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第185話 「猫対忍者。世紀の珍勝負?」(バトル)

 度重なる振動が、幾度となく一角楼を揺らす。

 外部で行われている戦闘は、その余波だけでも十分に中にいる人間達にそのすさまじさを伝えていた。

「さっきからずっと外がうるさいみたいだけど、どうなってるんだい?」

 窓からそとを覗き見ながら、セナが不安を口にした。なおも揺れは続く。


「んー、この感じ、ナルとリンが戦ってるんだ。すごいぞ、あの二人が本気の魔力を出してる。相手も相当強いぞ」

 スンスンと鼻をならしながら、ミコは状況を伝えてきた。感覚の優れているミコは空気の振動で戦況を感じ取っているのだ。


「セナ、そっちの窓から見てもなにも見えないぞ。戦闘の場所は、おそらく建物の反対側だ。先日の広場の辺りだろう」

「え?サイガ、あんた動けないのにそんなことまでわかるのかい?」

 首から下が不随の状態であっても、サイガの感覚は健在で、伝わる振動の具合から戦闘の位置と規模をおおよそ割り出していた。そしてそれは正確だった。


「ということは、さっき一階いた連中かい?」

「おそらくな。シャノン殿に柱の破壊を封じられたせいで、外からの攻略に切り替えたんだろう」

「あと、内側もだな」

 ミコが付け加えた。

「おそらくな。一人、こっち向かってきている。恐ろしく強いのが一人」

「うん、こいつはわかる。さっきミコに変な魔法みたいなのを食らわせたやつだ」

 ミコの言う「魔法みたいな」とは、ドウマの忍法のことだ。


 ミコはドウマの忍法 猫鳴器(ねこなき)を浴びたことで生じた痒みの恨みを深く抱いている。

 猫は不快感に対し強い怒りを覚えるのだ。


「へぇ、よくわかってるじゃん。きみ鋭いね。さっきちゃんと殺しておけばよかったよ」

 不意に声が聞こえた。三人が一切にその方向を見る。そこには、天井に逆さにぶら下がるドウマの姿があった。

「貴様、ドウマ!」

「あ!()なヤツ!」

 サイガとミコが同時に叫んだ

 ドウマは笑っていた。血のような真紅の唇の端を歪め、これから訪れる殺戮の時間を感受しようというような笑みだった。


「サイガ、久しぶりだな。なんだその姿は?情けない、それでも俺のライバルか?」

 蔑む目を、ドウマはサイガに向けた。元の世界において当代一の実力だった者のあわれな姿を嘲ったのだ。


 三人のうちの一人が動いた。一瞬で間を詰めると、感情のこもった激しい一撃を浴びせる。ミコだった。

 ドウマは逆手の忍者刀で右手の爪の攻撃を防いだ。

 二人は同時にのけぞった。

「あれ?きみ、さっきより強くなってない?攻撃が重くて鋭くなってるよ」

「シャノンが強化魔法の魔法珠をくれたんだ。もうお前なんかにやられたりしないぞ!」

 ミコは猫特有の身軽さで、空中で姿勢を変えると、手と足の爪の攻撃を連続で繰り出した。

 一方、刀だけでは凌ぎきれないと判断したドウマは篭手も利用して、両手で猛攻を捌く。


「ははっ、速い速い。さっきとは比べ物にならないや。強化魔法ってすごいね」

 ミコの音速のごとき攻撃を、ドウマは音速のごとき守りで防ぐ。

 しかし、怒りに任せたミコに対し、ドウマは余裕の表情で、微笑みすら浮かべていた。

「だけどさ、まだまだ荒いよね。こういうとことか、さっ!」

 爪と刃が接触した瞬間、強烈な閃光が発した。

 『忍法 光遁 放閃華(ほうせんか)』。任意の場所に閃光を生じさせる忍法だ。

 ミコは怒りのあまり、一番厄介なものを失念していた。

 「ふぎゃああ」と悲鳴を上げて、ミコはドウマに背を向けた。

「しまった!」

 ミコは己の愚を悟った。


 ミコが背を向けたのは、猫の習性上のことであり、反射だった。しかし、その習性が事態を悪化させた。

 ドウマは向けられた背に容赦のない一刀を浴びせた。右上から左下へ。華麗なノの字だった。


「ぎにゃあ!」

 唸り声を上げてミコが後ろ蹴りを放つ。

 苦し紛れの一撃のため、それはかすりもしなかった。

 少し前に逃げて反転。ミコは向き直った。

 背中への強烈な一刀で息が上がっていた。


「残念だけどさ猫娘、きみじゃあ、せっかくの強化の魔法珠を使いこなせないよ」

「なんだと、そんなことはないぞ!この強化魔法はシャノンがミコのために調整してくれたんだ。だからミコはすごく強くなれるんだ!」

 ドウマの安い挑発にのせられ、ミコは右手の爪で飛びかかった。


