続き、その途中に障害物は存在しない。

 警備の面でいささか不安を覚えるが、シャノンが付け加える。

「そこに関しては、六姫聖きっての性悪が罠を仕掛けているので安心なんですよ。ふふっ」

 少しいたずらっぽく、シャノンは笑った。


 雑談を交わしながらまっすぐ進んでいると、一行は城へ到着した。

 さすが六姫聖の居城だけあって、シャノンとミコが先頭に立てば、一切止められること無く入城することができた。


「ひ、ひゃあああああ、綺麗(きれ)ぇぇぇぇい!」

 城を見た瞬間、セナは思わず驚いて大声を上げた。

 白亜。

 城を目の当たりにした最初の感想はその一言に尽きた。

 壁、屋根、柱、床。あらゆる場所が白一色だった。


 城のあまりの純白な様に、セナは立ち眩みを起こした。

 膝から力が抜け、後ろに傾く。咄嗟にサイガが後ろに回り、両手で体を支えた。

「あ、ありがとうサイガ」

「しっかりしろ。城を見ただけでこれなら、謁見したら気絶するぞ」

「う、うん。そうだね、気を付けるよ」

 サイガに捕まりながら、セナは姿勢をただした。


「着いたか。姫がお待ちだ。謁見の間まで案内する」

 一行を迎えたのは、一日早く到着していたナルだった。

 戦闘服でなく、公務用の礼服を纏うその姿に、新鮮な印象を受けた。

「シャノン、ミコ、お前達の服も用意してある。すぐに着替えて控えの間に集合だ」

 二人は城の奥へと消えた。


 一行は城内に通され通路を進む。そこはまたしても、白が続く世界だった。

「壮観だな。まるで夢の世界だよ」

 ジョンブルジョンは口を半開きにして呟いた。


「あわわわわ・・・い、いいのかな、サイガ?私みたいな田舎者がこんな豪華なところ歩いちゃって。場違いすぎやしないかい?」

「安心しろ。場違いというなら、おれも同じだ。それよりも気をしっかりもて。ふらついてるぞ」

 セナの背に手を回し、体を支えながら、サイガは歩調を揃えて前に進む。

 後ろからその姿を見て、エィカは微笑んでいた。


 ◆


「それでは、まもなく姫様が参られます。しばしお待ちください」

 係官に導かれ、謁見の間、玉座正面で待機するサイガ達。

 しばらくすると、奥の扉が鈍い音を立てながら重々しく開かれた。


 扉の奥から、正装に身を包んだ六姫聖が左右に三人ずつの列をなして現れた。

 扉から右がメイ、ナル、リン。

 左がミコ、シャノン。そしてはじめて目にする一人。

 六人は扉の前で整列すると中央を向き、直立の姿勢で姫を待つ。


 数十秒の沈黙の後、ヒールが床を踏む音が響く。

 扉の奥の暗闇の中から、ドレスの裾を持つ侍女を引き連れ、一人の女性が現れた。


 静かな歩調。しかし弱くはなく、確かな存在感と高潔な雰囲気を携える。

 純白のドレスは白い肌を際立たせ、光のようにすら見える。人間そのものが輝いているように見えた。

 シフォンの歩みに合わせて、六姫聖も歩を進める。

 清廉にして麗しき一団が、玉座とサイガ達の前で止まった。

 

「うわぁ、素敵・・・」

 シフォンを目の当たりにして思わずセナが言葉を漏らした。

 即座に手でその口を塞ぐが、シフォンはそんなセナに軽く微笑むと、向きを変えて進み玉座に腰を下ろした。

 続いて、六姫聖は入ってきた時と同様の列を作った。


 謁見の時間が始まった。

 まずは、四凶の四人が前に出た。

 代表で口を開くのは最年長のソウカクサタンコール。その手には王よりの書簡が握られていた。

 側に立つ六姫聖の一人、チェイス・ハーディンがそれを受けとり、シフォンへと捧げる。


 シフォンが書簡の封に手を振れると、王家の印が散り、解かれた。

 王直筆の手紙を手に取ると、シフォンは目を通した。

 そこには、自身が数年前より精神を侵され続けていること。

 そしてその侵食が取り返しのつかないことになる前に、後継者であるシフォンに政権の大半を譲渡し、次王となる土台と民心の信頼を築かせる考えであるということが記されていた。


