表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/322

第194話 「共同抵抗戦線」(バトル)

 全てを燃やし尽くさんばかりの業火の塊が、上空から地上へと迫る。

 メイの手から離れた『カーリーブトゥーム』は周囲に熱を撒き散らしながら低速で進行していた。

 術者の最後の抵抗として、魔力での遅延を試みているのだ。

 カーリーブトゥームは対象への着弾と同時に大爆発を起こし、さらに超高温の炎が広がり、対象及び周囲を消滅するまで燃やし続ける殲滅の魔法。

 メイは制御に全魔力を注いでいた。


「メイ、お前が出した炎だろう。消すことはできないのか?」

 熱を全身で感じながら、サイガがメイに問う。

「無理だ。あのアグニフォームの炎は、威力を上昇させる代償に、制御を受け付けない、狂戦士のような魔法だ。あいつにできるのは、せめて手綱を精一杯引いて着弾を遅らせることだけだ」

 炎の抑制に夢中のメイに代わって、ナルが説明をする。その肩にはツインバスターキャノンモードのハチカンが装着されている。


「さがっていろサイガ。遠距離攻撃を持たない者の出る幕じゃない」

 ナルがサイガの前に出た。ハチカンの砲口が炎に向く。

「マッハド弾装填!発っ射ぁ!!」

 ナルの最高火力の一撃が放たれた。

 超低温の光線がカーリーブトゥームに正面から激突した。


「くぅ、やはり火力が圧倒的すぎる・・・」

 ナルの言葉通り、メイの炎はハチカンの砲撃をものともせずに進み続ける。

 その光景はまさに焼け石に水だった。


 この結果はナルにとって想定内だったが、それでも美の化身のプライドは大きく傷つけられた。

 そして怒りのあまり、その肩がわなわなと震え始める。

「ふ、ふふふ・・・虚仮にしてくれるじゃないか・・・アールケーワイルドといい、貴様といい、がさつで粗暴な連中は私の誇りを踏みにじってくれる・・・メイ、覚悟しておけ!これが済んだら、しっかり借りは返させてもらうぞ!」

