第195話 「歩みをそろえて」(バトル)
巨大な斜め十字の斬撃の破断剛牙が、灼熱の炎の塊、カーリーブトゥームに飛び込んだ。
続いて、シュドーが放った消火弾が連続して着弾する。家屋一軒程度の火災なら、たちどころに鎮火する量だ。
しかし、炎に弱まる気配はなかった。
何事もなかったかのように燃え続け、ゆっくりと地を目指す。
「うそ?全然効いてない。それなら、もっと・・・」
ペティが剣を握り直した。力を込め、更なる威力の破断剛牙を放とうと剣を上段に構えた。
「力入れすぎや。そんな力んだら、斬れるもんも斬れんで」
静かな口調がペティの行動を制し、振り上げた手に、そっと手が添えられた。
「なんや、強張りすぎて手が固まってんで。ほら、力抜き」
ペティの横にはシズクヴィオレッタがいた。
その顔色は青く、息は浅い。
「お姉さま?え、な、なんで?」
意外な助っ人に、ペティは動揺し、目を丸くして腕の力を抜いて剣を下ろした。
「お姉さま」の一言に、引っ掛かりつつも、シズクヴィオレッタは話を続ける。
「あんま暑いんで目ぇ覚ましたら、なんやけったいな炎が近づいてきとるやないの。しかも、死んだはずのアンタまでおるし。こんなん、オチオチ寝てられへんから飛び起きてきたんや」
早口で一気に事情を語るシズクヴィオレッタ。会話形式にする時間的余裕はないのだ。
「ほら、力抜きぃ。剣の使い方、教えたるさかい」
「は、はい。お姉さま!」
「そ・・・」
「その『お姉さま』ってなんなん?」とシズクヴィオレッタは尋ねようとしたが、言いかけて口を閉じた。追求は後に回したのだ。
「まずは、握ってる手から無駄な力を抜くんや」
「はい」
「まだや。力んでる。もっと、もっと、油断したら柄がすり抜ける。そんくらい限界まで緩めるんや」
「で、でも、そんなに緩めたら・・・」
「それが出来るか、出来ひんかが分かれ目や。ほら、こうやるんや」
躊躇うペティの手に、シズクヴィオレッタ手を添えて感覚を伝える。
「きゃっ!」
ペティは思わず短い悲鳴を上げる。その声はどこか、喜悦の色があった。
「集中し」
「は、はい!」
気を引き締め直し、ペティは最小限の力で剣の柄を握る。
「そうや。そんで、剣の重さに腕を委ねて、切っ先までが腕の延長や思て感覚を一体化させるんや」
シズクヴィオレッタの言葉に従い、身を委ねるペティ。
すると、次第に感覚に変化が訪れた。
指導通り、腕の感覚が消え、剣と一体化し始めたのだ。
「わかります、お姉さま。剣が、腕と繋がってる」
「そうや。わかるやろ。アンタ、腕は未熟やけど筋はええ。才能はあんねや」
ペティはわずかの指導でコツをつかんだ。
それを見て、シズクヴィオレッタの声も喜びに踊る。
「そんなら、後は剣の声に耳を傾けて、切っ先の行きたい方向に身を委ねるんや。わかるな?」
「はい・・・」
ペティは静かに剣を振り上げた。殆ど指を添えるだけの握りでありながら、剣はしっかりと固定されていた。
シズクヴィオレッタの手は既に離れていた。
剣を最上段で構える。切っ先が天を向いた。
「いけっ!」
「はい!」
剣が振り下ろされた。先ほどまでの力任せの一撃ではなく、極めて自然な動作の洗練された一撃だった。
再び破断剛牙が放たれた。だが今度のそれはカーリーブトゥームの到達すると、呑み込まれることなく真っ二つに切断した。
それは正に一刀両断だった。
「す、すごい。さっきは全く歯が立たなかったのに。たったこれだけのことで・・・」
「たった、やない。剣と一体になる、単純やけど、一番大切なことや。その感覚と気持ち、忘れん・・・と、き・・・」
そう言うと、シズクヴィオレッタは糸が切れたマリオネットのように崩れ落ちた。
回復の終わっていない体に、限界が訪れたのだ。
頭が地につく寸前、ペティがその体を抱き止めた。
「お、お姉さま、お姉さま!しっかりしてください!」
