第184話 「雷神舞闘」(バトル)
暴風リン・スノウの巨体に髙位の雷魔法を纏わせることで発動する『戦装・雷神王』。
細胞の一つ一つにまで行き渡った雷魔法は全身をわずかに発光させ、髪を浮き上がらせる。
体から溢れだす魔力は周囲を優しく取り巻き、神々の纏う羽衣のごとき形となる。
それは奇しくも、メイのアマテラスフォームに酷似していた。
「それでは、参りますわよ。よく気を張ってくださいませ、一瞬ですので」
そう言うと同時に、リンの姿が消えた。後には突風が残される。
リンの警告の言葉に応じるかたちでマグナムキッドが身構えた。
直後、眼前にリンの巨体が現れる。正に一瞬だった。
キッドが両腕で防御を固める。もっとも耐久度の高い十字受けだ。
しかし防御の両腕は押し込まれた。リンのアックスボンバーが防御もろともキッドの体を吹き飛ばす。
その動きも一瞬だった。
リンは攻撃を続けた。
後方に飛ぶキッドの上方に追い付くと、エルボードロップで追撃した。
二人揃って瓦礫の中に身を沈める。
土ぼこりが舞い上がった。
「おいおい、なんちゅう速さだ。人間離れした腕力と耐久力に速度まで加わってしまったんじゃあ、ますます手に負えんじゃないか」
戦装・雷神王によって、飛躍的にリンの戦闘力は向上した。
並外れた体格によって裏付けされていた攻撃力。そこに雷のごとき速度が加わったことにより、正にアールケーワイルドの言葉通り、手のつけられない、通り名の暴風のごとき戦闘力を身に付けたのだ。
土ぼこりの中から赤い影が飛び出した。マグナムキッドだ。
キッドはリンから距離をとると、両腕を広げ上方に構えた。マグナムキッドの必殺技、自身をフェニックスに模したエネルギーの塊に変えて突進する『ファイナルフェニックス』の構えだ。
キッドは、リンのあまりの戦闘力の高さから、わずか二撃で徒手での戦闘を諦めたのだ。
「まだそんなものを隠してましたのね。面白いですわ、受けてたちましょう!」
リンは歓喜した。徒手でも十分な強さのマグナムキッドの必殺技、期待せずにはいられなかったのだ。
両手を広げ、前に出すとわずかに左右で上下をつける。プロレスで見られる力比べ、手四つの構えだ。
キッドの両腕が広がった。エネルギーの迸りが翼を形成する。
踏みだした。先ほどまでリンを翻弄していた圧倒的速度の踏み込み。突進力は申し分ない。
「こいやぁああああああ!!」
リンはキッドを正面から迎えた。
両翼を手でつかむと、嘴に頭突きをぶつける。
二つの力が互いに滅しあい、磨耗する。
「ぬぅおおおおおおお!」
ここにきて、マグナムキッドがはじめて声を発した。それは意思から来るものではなく、肉体の反応のようなものだった。
フェニックスが加速した。エネルギーの塊は暴風を押し込み、その腕を後退させる。
「なぁめんなぁああああああ!喝ぁつ!」
リンが気合いと共に声を発すると、フェニックスが消滅した。あとにはキッドが残される。
リンは、古の戦士達の意識を奪った雷吼哮をフェニックスに浴びせかき消したのだ。
エネルギーの層が消えたことで、リンの手はキッドの腕に届き、直接掴んだ。
「さぁ捕まえましたわ。これで逃げられませんわ・・・よっ!」
リンはキッドの体を強引に後方に放り投げた。その勢いは強く、リンは大きくのけぞったブリッジの姿勢になり、頭頂部が地についた。
キッドが大きく放物線を描いて宙を舞う。
その真横に一つの人影が現れた。
人影はリンだった。リンはブリッジの直後に間をおかず追撃を仕掛けたのだ。
「せーの、はっ!」
追撃の上方からの神速の左の蹴り『落雷脚』。キッドの軌道は放物線から直線に切り替わって地面に向かい急直下する。
キッドの体が地面に激突する寸前、すでにそこにはリンの姿があった。
リンの移動速度は音を超越していた。
「はぁっ!」
全身を鞭のようにしならせた蹴り『雷牙』で、リンはキッドの体を前方上方に蹴り飛ばした。
強烈な連撃により、キッドの体は脱力した状態で飛行する。
さらに追いついたリンの左腕が、キッドの首に鉤のように巻きついた。
すかさず首の後ろを右腕が回りこみ、首にかけると、回転の勢いを利用して地面に投げつけた。プロレス技のスリングブレイドに超加速を加えた『墜天放』だ。
またしてもキッドは地面に向かい急降下する。
そしてまたしてもリンは先行して地に降り立つと、右の拳に全ての雷と力を込めてマグナムキッドを迎えた。
「こ・れ・で・お・わ・り・よぉおおおおお!」
全ての力を集中させた、狙いすました渾身の大振りの右拳。『雷鳴拳・轟』。
拳は直撃し、その瞬間にマグナムキッドの体を粉々に吹き飛ばした。
あとには、焦げた欠片となった体が地に散らばった。
「貴方の力、技。たっぷり堪能させていただきましたわ」
リンは、流血に汚れながらも満たされた笑みで好敵手を見送った。
「どうすんだよ、ホウエン?一番強いのがやられちゃったよ。ねぇ・・・ってあれ、ホウエン?」
動揺したアラシロが返事の無いホウエンに顔を向けた。そこにホウエンの姿は無い。
消えた相方を探しアラシロが四方八方を見回す。ホウエンがいた。気を失い地面に倒れていた。
ホウエンはマグナムキッドに力を吸い尽くされ、気を失っていたのだ。
「ちょ、ちょっと、ホウエン!寝てる場合じゃないだろ。起きろ、起きろって!!」
アラシロがあわててホウエンの体を揺さぶるが、反応は無い。ホウエンの意識ははるか遠くだった。
「で、どうするんだ?まだ抵抗するか?」
野太い声が投げかけられた。
アラシロが視線を向けると、リボルバーの銃口を向けたアールケーワイルドがいた。
そしてその隣にリンが並び立った。満身創痍ではあるが、その顔には戦いきった爽快感がある。
「私、もう少しだけ余力を残しておりますの。お望みとあらば、お相手して差し上げますわ。最も、一瞬で片付いてしまうかもしれませんが」
そう言うと、リンは右腕に電気を走らせて見せる。
「いや、やめとくよ。降参」
アラシロは投降を選択して両手を挙げた。アールケーワイルドが後ろ手に拘束する。
「ねぇ、ホウエンは殺さないよね?」
「安心しろ、無益な殺生はせん」
アールケーワイルドの返答に、アラシロは安堵した。
「そうですわ。それに、この方のスキルは有用性がありますもの」
「有用性?なんだ、そりゃ?」
「古の戦士を描くだけで呼び出せるなんて、素晴らしすぎますわ」
「!?まさかお前さん、こいつを捕虜にして練習相手を作らせるつもりか?」
「ま、まぁ、姫の許しがあれば、ですけど。さすがに王派の人間を私物化するわけにはまいりませんので」
「そりゃそうだな。だが、もし許しがでるってんなら・・・」
「そのときは、私が満足するまで付き合っていただきますわ」
「・・・こいつはここで死んだほうがいいのかもしれんな」
アールケーワイルドは哀れみの目をホウエンに向けた。
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