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第19話 「初めての魔物、初めての遭遇戦」(バトル)

「祈りは済ませたか?さらばだ」

 慈悲の時間が終わると、サイガはゲーツの頚動脈を切断するために首に刃を食い込ませた。

 あとは力を込めて引き裂くだけで決着。となったとき、サイガの目に、何かに気をとられているセナの姿が入った。サイガの手が止まる。

「セナ、どうした?」

 サイガの問いかけに、セナは言葉ではなく仕草で応えた。街道から外れた未舗装の地、南を指し、何か来る。とつぶやいたのだ。

 そこにいて、意識のある全員がその指の先に視線を向けた。

 全員の視線が集中する場所には一つの影があった。しばらく目を凝らして観察すると、それが限界までの速度で馬を走らせている馬車であることがわかった。

「こちらに向かってきていますね。ですけど、なにやら様子がおかしいようです」

 エィカが目を凝らして馬車の状況を伝えてきた。

 その言葉どおり、馬車は尋常ではない速度と様子でサイガたちのもとへ向かってきていた。


「あ、あなたたち、早く逃げて。逃げて。逃げてーーーー」

 遠方からも届くほどの大声で、馬車の中から上等な素材の服をまとった中年紳士が警告を発してきた。

 狼狽し混乱を極めているのだろう、声の調子は乱れ、同じ言葉を繰り返している。

 馬車はサイガたちに接近しても速度を緩めることはなかった。激突しそうな距離まで近づき、かわすように進路をそらし走りやすい街道に乗ると、そのまま東に向かって走り去ってしまった。中年紳士は最後まで「逃げて」という言葉を発し続けていた。


「一体、あれはなんだ?」

 先ほどまでの命のやり取りはなんだったのかと思ってしまうほど、わずかの間の騒動に一同はあっけに取られていた。

「なんだが知らんが助かったぜ。おい、ギリック!ボロニアン!いつまで寝てやがる、さっさと起きろ!」

 嵐のように走り去っていった馬車に気をとられ、サイガは油断していた。そこをゲーツに付け入られた。

 ゲーツは拘束するサイガの腕を振り払い抜け出すと、気絶している二人を怒鳴った。兄貴分の一喝に二人は目を覚ます。

「す、すまねぇ、アニキ。女、調子に乗るなよ!」

 後ろ手に拘束されてはいるが、セナとエィカに対して体格で勝る二人は、大いに暴れることで抵抗した。

 エィカは単純に力で圧倒され、セナは跳ね回るような動きに手をやいて力の加護が発揮できずにいた。

「へへ、どうやらまだ運が向いてるらしいな。あのおっさんには感謝するぜ」

 拘束から逃れて短剣を構え、サイガと対峙しながら、ゲーツは往生際悪く笑った。


 サイガとゲーツの実力差は明白だった。それは易々と後ろを取られたゲーツ自身が痛感しているはずだが、生への執着は実力以上のものを与えるのだろう。ゲーツの全身からは気迫があふれ、圧倒的強者であるはずのサイガを牽制し続けていた。

 どちらから仕掛けるでもなく睨み合いが続く。

 張り詰めた緊張感がゲーツの額に汗をにじませた。湧き上がった一滴が顔をつたい顎にたどり着くと、顎先で雫となって地面に落ちた。

 汗が地面を叩いたのを合図に、にサイガとゲーツが同時に前進した。

 命を狙う者、それから逃れようとする者。先ほどまでとは立場の逆転した二人の刃が正面から触れ合おうとした瞬間、突然辺り一帯が闇に包まれた。

 接触まですんでのところで二人は足を止めた。さらに同時に上空を見上げる。闇の正体が、日光をさえぎる上空の存在だと察したのだ。

 上空にはなにか巨大な物体があった。そしてそれは落下して、直下のサイガたちに迫っていた。

「逃げろぉおおおおお!」

 サイガがセナとエィカに警告しつつ、その場から飛びのいた。既にゲーツは眼中にない。

 一方のゲーツも、サイガほど軽やかではないが、すばやく退いた。

 二人が去った直後、巨大な影が着地した。地面を大きく揺らし、轟音が数キロ先まで届きそうなほどの迫力だ。

「さすが異世界だ。こんなものまでいるとはな」

 サイガは落ちてきた影の正体を見るや、寒心とも皮肉ともとれる言葉を漏らした。

 首を囲む立派なたてがみの雄獅子。その獅子の体を丸ごと包み込めるほどの大きさの蝙蝠の翼を有し、獅子の頭の隣に雄山羊の頭が生え、尾の代わりに蛇がその鎌首をもたげる。影の正体はファンタジー作品ではお馴染みの魔物キマイラだった。その体高は目算で五メートルを超えていた。

 先ほどの馬車の男が必至に警告していたいのは、この魔物のことだろうと全員が理解した。

 キマイラの獅子の頭がサイガを追った。

 狙いをつけられた。そう覚ったサイガが刀を構えた。サイガの『無』の状態が発動する。


「セナさん、魔禄書を出して、あのキマイラを解析させてください。あれはまともなキマイラじゃありません!」

 飛来した巨大な魔物にエィカは尋常ではない反応を見せた。その姿はエィカの知るキマイラとはかけ離れたものだったからだ。

「わかった。魔禄書よ教えてくれ」

「はい、ご主人様。何なりとお尋ねください」

「魔物がいる。解析できるかい?」

「私の中に情報があれば可能です。照合いたします、私の目を対象にかざしてください」

 セナの呼び出しに応えると、魔禄書の背表紙に光る目の紋様が浮かび上がった。すぐさまその目を対象のキマイラへと向けて解析を開始する。

「・・・・・・これは・・・」

「ど、どうした?」

「このキマイラは私の中に記録されているキマイラとは大きく異なります。従来のキマイラは体高が最大でも二メートルほどですが、この個体は五メートルを超えています。これは、突然変異の範囲で説明がつきません」

 魔禄書から出された答えに、エィカがやはりと顔をしかめ、サイガにその情報を伝えた。

「サイガさん、このキマイラは異常です。すぐに逃げましょう!」

「駄目だ。今こいつに背中を見せれば即座に全滅だ。やるしかない、セナ、エィカ、気を引き締めろ!」

 キマイラの巨体と、あふれ出るような獣性に、サイガの頭からは逃走の選択肢は消えていた。

 サイガが忍者刀を、セナが荷物を下ろしナタを、エィカが精神を集中させて精霊の力を昂ぶらせる。

 三者三様の臨戦態勢をとった。

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