第174話 「拳には銃を、剣には刀を。最強の戦術、それは適材適所」(バトル)
異界人特務部隊ハルルのスキル『破壊神』によって、積み上げられていた瓦礫の足場が破裂するように崩壊した。
特務部隊の四人は瓦礫が飛び散り消え去った足場に降り立つ。
四方に散った六姫聖と四凶はそれぞれの相方と合流した。
「おい、おまえら!気をつけろチートスキルは魔法と違って詠唱を必要とせずに即座に高威力の発動が可能だ。そして、今瓦礫を砕いた褐色の女はハルル。スキルは破壊神。攻撃が触れた対象を完全に破壊し尽くす能力だ。絶対に攻撃を受けるなよ!」
アールケーワイルドが大声でその場にいる全員にハルルの詳細を伝えた。
王の直下である四凶は、王のもとで行われている計画をある程度は把握しているのだ。なかでもアールケーワイルドはその性格から人脈が広く、多くの情報を有していた。
◆
「けっ!なんだよ、四凶のあいつ、私たちのこと知ってるのかよ。まぁいいや、知ろうが知るまいが、一発殴っちまえばおしまいだ」
拳を鳴らしながら、ハルルは臨戦態勢に入る。
「ホウエン、アラシロ。私とハルルは一度、四凶に敗れてる。あいつらは強いから最初から全力で行ってね」
剣を抜きつつ、剣聖のペティが後方の『未来予知』のアラシロと『神の筆』のホウエンに声をかける。
二人は言われるまでもないと、武器を手にとる。アラシロは小型のナイフ。ホウエンは筆ペンだ。
◆
「触れたものを完全に破壊・・・ねぇナル、あの女、私が戦うわ」
ハルルと戦いに、リンが真っ先に名乗りを上げた。その顔は強敵の激戦との期待に満ちている。
「ダメだ」
「え?」
リンの宣言をナルが制した。
通常なら希望を聞き入れてくれるはずの、級友からの聞きなれないの言葉に、リンは足を止めてナルを見る。
「ダメって、どういうこと?ああいう手合いは、いつも私に譲ってくれてたじゃない。なぜ今回に限って・・・」
「聞いていただろう。あの女のスキルとやらを。触れた相手を破壊するスキルだと。攻撃を避けるつもりの無いお前とは相性が悪すぎる!」
「そ、それは・・・」
「触れれば破壊ということは、常に命の危険が伴うということだ。現状、回復の手段の無い私達では取り返しのつかないことになりかねない。ここは射撃の得意な私が行く!」
「わ、わかったわよ。じゃあ、私はあっちの黒い鎧の・・・」
リンは視線をハルルの後ろのペティに向ける。
「そっちはウチが相手したるわ」
「ええ?」
リンを押しのけシズクヴィオレッタが名乗りを上げた。
「殴るだけで破壊すんのがおるんやったら、あっちの剣持っとるんは同じぐらい厄介やろうからね。ここは似たようなもんつことるウチが当たるわ」
「そうか、たすかる。放っておいたら、こいつは何にでも突っ込んでいきかねん」
シズクヴィオレッタの提案に、ナルは礼を述べた。
図星をつかれたリンは苦い顔をしている。
「そんじゃあ、残った二人をわしらが相手をする。それでいいな?リン・スノウ?」
「ええ、わかりましたわ。仕方ないですけど、この鬱憤はあの二人に解消してもいらいますわ」
アールケーワイルドの提案に同意すると、リンは更に後方のホウエンとアラシロを見る。
「男だが体型は戦闘向きじゃない。見るからに搦め手が得意って感じだな」
リボルバーを握りなおしながら、アールケーワイルドはホウエンとアラシロの戦力を測った。
◆
「話は決まったか!?だったら、さっさと始めようぜ!こっちは一回殺されてイライラしてんだ。てめぇら皆殺しにして発散させてやるよ!ペティ、やれ!」
腹の内側にたまったものをすべて吐き出すような怒号でハルルが叫んだ。
続いて、ペティが剣を振ると、斬撃が飛び六姫聖と四凶の四人を分断する。
斬撃を回避しながら、ナルは二丁拳銃型の魔砲ハチカンを撃ち、ハルルを狙う。