「だから、そういうとこを言ってるのさ」

 ドウマの手から数本の鋼線が放られた。

 鋼線はミコの右手に絡み付くと爪を封じる。

 ミコは拘束される不快感に気を取られ、攻撃の手を止めた。それが命取りだった。


 更なるドウマの忍法が炸裂した。

 『忍法 雷遁 猫発雷(ねこばらい)』。猫鳴器の数倍の電撃を浴びせる、雷遁最高位の一撃だ。

 ミコは「ぎゃっ!」と鳴いて地に伏した。


「はい、一丁あがり。六姫聖だからなかなかやるようだけど、やっぱりガキはガキだね」

 髪と肌を焦がした匂いを漂わせて横たわるミコを尻目に、ドウマはサイガに歩み寄る。

 ここで、サイガの傍らで鉄鞭を握り、構えるセナを一瞥した。

 ドウマは笑った。とるに足らない相手という、侮蔑の意味が込められていることを、セナは理解した。


「な、なんだいあんた、まだ私がいるんだ、好きにさせないよ」

 サイガ以上の身体能力のミコがかなわなかった相手。自分など足元にも及ばない。それを理解しながらも、セナはドウマに立ち向かう。

 その覚悟に敬意を表したのか、ドウマは足を止めてセナに向き直った。


「覚悟は買うけどさ、わかってると思うけど、きみじゃあ、俺に勝てないよ」

「そ、そんなの、やってみなけりゃわかんないだろ!」

「わかるよ。だってさ、もう終わってるからね」

「え?」

 顎先をなにかが掠めた。ドウマの脱力した拳が通過していた。


セナの視界は上下が反転し、膝、頭の順に地面に倒れた。

「この程度躱せないくせに、前に立たないでほしいね」

 ドウマが笑いながらセナの頭を踏みつけた。

 弱者を見下す冷血の目だ。


「やめろドウマ!」

 サイガが叫んだ。

 ドウマがなにかを察して笑みを向ける。

「なんだサイガ、この娘、お前のお気に入りか?他人に入れ込むなんて、ずいぶん甘くなったな!?」

 高笑いを発しながら、踏みつける足に力を込める。

 圧迫からセナが意識を取り戻しうめいた。

「ぐぅ、う・・・、ば、バカにしやがって。好き勝ってやってんじゃないよ!」

 セナの手がドウマの足首を掴んだ。意識は混濁してはいるが、近距離極まる敵を逃がすことはない。


 足首を掴んだ手が真価を発揮した。力の加護が発動し、礼節をわきまえない足首を締め上げる。

「ぐぁっ!な、なんだこの怪力!?まさか、スキル持ちの異界人か?」

「大外れ。加護持ちの田舎娘さ!」

 飾り気のない自己紹介を口にすると、セナは更に力を込めドウマを釘付けにする。

「ミコさま、今だ!やっちゃってくれ!」


 セナの呼び掛けに応え、忍法の影響の残る体でミコが立ち上がった。その手には乳白色の魔法珠が握られている。ミコ専用の強化魔法だ。

「おまえ、もう許さないぞ・・・ふぎゃっ!」

 唸り声を上げてミコが魔法数を握りつぶした。

 リンの時同様に、強化の魔法がミコの体を包み、迸る。


「シャノンから、一気に強化を使うと負担が大きいからダメって言われてたけど、お前は今ここでやっつけないといけないヤツだ!だから使う!」

 強化魔法の影響で全身の毛と尻尾を天を突かんばかりに逆立たせながら、ミコは決意を口にする。

「一対一ならまだしも、この状況は分が悪いな。なら、こっちも超化を使わせてもらうよ」

 そう言うと、ドウマは懐から超化翠を取り出し、超化を発動した。緑の光が全身をめぐる。


「超化だと?奴らも強化の魔法を使うのか?」

「単なる強化と思うな。身体能力からスキルまで全てを飛躍的に向上させるのさ」

 ドウマの様子の変容に、サイガが問う。

 問いにドウマは笑いながら答えた。


 強化が完了したミコが飛びかかった。

 超化の力に満たされたドウマが迎え撃つ。

 先程より数倍の速度の両手の攻防が始まった。

 左右の手の爪を四方八方から縦横無尽に走らせ、ミコは連続のネコパンチによる爪攻撃『にゃんにゃんデストロイ』を繰り出す。

 しかしドウマは右手の忍者刀と左手の篭手で全て捌いた。

 一瞬で数十回、金属がぶつかり合い、重なり発生した火花で、シャノンの魔法で隠された空間は光に照らされる。


「く、この猫娘、動きが速すぎるぞ。さっきとは比べ物にならない!」

「あたりまえだ。ミコとシャノンが力をあわせたんだ。お前なんかに負けるもんか!!にゃあああああ!」

 シャノンの思いを背に、気合と共にミコは更に連撃を押し込んだ。

 自由気ままなはずの猫は、使命に燃えていた。

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