「だからごめんってばぁーーー。そんな怒んないでよ!」

「バカ!これが怒らずにいられるか!貴様の浅慮のせいで、一体何度こんな目に遭ってると思ってるんだ!?」

 ナルの怒りが爆発した。その怒りに呼応して、ハチカンの威力が跳ね上がる。感情が魔法に作用したのだ。


 ◆


「な、なんだ?あの二人、この状況で喧嘩してるのか?下手をすれば死ぬかもしれんって時に、六姫聖ってのは何を考えてるんだ?」

 目の前の、場をわきまえないやり取りに、アールケーワイルドは思わず率直な感想を漏らした。

 「ひと括りにされるのは心外ですわ」と、リンは否定しようとしたが、いくつか心当たりが浮かんで言葉を詰まらせた。


「暴風の、触手はワシが引き受けるから、加勢してやってくれ」

 アールケーワイルドがリンを促した。

 触手の群れはメイの発する熱気によって、熱中症のような状態となって弱体化していたため、一人で対応できるとふんだのだ。

「お心遣い感謝しますわ。では・・・マスヨス!」

 そう言うと、リンは魔法で収納していた、聖なる鎖に繋がれた聖錨マスヨスを取り出した。


「はぁっ!」

 気合いの一声を発し、リンがマスヨスを振り回した。空気を裂く音が鳴り響く。

 その回転はあまりに高速で、鎖の先端のマスヨスは目で追えず消えたように錯覚させる。

「いけっ!マスヨス!」

 聖錨マスヨスが、炎の塊に向かって超高速で放たれた。


 炎の中にマスヨスが飛び込む。

 リンが懐から雷の魔法珠を取り出した。自慢の握力で握りつぶすと、雷が全身を駆け巡り、それを感知したマスヨスが鎖を伝って魔力を吸い上げる。

 吸い上げた魔力を纏い、マスヨスが炎の中で急速の横回転を始める。


 カーリーブトゥームが内部から掻き回される。

 しかし、あまりにも開きのあるリンとメイの魔力差では、その結果はナルと同様、炎をわずかに減少させるだけにとどまった。


「や、やっぱり、メイと私とでは、全くかなわない・・・ま、魔力が・・・」

 自身と魔法珠。二つの魔力を合わせてなお、カーリーブトゥームの魔力はマスヨスの遥か上方にある。

 リンの魔力は瞬く間に消化され、根こそぎ消費された。

 魔力を失った魔法戦士は、片ひざを着いて鎖を手放した。

 主からの制御を失った錨が、大きな音と共に落下した。


「リン、無茶をするな!あんなものと魔力をぶつけてしまっては、いくらお前でも命に関わる!」

 友の身を案じたナルが喧嘩を中断して声をかけた。

「そうね。悔しいけど、私に出きることはなさそうだわ・・・」


 額に脂汗をにじませながら、リンはなんとか笑って見せた。

「だけど、ナル、あなただって・・・」

「ああ。私ももう、限界・・・だ・・・」

 リンに続いてナルも魔力が底をつき、生命活動ギリギリの量を残して、ハチカンを解除し膝を着いた。

 二人揃って激しく呼吸を乱す。

 炎は八割ほどの大きさになっていた。


 ◆


 六姫聖二人がかりで相殺するがことかなわなかった結果に、一同に絶望感が漂う。

「それなら、私がいきます!」

 硬直した空気を切り裂くように、一つの人影が前に出た。

 黒い甲冑に身を包んだ銀髪の剣士。特務部隊『剣聖(ソードマスター)』のペティだ。

「私のスキルなら、魔法で消し合うのではなく、切断して、最低でも半減程度にはできるはず!」


 魔法とスキルはその性質上、互いに不干渉の存在だ。

 だがそれは、封印や隔離を目的としたシャノンの防護魔法『鎖巻封筒』やテンタの『次元封印(アンダー・ザ・ドーム)』などの『守る』『隠す』に限られる。

 逆に攻撃系統に関しては干渉しぶつかり合う。それは、ナルとハルルの戦いが正にそうだった。


「お姉さまは、私が守ってみせる!いけ、『飛刃(ひじん)』!」

 振り下ろした剣先から、斬撃が飛んだ。

 飛刃は勢い鋭くカーリーブトゥームへと向かっていく。


 飛刃が炎に触れた。が、刃はその瞬間に呑まれて消えた。

「そんな、騎兵数十騎を一刀両断できる飛刃が、歯が立たないなんて・・・。だったら私も、力を出し尽くすまでやってやるわ。お姉さまの命、奪わせはしないから!」

 ペティは握る剣に力を込めた。

「はぁぁぁぁ・・・『破断剛牙(はだんごうが)!』」

 深く踏み込みながらの斜め十字斬り。

 飛刃とは比較にならないほどの巨大な斬撃が生じ、カーリーブトゥームを切り裂かんと直進する。空気も唸りをあげていた。


 ◆


「なぁ、テンタ。ペティがさっきから言ってる、『お姉さま』って誰だ?まさかクジャクか?」

 不可解な文言を聞き逃すことができず、シュドーがテンタに問う。

 テンタも心当たりがないのか、首を横に振る。

「知らない。でも、少なくともクジャクじゃないでしょ。そんなの聞いたことないよ」

「だよな。・・・ま、いいか。よし、そんじゃあ俺らもやるぞ。ペティだけにやらせてられねぇ!」


 シュドーがスキル『無限武具精製(ラグナログファクトリー)』を発動させた。金槌で金属板を叩くと、消火弾を装填したランチャーへと変化した。

「あの女のバカげた威力の魔法に、こんなもんが通じるかわかんねぇが、やらねぇよりはマシだろ!おら、いけ!」

 メイの抵抗によって、緩やかな進行速度ながらも徐々に地表に近づく炎に、五発の消火の弾頭が発射された。


 迫り続ける殲滅の炎からの生存の希望は、六姫聖から異界人へと託された。

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