ハルルは氷の弾丸をダッキングで避けると、ナルに向かって拳を打った。
衝撃が拳の形となり、前方へ飛び出す。
飛来する拳型の衝撃を、ナルは氷の障壁を発生させて相殺した。
拳と氷は衝突すると、粉雪のような粒となって散って消えた。
「なるほど、完全に破壊するというのは誇張ではないようだな」
氷壁の末路を見届けながらナルは呟いた。
ナルの氷の強度は自然界のそれを大きく上回り、鋼鉄以上の耐久性を誇る。
これまでも強力な戦士や魔物相手なら氷の防御を破られることはあったが、ハルルのスキルはその氷を前例が無いほどに粉々に砕いていた。
その事実が、ナルに敵の脅威の程を物語っていた。
「ならば、私の持てるすべての手段を用いて、遠距離からしとめさせてもらうぞ!」
ナルが己のすべての魔力を解放させ、周囲を冷気で包んだ。
◆
シズクヴィオレッタが習得している剣術、静海一刀流に鍔迫り合いや剣戟の概念は存在しない。
『歩みと仕草は穏やかな幽鬼の如くあり、常に死角をとり隙を突く』。争うのでなく、屠るための剣術。それが静海一刀流なのだ。
剣聖のスキルをもつペティの斬撃はあらゆるものを切り裂くため、脅威ではあるが、その全てを切っ先と刀身で流すようにあしらうシズクヴィオレッタの剣術はスキルの発動を許さなかった。
上、下、左右と、あらゆる方向から斬りつけようが、シズクヴィオレッタはわずかに力を添えることで、その流れを他所へと逸らしていた。
「な、なに?この女の剣術?まるで手ごたえが無い!?」
「当然や。ウチの剣術は凪の剣術や。あんたのような激しい、無駄の多いスキルとは根差しとるもんが違とんねん」
無駄の無い動きの静海一刀流により、シズクヴィオレッタの体力は充分に余裕がある。
一方、この世界でスキルだよりの戦闘を行ってきたペティは、剣術の腕前はシズクヴィオレッタのそれに遠く及ばない。
「なんや、自分素人やな。ほんなら、さっさと終わらせたるわ」
シズクヴィオレッタは、ペティの踏み込みの荒さ、間合い、読みの浅さから技の錬度が低いことを見切り、決着へと動き出した。
近距離での攻防で負けることは無いとふんだのだ。
刀の切っ先で剣の切っ先を絡め、シズクヴィオレッタはペティの剣を叩き落した。
主の手を離れ、スキルの恩恵を失った剣は地面の上で音を立てて踊る。
剣を叩き落された勢いで、ペティは膝を着く。その喉にシズクヴィオレッタは切っ先を突きつけた。
「終いや。大人しくしてんのやったら、命まではとらへん。じっとしとき」
「くっ・・・!な、なめないでよ。この程度で諦めるわけ無いでしょ!」
ペティは鎧に忍ばせていた短剣を取り出しす。すかさずスキルを発動させ、斬撃を前方に飛ばした。
シズクヴィオレッタは静かな歩みで半身をずらして斬撃を躱す。後方で瓦礫が切断され崩落する音が聞こえた。
「わ、私は、この世界で剣士として誇りを手に入れたの!このスキルさえあれば、私は最強になれるの。もう誰にも負けない、誰にも見下されない!降参なんて絶対しないわ!」
ペティは元の世界での自分を仲間に語らない。しかしその心の奥には立場、力に対する大きな負の感情がある。それがシズクヴィオレッタに圧倒されることで爆発したのだ。
ペティは短剣を振り回し、多数の斬撃を発生させた。
たまらずシズクヴィオレッタは距離をとる。それにあわせてペティも距離をとった。
「ここで降参するぐらいなら、後先なんて考えない!」
激昂するペティの右手には緑の石、超化翠が握られていた。
「?な、なんやそれ?」
「後悔しなさい、私を素人と呼んだことを!・・・超化!」
ペティが超化翠を強く握り、超化を宣言すると超化翠から緑の光が迸り、ペティの全身を包んだ。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!