第200話 「サイガ、東へ」(ストーリー)
一角楼での激戦が終わりを迎えると、一同はその日のうちに一角楼を後にすることにした。
焼け跡となった地には一晩を越す手段もなく、それならば宿場町に向かうのが賢明という結論で一致したからだ。
だがその向かう先は違っていた。
サイガ一行と六姫聖、四凶は、姫の待つ中央都市を目指し東へ。
ドウマ率いる異界人達は特級冒険者『レディム・ルーグストン』を探るために北西にあるレディムの領地へ赴くことになった。
シャノンの魔法によって保護された一角楼の住人達は学園都市ワイトシェルより派遣された救護隊によって保護され、ワイトシェルへと送られた。
◆
「メイ・カルナックよ、我ら四凶、シフォン姫へのお目通りを願いたい。取り次いでもらえるか?」
「は?四凶が姫になんの用があるっていうのよ?」
苦々しい声でメイが疑問を発した。謁見を望む四凶を代表した、ジョンブルジョンの言葉を、メイは冷たく突き放す。
主である姫と王との関係を踏まえれば、当然の返事だった。
現在、国王テンペリオスに仕える四凶は、主である王の名により、娘であるシフォンの麾下に加わるために中央都市を訪れる必要がある。
しかしその詳細が示された書簡はソウカクサタンコールが預かり、その封を解けるのは宛てられたシフォンだけなのだ。
「本来敵対する貴様らと共闘したのは、あくまで流れでしかない。そんな貴様らが謁見を望むということは、相応の用件なのだろうな?そうでなければ、我等の権限で拒絶する」
毅然とした態度でナルが宣言した。
話を聞く前から否定的な対応。王と姫、六姫聖と四凶にはそれだけの隔たりがあるのだ。
メイに続き、ナルにまで冷遇され、ジョンブルジョンが苛立ちを見せる。
「な、なんだと貴様ら!成り行きとはいえ共闘をしたのだ、少しぐらい耳を貸してもよいではないか!」
「くどいぞ!ただでさえ敵対しているうえに、あんなむさ苦しい男まで一緒にいるんだ。いいわけないだろう!」
ナルも加勢し追い討ちをかけた。
「おい、それはワシのことか?陛下と姫の関係に、個人的な好みを持ち込むな!」
私情を挟むナルに、思わずアールケーワイルドが割って入る。
元々対立してあるだけあって、互いの言葉は剣となって傷つけあう。そこに感情も入ると、喧々囂々(けんけんごうごう)とした納まりのつかない惨状となりつつあった。
「ちょっと待ちなさい、あなた達。いくらシフォン絡みのことだからって熱くなりすぎよ。少しぐらい耳を貸しなさい」
見かねたリンが仲裁に入った。大きな掌をメイとナルの前に差し出し、前進を妨げる。
メイ、ナル、リンは姫であるシフォンとは、レイセント学園来の同級生で、親友同士でもある。そのため、リンの言葉どおりシフォンの関連のこととなると、感情が先走る傾向にあるのだ。
「仕方ないわね。リン、少し二人を抑えておいて。話しは私が聞くわ」
「ほっほっほ、その方がいいじゃろうな。どれ、こっちからはわしが出よう。アールケーワイルド、ジョンブルジョン。さがっておれ」
六姫聖からはシャノン。四凶側からはソウカクサタンコールが代表として話をすることとなった。
「やれやれ、姫様のこととなった途端、興奮し出すとは、忠誠心というか友情というべきか・・・難儀じゃな」
「ええ。三人とも、なまじ戦闘力が高いものだから、何かある度にいきり立っちゃって・・・護衛や近衛の兵士達を差し置いて前に出てしまうんです。」
「まぇ、あっちは放っておけば、そのうち飽きるじゃろうて。・・・それで、本題はこれじゃ」
ソウカクサタンコールは懐から一つの封筒を取り出した。そこには主である姫に連なる証、ルゼリオ王家の紋章の封が施されていた。
多くの説明は要らない。その封が全てを物語っていた。王の勅命であると。
シャノンはそれで全てを察した。四凶の謁見を許可するとすると、中央都市へと迎え入れると約束した。
「お、王の勅命?」
「ええ、あの紋章は間違いないわ。王家の印よ。事は私達の手に余る大事、姫以外に権利はないわ」
受け入れがたいと態度で示すメイに、シャノンは重大さを伝える。
