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第183話 「脅威の戦闘力。究極戦士マグナムキッド」(バトル)

 側頭部への強烈な後ろ廻し蹴りを叩き込まれ、リンは転倒と同時に激しい脳震盪を起こした。

 痛みを堪能しながら立ち上がろうとするも、揺れる脳は足への指令を遮り体を大きく揺れさせる。

「な、なんて強烈な攻撃ですの・・・私が一撃でここまでダメージをもらうなんて・・・」

 震える足を手で支えながら、リンは何とか立ち上がった。

 頭部に鈍い痛みが残る。側頭部に亀裂が入っていた。

 鼓膜は破れ、血が流れ出す。


 体勢を立て直そうと足に力を込めるリンの前に、マグナムキッドが瞬間移動のように現れた。

 一瞬の間もおかずに、音速の爪先蹴り『マグナムスピアー』が喉に突き刺さった。

「げぇっ!」

 濁った声を発しながら、リンは後方へ吹き飛ばされた。

 積み上げられた瓦礫に後頭部が激突し、体が脱力して崩れ落ちる。

「くっ・・・易々と私を蹴り飛ばすなんて・・・いままでの方たちとは、速度も力も、何もかも違いすぎる・・・ぐはっ!」


 間髪いれず、マグナムキッドは追撃を行う。

 金属すら打ち抜く右のローキック『マグナムスライサー』が顔面を叩き、リンの上半身が右方向に揺らぐ。

 すかさず左のマグナムスライサーが顔を叩き、中央へと強引に押し戻す。

「か・・・がぁ・・・あ・・・」

 左右の顎関節を襲った恐るべき衝撃。リンは口を閉じることがかなわなくなり、多量の血と唾液が流れ落ちる。


 歩み寄ったマグナムキッドがリンの髪を掴み、頭を持ち上げた。体もそれに続く。

 巨体の重量が頭髪の一点に集中し、髪のちぎれる音が聞こえる。

「くぅ・・・あなた・・・乙女の髪を・・・」

 吊り上げられながらも、その目から光は消えず、無作法者を睨む。


 その顔面を狙って、マグナムキッドの右腕に集中させたエネルギーの爆発攻撃『マグナムブラスター』が炸裂した。

 エネルギーの爆発は激しく、顔のみならずリンの前面全てを呑みこんだ。

「あ、ああ・・・が・・・」

 皮膚と髪の焦げる匂いが立ち込める。服の殆どが焼け落ち、肌が露出した。

 マグナムキッドが髪を掴んだ手を放す。

 リンの巨体が力なく降下する。


 赤い戦士の追撃は終わらない。

 腰の横に位置するリンの胸部に、音速の横蹴り『サイドショット』が打ち込まれた。

「げぶぅっ!く・・・はっ・・・」

 一撃一撃が必殺の威力を持つ攻撃による容赦の無い連撃は、頑強な体躯の暴風リン・スノウを仰向けに倒した。

 両腕は大きく広げられ、無防備をさらす。


 大の字となって転がるリンの胸部を、跳びあがったマグナムキッドが急降下して踏みつけた。

 体重が加速されてのしかかる。

「ぐぅっ、はぁっ!!」

 圧迫された胸から逆流した空気と血が口から飛び散り、マグナムキッドの顔にかかる。

 吐血を意に介さず、マグナムキッドは踏み付けを連続して敢行した。

 回を重ねるごとに鈍い音と激しい振動が響き渡る。


 ◆


「ね、ねぇホウエン、マグナムキッドって善い者の主人公だよね?なんだか、攻撃の仕方が悪役みたいじゃない?」

 執拗なマグナムキッドの攻撃方法に、アラシロは違和感を覚えた。

 かつて読んだ、記憶の中のマグナムキッドは、勧善懲悪の正義の味方であり、例え敵であっても倒れた相手に執拗な追撃を行う、眼前の人物とはかけ離れた存在だったからだ。

「ハァハァ・・・ど、どうやら・・・出現した際に・・・ハァ、俺の超化の力を全てもっていったらしく・・・そのせいで、暴走をしているようだ・・・ハァハァ・・・」

 アラシロの疑問に、息も絶え絶えな様子でホウエンが答えた。

 その言葉どおり、激しく消耗して超化も解除されていた。

「え?じゃあさ、このままあの女をやっつけたら、マグナムキッドはどうなるの?」

