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第186話 「なめるんじゃないよ!」(バトル)

 身体能力強化の魔法珠を破壊することで、強引に限界以上の力を発動させたミコの猛攻は、超化したドウマを徐々に追い詰めつつあった。

 技術、練度でサイガに匹敵するドウマではあるが、野生感全開のミコの連撃はその限界を上回り、力尽くでドウマの両手を押し退ける。

 さらに、ドウマを追いつめている要素がもう一つあった。それは、足首を掴むセナの存在だ。

 正面からは神速のミコ。足下には怪力のセナ。上下から攻められ、ドウマは焦りを覚え始めていた。


「くそ、この女、なんて怪力だ!?はやく放せ!」

 ミコの連撃をかろうじて捌きながら、ドウマはセナを足蹴にする。

「っ・・・何度も何度も、人の顔を足蹴にしやがって、いい加減に・・・しろぉ!!」

 執拗なドウマの蹴りに怒りが極限まで達し、セナの力の加護が真価を発揮した。

 セナはドウマの足首を掴んだまま、片手でその体を持ち上げたのだ。

 

 ドウマの体重は決して軽いわけではない。体格的にはサイガと同等の筋肉質だ。そんな体を掲げるために、セナの手は足をへし折らんばかりに力を込める。

ってぇえええ!この女ふざけやがって、放しやがれ!手首を切り落とすぞ!」

「うるさい!出来るもんならやってみろ!うおおおおおお!」

 ドウマを持ち上げたまま、セナは立ち上がった。更に腕を上に伸ばし、その体を高々と掲げた。

「ミコさま、いくよ!」

「よし、こい!」

 セナの呼びかけに、ミコが嬉々として爪を下に振りかぶった。

「お、おい、なにをするつもり・・・ぶっ」

 言い終わらないうちに、ドウマの体が高速で移動を開始した。

 セナが全力で足首を掴んだ腕を振り下ろしたのだ。

「どおおおおりゃああああ!」


 ドウマを振り下ろすセナ。

「にゃあああああ!!」

 そしてセナに呼応し、ミコが下方に振りかぶった爪を上方に向けて振り上げた。

 振り下ろされるドウマ、迎えるミコの爪。

 ついに二つが出会った。


 ミコの爪による強烈な一撃『ミコミコぷんぷん斬』はドウマの体を下から上へ走りぬけた。

「ぎゃあああああ!」

 ドウマの悲鳴が、シャノンによって施された『隠者の黒霧』内にこだまする。声は外に漏れることなく黒霧内で反響していた。

 ミコミコぷんぷん斬の威力は強く、セナの力の加護でもドウマを固定できずに思わず手を放した。

 手放されたドウマの体が宙を舞い、一回転して地面に落ちた。

 しばしの沈黙。

 死んだかのようにドウマは動かなくなった。


「やった・・・のかな?」

 セナがドウマを覗き込む。

「セナ、いくらミコの一撃が強烈だからといっても、この程度で死ぬようなやつじゃない。不用意に近づくな」

「そうだ。なにか手ごたえが変だった。まだ終わってない。フーーーッ!」

 サイガが警戒を促した。ミコも同意して威嚇の声を出す。


「よくわかってるじゃないかサイガ。でも、さすがに効いたよ。まともに動けやしない」

 床で仰向けに寝転がったまま、ドウマは反応を見せた。胸にはミコの爪の痕が深々と刻まれ、その顔は激痛で余裕の色が消えている。

「こいつまだしゃべる余裕があるのか。トドメをさしてやる」

 ミコが爪を構えた。喉に狙いを定める。


「待ってくれ、ミコ。少し話をさせてくれないか?いくつか聞きたいことがある」

「?聞きたいこと?・・・わかった。でも、おかしな動きをしたら・・・」

「ああ、迷わず殺してくれ」

 サイガの要望に渋々応じ、ミコは攻撃を中断した。警戒は続いたままだ。


「ドウマ、答えろ。お前は何が目的だ?」

「言うと思うか?」

「それは得策ではないと思うが?」

 ドウマは精一杯の強がりを口にするが、サイガの目配せで、傍のミコが爪を光らせると仕方なく口を開いた。

「大体察しはついてるんだろ?姫派の人員の抹殺だよ。俺たち異界人はそのほとんどが王国に戦力として拾われている。異界人特有のスキルを利用して強固な軍事大国を作るためのな」