「仕方ないな。王の勅命とあれば、取り次がんわけにはいかん。王族同士の話に割って入るのは越権行為だ。気に入らんが、あいつを宮殿に入れなければいかんとは・・・」
ナルも、しぶしぶといった態度で受け入れる。他の三人はいいとして、アールケーワイルドに対してだけ極端な嫌悪感を示していた。
話がまとまったところで、サイガ一行、六姫聖、四凶はそろって東に向かうことになった。
先行して、飛行の可能なメイ、ナル、リンが、ほぼ残骸となったゲイルを持って中央都市に向かい、その他の地上組が約二日遅れで到着する予定となる。
「て、ことや。猫のお嬢ちゃん、よろしゅうな」
上機嫌なシズクヴィオレッタがミコに歩み寄って喉を撫でてきた。
「う、うむ、む、ごろごろごろ・・・」
ミコは一瞬ひるんだが、猫の扱いになれた手つきに篭絡され、黙って受け入れた。
◆
出立の準備を進めるサイガに、ドウマがテンタとホウエンを連れて近づいてきた。信用の証として、部下を預けるというのだ。
「人質か。それはいいが、なぜ彼らなんだ?」
当然の疑問をサイガは口にした。少年であるテンタはともかくとして、ホウエンのスキルは汎用性が高い。特級冒険者の治める地に同行させないのは悪手だと考えたからだ。
「それは俺も考えたんだが、後のことも考えて、姫派の点数稼ぎをしておこうと思ってな」
「点数?」
「あら!貴方、ホウエンじゃありませんの!同行するんですの?大歓迎ですわ!」
サイガの後方から嬉々としたリンの声が聞こえてきた。
「と、いうことだ。どうやら、暴風がホウエンをえらくお気に入りでな。本人も承知の上で協力してもらっている」
ドウマが、やや申し訳なさそうに言った。
ホウエンのスキル『神の筆』は描いた物を実体化させる能力。アラシロの報告により、リンがその能力をいたく気に入っていたと聞き、ご機嫌取りのために差し出したのだ。
「隊長、埋め合わせはやってくれよ?」
後ろから肩に手を置かれ、顔を青くしたホウエンが、恨みがましい目をドウマに向けて言い放った。
ドウマは苦笑いしながら目をそらした。
◆
日が完全に落ちきる前に、全員が一角楼をあとにした。目指すは東方にある宿場町。
幸い、シュドーの『無限武具精製』によって作り出された大型車両を餞別として受け取ったため、夜中を迎える前には到着を見込むことが出来た。
宿場町に到着すると、六姫聖のミコとシャノンが一目散にレストランに駆け込んだ。続いて全員が店内に入り席に着く。
六姫聖おなじみの、戦闘後の大食事会が始まった。
失った魔力や体力を回復するため、六姫聖は戦いの後は大量の食事を行う。しかもそれは、どんなものでも良いわけではなく、本人が最も好む食事が効率よく魔力を回復させるため、各人は同一の種類を大食いする。
ナルは甘いもの。メイは油物、リンはバランスの取れたコース料理。そして、ミコは肉。シャノンは酒だった。
席に着くや否や、店中の肉と酒が注文された。備蓄が注文に足りないとわかると、近隣の店舗からも召集がかけられる。
他の六姫聖と違い、ミコとシャノンは大量の食事を隠そうとしなかった。
ミコのテーブルには、牛、豚、鳥、魔物など、種類を問わない肉が並ぶ。
「うわーい、いっただきまーす!」
歓喜の声をあげて、ミコが肉にかぶりついた。肉食獣のように強い顎は、わずか数回でスジ肉すらすりつぶす。さらに体内に存在する特殊な分解酵素が、生肉に潜む寄生虫すら分解し、栄養素に変えてしまう。
シャノンの前には、わずかのつまみと、酒瓶が並んでいた。
生まれながらの酒豪であるシャノンは、度数の低いアルコールでは一切酔うことが無い。そのため、飲酒を実感するために度数の強い酒を何種類も混ぜ、独自のカクテルを何倍もあおるように飲み干すのだ。
テーブルの上には五十度以下の酒は存在しなかった。
「ふー、一杯目はやっぱりこれよね」
そう言うと、シャノンは度数七十の『デスナパーム』を瓶で一気に飲み干した。
「うう、すごいね。見てるだけで酔っちまいそうだよ」
セナはこれまで以上の六姫聖の食事の光景に衝撃を受けていた。
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