 最後まで目を通したところで、手紙を握るシフォンの手が震える。

「父は・・・その身をなげうって、国の未来を・・・私に託されたのですね・・・」

 ぽつぽつと、かすかに、シフォンは言葉を紡ぐ。

「うむ、陛下は得体の知れん攻撃を受け始めた頃より、都と政権を分かち、もしもの時に備えておられた。その時が今ということですな」

「一角楼での異界人の襲撃は報告を受けています。そして特級冒険者とオーリンとの繋がりも・・・国賊が動き出すのも時間の問題でしょう」

 シフォンは大きく息を吐く。

 そこには、来るべき大きな争いへの、不安と覚悟が含まれていた。


「姫様。我ら四凶、主である王の命のより、この身を置かせていただくことを、お許しください。陛下の愛されたこの国の、未来のために戦う機会を我らにお与えください!」

 四凶が揃って跪き、頭を垂れた。


「よろしい。そなたら、我が麾下に加わることを許します。これよりは私、シフォン・マ・ルゼリオを主とし、国家防衛のためにその身を賭して戦いなさい」

「は!」

 四凶が同時に応えた。


 ◆


 四凶との話を終え、シフォンがサイガに顔を向けた。

 目が合うと、シフォンは玉座より立ち上がり、自らがサイガへと歩み寄る。

 六姫聖はそれを直立のまま見送った。

「あなたがサイガ様ですね。メイ達から報告は受けています。強い戦闘力をもった異界人の方。と」


 一瞬、耳を疑った。王族、その最上の身分である姫のシフォンが、サイガを様付けで呼んだのだ。

そして耳を疑ったのは、サイガ以外の全員も同じだった。

 特に六姫聖は目を見開き、睨むように二人を見る。


 後方からの刺さるような視線を感じたのか、シフォンが六姫聖に振り返った。

「つつしみなさい!」

 主からの一喝。六姫聖は前に向き直る。


「サイガ様、此度のルゼリオ王国への召喚。そしてそれからの闘争と命の危機。すべて、我らが親子間での諍いが招いた事態。さらにそこに巻き込んでしまったことを、心よりお詫び申し上げます」

 そう言うと、シフォンはサイガに向かって、深く頭を下げた。


 謁見の間に緊張の空気が走った。

 王族が賓客でもない異界の者に対し頭を下げる。

 シフォンを主と崇める六姫聖には受け入れがたい光景だった。

 メイ、ナル、リン。学生の頃から共に歩む三人には筆舌に尽くしがたいものがあった。

 三人は無言のまま拳を握りしめていた。


「・・・」

 サイガは言葉を発さない。そしてシフォンの行いを止めもしない。

 シフォンの行動は無関係な者を巻き込んだけじめであり、謝罪の最低限の意思表示なのだ。


「もう十分です。頭を上げてください」

 約一分ほどの後、サイガは口を開いた。

 それを受け、シフォンが姿勢を戻す。

「姫様の心中、理解いたしました。ですが私は、恨みや怒りの念はございません。世界と場所が変わろうと、私はただ生きるのみ。すべてを受け入れております。それに、この世界で気のおけない仲間達と出会うことができました。むしろ感謝しております」

 そう言うと、サイガはセナの肩に手を置き、エィカ、リシャク、六姫聖を見た。


「ありがとうございます。その言葉で救われます」

 シフォンは微笑んだ。気品に満ちた笑顔だった。

 謁見の時間は終わりを迎えた。




イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。


○シフォン・マ・ルゼリオ

挿絵(By みてみん)


○正装するメイ

挿絵(By みてみん)


○正装するナル

挿絵(By みてみん)


○正装するリン

挿絵(By みてみん)


○正装するシャノン

挿絵(By みてみん)


○正装するミコ

挿絵(By みてみん)


○六姫聖 チェイス・ハーディン

挿絵(By みてみん)

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