「ハァハァ、わからん。目的を達成して消滅するか、次の標的を求めて俺たちを狙うか・・・ハァどちらにせよ、もう俺には制御は不能だ・・・」

「なんだよそれ。ねぇ、なんかその超化翠おかしいよ!スキルを制御できなくなるなんて、まるで僕たちをハメるみたい・・・」

 アラシロは不可解な事態に言葉を詰まらせ、マグナムキッドを遠目に睨んだ。


 ◆


 マグナムキッドの激しい追撃が、リンの胸部を幾度と無く襲い続ける。

 一撃ごとに肉と骨が痛む音が聞こえてくる。

 そんななか、リンは思いにふけっていた。

「(ああ・・・たまりませんわ。全身が苦痛で悲鳴を上げるこの感じ・・・。私、今、充実してますわ。お腹の奥がキュンキュンしましてよ。もっと、もっと、この時間を堪能したいですわ・・・)」

 死の直前まで追いつめられておきながら、リンはなお、戦いの愉悦に酔いしれていた。

 リンは肉弾戦においての、命を削りあう状況に激しい興奮を覚える。

 高い身体能力と高威力の攻撃を駆使するマグナムキッドは、理想の相手だったのだ。

 この蜜の時間が永遠に続くことを、リンは望んでいた。

「ですけど、この威力が続くのは、さすがに体がもちませんわね。名残惜しいですが、そろそろ終わらせましょう」

 リンはポツリと呟いた。


 マグナムキッドが更に強烈な踏み付けを行うために、高く跳びあがった。

 両脚をそろえて杭のように突き出し、胸の中央、胸骨の位置を目掛けて降下する。


 寝転がる上体から身を縮ませ、リンの両脚が跳ね上がった。

 マグナムキッドに対抗するように両足をそろえると、降下する底部を底部で迎え撃った。

「ぬぅぅぅぅ・・・ふん!」

 踏みつけられ、押さえ込まれた両脚を一気に伸ばし、リンはマグナムキッドを押し返した。

 空中に蹴り出された体を数回転させてマグナムキッドは着地する。


 伸ばしきった両足を一瞬たたんで、リンは首跳ね起きで立ち上がった。

 リンは正に満身創痍だった。

 衣服はボロ衣となって上半身はほぼ裸となって、露出した肌の至る箇所は紫、赤と変色し、口や鼻から流れ出た血が顔を染め上げる。

「むぐ・・・む・・・ぷっ!」

 口の中の異物を、血と共に地面に向けて吐き出した。中には白い粒が転がる。

「歯が何本か折れましたわね。またシャノンに手間をかけさせてしまいますわ」

 吐き出した血、転がる歯。そして全身を優しくさすりながら損傷した箇所を確かめると、リンは両腕をゆっくりと広げた。

「・・・ふふ、ごらんなさい。体中の肉と骨が激痛に悲鳴を上げていますわ。これこそ、私の望んだ姿、最も満たされた時間ですの」

 優しい聖母のような口調と仕草。血と傷に塗れながらのその余裕は、どこか不気味さすらあった。

「このような素敵な時間を下さった貴方には、心から感謝いたしますわ。ですので、その感謝の意を表し、現在の私が出せる最高の力をお見舞いさせていただきますわ」


 リンが広げた両腕の手を開いた。その中にはそれぞれ魔法珠が握られている。色は、雷を表す黄色だった。

「これは、あらかじめ雷魔法を仕込んだ魔法珠ですわ。情けない話ですが、私、生来魔力の総量が低いため、こうやってアイテムに頼らざるを得ませんの。ですがその分、その威力は絶大・・・ふん!」

 握られた魔法珠を、リンは勢い欲握りつぶした。

 全身を激しい雷が走り抜け、細胞の一つ一つまで魔力が満たす。

 魔法珠には上位の雷魔法が封じられていた。それを二つ。体にめぐらせることで身体能力を極限まで強化したのだ 

 雷が迸り、まるで神々の衣のように全身を包む。

戦装せんしょう雷神王らいじんおう。今の私が出来る最高の力ですわ!さあ、お互い、全力で語らいあいましょう!」

 雷によって体を発光させたリンが、気合を爆発させた。

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