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第192話 「戦士絢爛舞闘祭」(バトル)

 地中から現れた白い触手は、大きく、太く、まるで地上で暴れるクジラのようだった。

 ひと薙ぎすれば家屋を数件薙ぎ払い、地面を叩けば陥没させ穴を作る。


 まともにくらえば必殺必至の攻撃を、無差別な標的とされたサイガ一行、六姫聖、四凶、特務部隊の面々は躱しながら応戦を続ける。


 しかし、戦士達の中で三名、その場を動かない者がいた。

 リン・スノウとシャノン・ブルー。そしてアールケーワイルドだ。


 シャノンが施した上級の回復魔法は、絶対安静を求められる魔法なのだ。それゆえ、施術中のシズクヴィオレッタとホウエンの体はその場から動かすことができず、シャノンも釘付けとなっていた。

 リンとアールケーワイルドはそんなシャノンと患者二人を守るためにその場にとどまったのだ。


「冒険者、異界人ときて次は触手か。まったく次から次へと、休む暇がありゃせんな」

 自慢のリボルバーに手を掛けたまま、アールケーワイルドはぼやいた。その口調とは裏腹に、緊張感は保っている。


「まったくですわ。戦いが続くのは、個人的には喜ばしいことですけど、この状況は受け入れがたいですわね」

 リンが辟易しながら応えた。他人を巻き込む恐れがあるのは、戦闘狂とはいえ、姫に仕える者として望ましくないのだ。


 地中からさらに数本の触手が生えてきた。

 大きさは最初の一本目には及ばないが、その分、身軽で鞭のようにしなる。

 

