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第191話 「抗う魔炎。怒りと誇りは激しく燃える」(ストーリー)

 一角楼外部がにわかに騒々しくなったのと同じ時、地上に太陽が生まれたかと錯覚するほどの炎が巻き上がった。

 巻き上がった炎は、渦となって天に昇る。

 激しい炎は魔炎メイ・カルナックの、炎の塔の魔法『ヘリオスタワー』だった。


 一角楼を覆う結界の外、メイはマミカとの戦闘の後、一角楼を封印する黒い帳を破壊すべく渾身の魔法を連発していたのだ。

「お、おい、メイ・カルナック、いい加減にしろ!あんな威力の炎を連発されたら、こっちの身が持たないぞ!」

 岩影に身を隠しながら、ジョンブルジョンが苦情を投げつけてきた。

 先だっての戦闘の際に土に呑まれたジョンブルジョンは、手をドリルに変形させ自力で地中から脱出すると、すっかり焦土と化した一角楼周辺と、攻撃を続けるメイ、そしてそんな魔炎の業火にびくともしない結界を目の当たりにして、この世の地獄と錯覚した。 直後、攻撃の飛び火を避けるために岩影に潜り込んでいたのだ。


「だったら、また土の中に潜ってたら?この結界みたいなの、滅茶苦茶頑丈だから、また火力あげるつもりなんだけど」

 上空からメイが告げる。その姿は殲滅を目的としたアグニフォームとなり、両手には槍の形の炎『メギドスピア』をにぎる。

 メイが炎の槍を投じるために振りかぶった。

「そんじゃいくわよ、せーの・・・」

「無駄じゃよ。いくら火力をあげようと、壊せやせんわい」

 制止するように老人の声が聞こえた。

 メイは思わず手を止めて、声の方を見る。


 同じようにジョンブルジョンも岩影から顔を覗かせる。

「そ、ソウカクサタンコール殿。ようやく来られましたか」

「いやすまんの、ジョンブルジョン。散歩気分でおったら、少し時間がかかってしまったわい。しかし、無事で何よりじゃ」

 好好爺の四凶最年長は、軽く笑う。


「なによ、爺さん。無駄ってどう言うこと?」

 メイが上方から問う。自慢の魔力を否定されて少し機嫌が悪い。

「なに、なにもお嬢さんが力不足って訳じゃあないんじゃ。一角楼を覆っとるあれは、魔法とは別の理屈で作られとる。故に互いに不干渉の存在なんじゃ。あっちから決して仕掛けてこんように、こっちの攻撃も、向こうを素通りしよる」