「そこで野望の妨げとなる六姫聖の抹殺。そのついでにおれも、というわけか」

「そこは俺の個人的な話だな。三年ぶりの再開に、顔を見にきてやったのさ」

「三年ぶり?何を言っている?・・・まさか」


「なんだ、おまえ、気づいてなかったのか?異界人は呼ばれる先はこの国だが、その時代はバラバラだぞ。さてはおまえ、この世界で異界人と会った経験が少ないな」

 ドウマの指摘は図星だった。サイガの出会った異界人といえば、リュウカン一人であり、とらえようによっては古風程度に収まる服装だったからだ。


「で、サイガ、おまえはいつこの世界にきた?」

「・・・半年前だ」

「なんだ、最近じゃないか。どおりであてられてるわけだ」

「あてられてる?なんのことだ?」

「今のおまえのそのザマさ。大方、魔法に無理に逆らって反動くらってんだろ?モロに異世界初心者丸出しだよ。ははっ情けないな」

「む・・・」

 サイガ同様に動けない状態にありながら、ドウマは軽口で語る。


「なに言ってんだい。あんただって似たようなもんだろ?私の力の加護と、ミコさまの技にやられて動けないじゃないか」

「あっはっは、たしかにそうだ。無様だねぇ」

 セナに指摘されると、ドウマは他人事のようにケラケラと笑った。


「ドウマ、ついでにもうひとつ聞かせろ」

「なんだよ?」

「おまえがさっきから使っている忍法とやら、あれがおまえのスキルか?」

「そうだよ。忍者が忍法を使うんだ。特撮やアニメみたいでかっこいいだろ。なんだよ、羨ましいのか?そういやおまえ、ああ言うの好きだったよな」

 からかうような声のドウマ。旧知の仲ならではの会話だ。


「サイガ、おまえスキルに目覚めてないのか?大概の異界人は召喚と同時にスキルを身に付けるんだがな・・・」

 ドウマの言葉が尻切れた。異世界に現れて半年経過してなおスキルの兆候がないのは、異界人を率いるドウマにとっても初の事例なのだ。心中に、なにか不安なものが生じていた。


「サイガ、もういいか?こいつ嫌だ。早く殺そう」

 二人の会話に焦れたミコが、激しく尻尾を振りながら急かしてきた。

「やれやれ、さすが猫娘だね。我慢を知らないや。でもさ、やっぱり甘チャンだよね。殺したいなら、黙ってやっちゃえばいいのに。そんなだから・・・」

 ドウマは不気味な笑顔を見せた。

 あからさまな表情の変化に、サイガ、セナ、ミコの三人は瞬時に悪寒が走った。


「セナ!ミコ!離れ・・・」

 サイガが警告を発した。が、ドウマの方が速かった。

 『忍法 土遁 足場崩(あしばくずし)』が発動した。ドウマは会話を行いながら、発動の機会を探っていた。そして、不用意にミコが踏み込んだところで仕掛けたのだ。


 ドウマを中心に放射状に約二メートルの力場が形成され、一瞬で地面がぬかるみ、セナとミコの二人は膝まで床に飲み込まれた。

「な、なんだいこれ?床が、泥沼みたいに・・・」

「うぅ~、ベトベトして気持ち悪ぃぃ」

 二人が同時に不快感を口にする。

 足場崩によって変化した床は高い粘度だったのだ。


 ぬかるんだ床の不愉快さに、ミコは思わず本能のままに反応した。足を救出するために、床を切り裂こうと爪を向ける。だが、床は爪すらも呑み込んだ。

 両足と右腕の自由を奪われたミコが苦しみの鳴き声を上げる。


「ああ、いい格好だね。じゃあついでに、左腕も使えなくしちゃおうか」

 もがくミコの右隣にドウマが立っていた。その顔には先ほどまでと変わらず不気味な笑顔が張り付いている。

「おまえ、なんで立てるんだ?ミコのぷんぷん斬くらったのに」

 ミコの疑問は当然だった。ミコミコぷんぷん斬は幾重にもなった金属板を容易に切り裂く威力の攻撃であり、人間なら一刀両断にできる。

 先ほどまでの会話劇ですら想定外であることに加え、ついには反撃に転じ立ち上がってもいるのだ。


 ドウマが赤い忍び装束の襟を自ら開いて見せた。そこには、斜めに爪の痕が走る黒い鎧のような服があった。

「特殊繊維の防具か!?」

 サイガが真っ先に反応した。

「せいかーい。しかもこの世界ならではの、化学繊維に魔法を編み込んだ特別製さ」

 ドウマは防具を自慢げに見せる。


「ドクターウィルが作った服だな」

 ミコが唸った。

「ドクターウィル?」

「そうか、サイガは知らないか。ドクターウィルってのは異界人の科学者さ。あの爺さんがこの世界に現れてこの国の科学は飛躍的に発展したんだよ。で、この防具が現在の最新作。物理・魔法の両方に強い耐性を持つインナーってわけ」


「うう、あのジジイ、余計なことを・・・」

 ミコが恨めしそうに唸る。

「おいおい、勝手なこと言うなよ。きみらだってあの爺さんには世話になってるだろ?きみの爪、メイ・カルナックの服、その他、六姫聖の武器防具の基本設計は一通りウィル印だろ?」

 ドウマの言うことはもっともだった。科学は平等。使う者次第なのだ。


「さーて、それじゃあ、左腕もらっちゃおうかな。安心しな、俺の斬撃は鋭いから痛くないよ」

 ドウマが忍者刀を構えた。唯一自由のきく、ミコの左腕を狙う。

「いっただきぃ」

 銀色の軌跡を描きながら、忍者刀が腕へと進む。


「いやぁ、ミコさま!」

 たまらずセナが悲鳴を上げた。と同時に、激しい金属音が響く。

 ドウマの刀は正面から止められた。止めたのは一本のクナイだった。

「クナイだと、まさか!?」

 ドウマが、サイガが横になっているはずのソファに目線を移す。そこには、起き上がり投擲を終えた姿勢のサイガがいた。


「サイガ。おまえ動けたのか?一体いつ・・・」

「たった今だ!」

 言い放つとサイガは忍者刀を構えた。

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