 アールケーワイルドのリボルバーの轟音が三発同時に響いた。

 貫通した弾によって触手は分断され、地に落ちると、もがいて果てた。

 その早撃ちは一秒にも満たない。


「お見事。ナルが嫉妬するのも頷けますわ」

 アールケーワイルドの銃の腕前をリンが称賛する。

 その後ろから、新たな触手が襲いかかりリンの腕に絡み付くが、リンは空いた手で触手をつかむと全力で引っ張り、根元から引きちぎった。

「でりゃあああ!」

 ちぎられたことで(もが)く触手を、リンは気合いと共に数回振り回し、地面に叩きつけた。

 触手は中身を地面に撒き散らした。


「暴風の、お前さんもまだまだ元気そうだな」

「ええ、そこで寝ている方のお陰で、今日は最高の戦いができましたもの。気分は高揚しっぱなしですわ」

 リンは上機嫌に答えた。

「そうか。なら、そっち側は任せて良さそうだな」


 二人を囲う様に、地中から、新たな触手が群れとなって現れた。

 アールケーワイルドはこの動きを予感していたのだ。

「ええ、全て叩き伏せてあげますわ」

 リンは拳を鳴らし、アールケーワイルドはシリンダーに弾をつめた。


 ◆


 不規則な動きをする触手の群れが、次から次へとミコを襲う。

 一本目の触手が振り下ろされる。が、身軽なミコはニャニャっと難なく躱す。

 続いて二本目、三本目が追撃を行い、ミコが通過した後の地を打ち叩き、突き穿つ。

 しかしミコはニャカニャカ逃げ回る。

 風に舞う羽のような体さばきに、触手は触れることすら叶わない。


 重量級の攻撃の後、自身の重量が枷となって触手は動きが一旦止まった。

 野生児のミコはその隙を見逃さない。

 ウニャっと身を翻すと、ギニャーと爪を上から振り抜いて触手を切断。さらにジャンジャンニャカニャカ爪を立て、細切れにした。


 触手が一掃されると、再び数本の触手が現れ、ミコに明確な敵意を示した動きを見せた。

「やったぁ!まだミコと遊んでくれるのか?いいぞ、もっと来い。まとめて皆殺しにしてやるぞ!」

 ミコは今日一番の笑顔を見せ、ビニャッと尻尾を立てる。ニャキンと爪が飛び出した。


 ◆


 底の見えない数の触手達が地中から顔を出し続けるが、出口がわかれば、その対処は容易だった。

 美の化身ナル・ユリシーズは、氷の床を作る『永久(とこしえ)の氷床』を一帯に張り巡らせ、一つを残し地上への口を塞いだ。

 行先を求め、触手が殺到し、我先にと出口へ詰めかける。


 触手の動きに知能は片鱗もなかった。ただ本能のままに獲物を求め、うごめき襲う。


 唯一解放されている地表への口から、触手が大挙して飛び出した。

 しかしその直後、その動きが止まる。

 限定された道は狭く、触手たちを詰まらせ、さらに氷魔法で互いを接着させられていたのだ。

 その動きはナルの思いのままとなっていた。


「ふ、見た目も醜悪なら、脱する知恵もないか。哀れなものだな」

 その場に固定され、的となった触手たちに、ナルが大砲形態のハチカンの砲口を向ける。

「わずかな一時とはいえ、この私に関わることができた。それだけでも栄誉とするがいい!!マッハド弾装填!ッ射ァ!!」


 ハチカンから最大火力の氷の砲弾が放たれた。

 砲撃は触手たちをまとめて呑み込むと、細胞の一つ一つまで凍結させ、その結合を崩壊に導いた。

 氷の魔力が通りすぎると、触手たちは音を立てて崩れ落ちた。

「最後はせめて、美しく散れたか。有終の美を飾らせてやった私に感謝するんだな」

 ナルは髪をかきあげた。舞い上がる氷の粒は雪化粧のように美の化身の美しさを際立てた。


 ◆


 普段の少女の姿から、戦闘用の成年女性へと形態を変化させた地獄の将リシャクが、口から無数の幼虫を吐き出した。

 その数は数百を越え、千匹以上に達する。

 虫が苦手なメイが見たら卒倒しそうな光景だった。


『バクレツロイコクロリディウム』。

 体内に潜り込み、自爆をすることで宿主を死へと導く爆裂性の寄生虫だ。

 その威力は、成人男性の指程度の大きさで、中級の爆発魔法以上の威力を有する。


 幼虫たちは触手にとりつくと、その表皮を食い破り中へと侵入する。

「そーら、ばっく発ぅ!」

 リシャクが合図を送ると、最初の一匹を皮切りに幼虫たちの連鎖爆発が発生した。

 大木のような太さの触手のいたる箇所に、虫食いのように風穴が空く。

 その身の大半を失った触手は崩れ倒れた。


「なんだこいつら?まったく生命感がないぞ。私が言うのもなんだが、気味が悪いやつだな」

 触手の破片をつまみ上げ、しげしげと眺めた後、口に含むと、リシャクは口の中でその正体を探った。

「うげ、まずぅ・・・」

 舌が痺れるような刺激に、リシャクはたまらず吐き出した。


 ◆


 風を切る音と共に、攻撃範囲の遥か遠くから、触手たちの先端の急所を、エィカの射る矢が貫く。

 旅の道中で培ったエィカの弓の技術は、精密を極めるにいたるまで上達していた。

 一矢一矢が、吸い込まれ、導かれるように急所に命中し、一矢の無駄もなく触手を仕留める。


「やっぱり。さっき何となく感じてたけど、私、すごく上手くなってる」

 数体の触手を仕留め終わって、エィカは改めて自身の上達ぶりに驚愕した。

 横たわる触手の死骸を傍らに、手を眺め、精錬された己の技術を噛み締める。


 呆けたように両手を眺めるエィカの背後に、ゆっくりと触手が忍び寄る。

 不意を突かんと、先端を大きく振り上げたところで、その動作にエィカは瞬時に反応した。

 

 軽いステップで振り返ると、つがえるのと同時に矢を放つ。

 矢は不安定な姿勢から射られながらも急所を貫いた。

「すごーい、やっぱり私強くなってる~」

 咄嗟の技の冴えに、エィカは軽い足取りで、大いにはしゃいだ。




イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。


自身の成長にはしゃぐエィカ

挿絵(By みてみん)


幼虫を吐き出すリシャク

挿絵(By みてみん)

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