「別の理屈の存在?」

「いわゆる、スキルと言うやつですな」

「うむ」

 メイが怪訝な顔でいると、ジョンブルジョンが補足した。理解できないまま、「まぁいいわ」と受け入れた。


「で、手が出せないのはいいとして、どうすんの?」

「まぁ、解除を待つしかなかろう」

「は、はぁ・・・?」

「こいつに干渉できるのは、発動させた本人か、同質の能力者だけじゃ。無為に暴れても消耗するだけじゃて。まぁ、そこに関しては、お前さんには杞憂かもしれんがの」

 そう言うと、ソウカクサタンコールはメイの背に目を向ける。そこには煌々と光を発しながら燃焼する炎があった。

 ほぼ無尽蔵のその魔力に、ソウカクサタンコールは感心した。


「とにかく、お前さん、手出しは不可能じゃ、諦めて少し休むとええ」

 ソウカクサタンコールの提案に、メイは憮然としていた。その手には未だにメギドスピアが消えずに燃え続けている。

「・・・・・・・・・」

「どうしたメイ・カルナック?」

 異変を察知し、ジョンブルジョンは上空のメイに声をかける。


「納得いかない」

「?な、なにがだ?」

「私の魔力が通用しないなんて、納得いかない!」

「な、なにを言っている?」

「私は六姫聖の魔炎メイ・カルナックよ。この国で最大級の魔力を持つの!」

「そ、それは知っているが、それがどうした?」

「その私の本気の魔力を知りもしないで、出来ないとか言われたくないのよ!」


 声を張り上げると、メイは身に纏う炎をさらに燃え上がらせた。

 形態も殲滅用のアグニフォームから、もっとも純粋な炎の形態、アフラマズダフォームとなっていた。

「なんだ、その姿は?先の装束と違い、炎そのものじゃないか」

 ジョンブルジョンの指摘通り、メイの姿はアマテラスフォームの羽衣のような姿とはあまりにも違い、ただの炎の塊だったのだ。

 

「アフラマズダフォーム。私の中にある原初の炎よ。私はここから、戦闘、防御といった、状況似合わせて形態を変化させるの」

「で、では、この形態は?」

「このアフラマズダフォームは特定の形を持たない純粋なただの炎。だからこそ、対象の性質に合わせて自在に特性を変化させて対応することができるの」

「相手の性質に合わせて自身を柔軟に変化させるのか・・・随分、術者と正反対な炎だな。今まさに我を通そうとしている貴様に扱えるのか?」

「う、うるっさい!つまんないこと言ってないで、黙って見てなさい!」

 痛いところをつかれて、一瞬メイは取り乱す。


「やれやれ、強情なお嬢さんじゃな。それじゃあ、お望み通り、見学させてもらうとするかの」

 そう言うと、ソウカクサタンコールとジョンブルジョンはそろって腰を下ろした。

 自在に形を変える原初の炎というものに、少なからず興味があったからだ。


 メイが結界に向けて手をかざした。手から炎が延びて、結界に触れる。

 対象を探る触診のように炎が結界を這う。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 三人の間に長い沈黙が訪れた。

 その間、地上の二人は炎の様子をうかがい続ける。


「・・・変わらんな」

「変わりませんな」

 数分、経過を観察した後、二人は呟いた。

 一方の魔炎だが、こちらの変化は顕著だった。


 変化の無い炎に反して、メイの表情はみるみる曇りだしていた。

 眉間に(しわ)が寄り、口がへの字になる。

 額に汗がにじみ全身にも力みが生じ、炎の形が保てずにいる。

「く、む、くく、むぅぅ」

 メイは唸った。明らかに苦戦していた。


「難航しとるようじゃの」

「ですな。そもそもあの女は粗野な気質ですからな。機に臨んで応じて変わるなぞ、性格とは真逆の性質です」

 四凶の二人は期待せずにメイを見ていた。


「あー、もうっ!無理!全っ然、波長が合わないじゃない!なんなのよこれ!ざけんじゃないわよ!」

 我慢の限界を向かえたメイが怒鳴った。

 それを見たジョンブルジョンが「ああやっぱりな・・・」という、あきれた顔をした。


「もう、焦れったぁい!こうなったら、無理矢理押しきってやるわよ!六姫聖を、魔炎をなめんなぁあああああ!」

 メイのフォームが一瞬でアフラマズダからアグニへと変化した。怒りに呼応した激しい炎だった。


「ソウカクサタンコール殿しゃがみなされ、あやつの炎を幕で遮ります」

 ジョンブルジョンが構築魔法で遮熱効果のある幕を作り出し、二人の体を覆った。

 アグニフォームの熱波が届き、二人を包み押さえつける。

「ほほっ、とんでもない熱じゃの。この幕が無かったら一瞬で丸焦げじゃ」

「まったく、あの女は・・・沸点が低すぎるぞ。もう少し後先を考えろ」


 ワイトシェルにおける臨時の教師生活において、メイは多少の成長を見せていたが、その本質はやはり、操る炎のごとく熱く激しいものだった。

 魔炎の怒りと渾身の炎が全てを焼き付くさんと、躍り狂った

「うぉおおおおおおお!燃えつきろぉおおおおお!」

 怒声が燃え上がった。

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