「せ、せやから・・・その、お姉さまって・・・なん、なん・・・」
「安心してください。すぐにもとの所にお連れしますから」
ペティはシズクヴィオレッタの体を担ぎ上げると、シャノンのもとへと走った。
その体を再び雛守の繭に横たえる。
◆
切断されたものの、カーリーブトゥームの炎の勢いは健在だった。
だが、両断の成果でその規模は二分されたため減少した規模に特務部隊は勝機を見いだした。
「シュドー、右の方に集中するぞ。武器を出せ!ムク、そいつをコピーしろ!全員で一斉に仕掛けえる!テンタは全員分の結界を用意しろ。お前ならやれるはずだ!」
ドウマの指示により、シュドーが消火弾のランチャーを精製し、ムクが複製を生み出す。
テンタは結界を作り出すために集中を始めた。
「手の空いてるものは全員で撃て!」
サイガも呼び掛けると、セナやエィカもランチャーを手に取る。
「こ、これは、肩にかついで使えばいいんですよね?」
肩にランチャーを乗せながら、不安げにエィカがセナに聞く。
「そ、そうだね。たぶん、あの金髪の男がやってたやり方で良いと思うよ」
セナも不安げながらも、シュドーの真似をしてランチャーを担いだ。
複製されたランチャーが全て行き渡り、砲口が一斉に右側の炎に向けられる。
「よし、撃て!」
ドウマの号令受けて、すべてのランチャーから消火弾が発射された。
その強烈な発射音に、慣れないセナ達異世界の住人達はたまらずランチャーを落として耳を押さえる。
「な、なんだいこれ!?こんなにうるさいのかい」
セナもエィカも大いにもだえた。
消火弾の被弾した右側の炎の塊が、わずかに萎んだ。
「あれだけくらって、あの程度しか変わらないのか?それなら・・・忍法 水遁 青龍咬」
ドウマが両手で龍の口を模した形を作ると、そこから水の龍が飛び出し、右の炎へ向かっていった。
水の龍が炎に牙を突き立てた。
爆発的に蒸気が巻き起こり、互いに消耗し合う。
またしても炎はわずかに縮小した。
「くそ、俺の忍法でもダメか」
青龍咬の効果の弱さに、ドウマは歯噛みする。
「ドウマ、今の龍、もう一度出せるか?」
サイガが後ろから尋ねてきた。
「ん?あ、ああ・・・やれるが、何をするつもりだ?」
「次はおれが行く。いや、おれが片付ける!」
サイガが前に向かって駆け出した。
「おい、サイガ、何を・・・」
「やればわかる!とにかく撃て!あと、これは借りるぞ!」
そう言うサイガの手には、ドウマからくすねた超化翠が握られ輝いていた。
「お、お前、いつの間に・・・くそっ、どうなっても知らんぞ!」
ドウマの手から再び水龍が飛び出し、炎に向かって天を泳いだ。
同時にサイガが跳躍した。
「使い方はこれで合っているのか?超化!」
超化翠を握りしめると、サイガの全身に緑の光が駆け巡り、超化状態に入った。
「これが超化か。不思議な高揚感があるな。だが、あいつらの話通り、頭の中を掻き回されるような不快感もきているな。これは早々に片付けるとするか!」
サイガは左手を伸ばすと、忍法で出現した水龍の口をつかんで自らの体えを引き寄せ、そこを切っ掛けに加速し炎に急接近した。
「あ、あいつ、俺の術を掴んだのか?初めての超化でどうしてそんな芸当が出来るんだ?」
術を掴んで踏み台代わりにするサイガに、ドウマは驚きを隠せない。そのうえ、それを初めての超化でやってのけたのだ。驚きは一入だった。
「メイ!今回の不始末はこれを片付けたらしっかりとってもらうぞ!」
「だから、ごめんってばぁ!やめてよ、これじゃあ私まるで悪者みたいじゃない!」
「みたい、じゃないだろ!このバカ!」
メイの他人事のような発言に、サイガとナル、リンが同時に怒鳴った。
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