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第172話 「巻きつく守りの鎖。双界はせめぎあう」(ストーリー)

 リシャクによって発生させられた大量の虫が、異界人たちを翻弄して約一分ほど経った頃、虫たちはその動きを変え、姿を消した。

 出現も突然だったが消失もまた突然で、その動きは正に神出鬼没だった。

「消えた?一体、なんだったんだあの虫は?魔法か?それとも俺たち以外のチートスキルか?」

 新たな敵の存在をドウマは疑った。足下に散らばる虫の死骸を風遁で攫いながら周辺を見渡す。

 

 一角楼一階部の空気が変わった。

 それは魔力の渦だった。三階部大広間でシャノンの詠唱が完了し、魔法が発動したのだ。

 残された二本の柱に魔力が集中すると、魔力は黒く太い鎖となって柱に巻きつき始めた。それはまるで大型船を停泊させるための鎖に匹敵するほどの太さだった。

 『鎖巻封筒』(さかんふうとう)。魔力の鎖で対象をくるみ、完全保護する防御魔法。

 シャノンがその発動に時間を要したことから、その位は上級以上の高位魔法だ。


「なによこれ。こんなもの・・・はっ!」

 柱に巻きついた鎖を、ペティが跳びかかりながら全てを切り裂くチートスキル『剣聖ソードマスター』で斬りつけた。

 しかし鎖巻封筒はその剣を弾いた。

 剣、鎖双方に損傷は無い。

「!?弾かれたのに、衝撃がない?」

 ペティは着地すると、剣と手に目を向けた。鎖に剣を弾かれた感覚はあるが、刃こぼれも無ければ痺れも無い。不思議な感覚だった。


「この鎖は魔法だね。だから、僕たちのスキルとは互いに不干渉の存在なんだ」

 ペティの隣にテンタが歩み寄って、疑問に答えた。

「魔法とスキルは、目的を同じとした場合でも手段が異なるんだ。例えるなら、火をつけるにしても、魔法なら魔力や精霊の力を借りて発動させるんだけど、スキルは精神力や謎の力かな。だから、お互いの力が交わったりぶつかったりしようとすると、中和されることが殆どなんだ。今回の場合は、先に目的を達した魔法の領域にスキルが干渉できないってところかな」

「え?じゃあ、私達はもう柱に手を出せないってこと?」

「そういうこと。一角楼を攻略したかったら、地道に登って来いってことだね」


「あらぁ、面白いじゃない。それじゃあ、虜囚の皆にはもっともっと頑張ってもらいましょう。ね、シュドー、武器はいいから工具作ってみんなに渡してくれない?いいでしょ?隊長」

「ああ。シュドー、作ってやってくれ」

 クジャクのリクエストとドウマの指示に応え、シュドーは武器精製から工具と建材の精製に移った。


「隊長、私達はどうするんだ?階段が出来あがるのを悠長に待ってるわけにもいかねぇだろ?」

「そうだな。そういえば、六姫聖は中だけじゃなくて外にもいたな。・・・よし、ハルル、ペティ、ホウエン、アラシロは外の六姫聖にあたれ。シュドー、クジャク、ムク、テンタはここで階段作成を続けろ」

 ハルルからの質問に、ドウマは隊員達に新たな指示を与える。

「んで、隊長はどうすんだよ?あんたのことだから、どうせな何かやろうとしてんだろ?」

「ああ、俺はちょっと知人と会ってくる」

「知人?」

「そうだ。感動的な再会になるだろう。・・・な」

 ドウマは上方を見た。その視線はサイガがいるであろう三階部に向けられている。

「待っていろよサイガ。三年ぶりの、感動の再会だ」

 ドウマは怪しく笑った。


 ◆


「うっ・・・なんだ、急に肌寒くなったぞ」

 一角楼三階大広間の隅の『隠者の黒霧』に覆われた一角の中で、サイガは直感的にドウマの視線を感じていた。

「え?そうかい?気温はなにも変わらないよ。気のせいじゃないのかい?」

 サイガの看病を続けているセナは、当然その視線を感じることは無い。

「ぬ、そうか・・・この状況で少し繊細になっているのかもな」

「そうだよ。不安かもしれないけど、私がついてるから、もう少し安心しておくれよ」

「ありがとうセナ。頼りにしているよ」


「む、むむむ・・・どうやら、一階の連中に動きがあるぞ」

 リシャクが伝心カイロウドウケツからの報告を受け、状況を報せに来た。

 シャノン、エィカも集まり、耳を傾ける。


 語られた冒険者たちの動向は以下のものだった。

 冒険者は三手に別れ、行動を開始した。

 外へ向かったのは、剣を持った黒い鎧の女、薄着の口の悪い褐色の女。この二人が剣と拳で柱を破壊した。更に二人、黒い服を着た若い男が二人。この二人はよくわからない。

 一角楼内には四人が残った。住人達を従えた薄着の女。武器を生み出す金髪の男。複製を作り出し続けるスキンヘッドの男。女の子のような少年。

 そして隊長格の男が一人でどこかに向かった。

 というのだ。


「先ほど、私達が見たスキルは精製、模倣、誘惑と忍法とやらの四つでした。話と照らし合わせれば、一階に残ったのは、おそらく戦闘力の高くない、支援系のスキルでしょう」

 リシャクの報告を参考にシャノンが状況を考察する。

「隊長格の男とやらがドウマだとすれば、単独行動はおそらくおれを狙ってのものだ。じきにここに来るだろう」

 サイガも考察を述べる。

「となれば外に向かった四人は、ナルたちを討ちに向かったということでしょうね。確か、外には四凶の二人もいるはず・・・そっちは任せても大丈夫でしょう」

 シャノンはどこか他人事の様な物言いだったが、そこには信頼と放任が入り混じっているのが感じて取れた。


「一階に残った連中は、戦闘は得意じゃなさそうな面子だな。こいつらを守る連中がいないなら、今が狙い時だ。やるか?」

 リシャクが提案すると、数秒考えて、シャノンをはじめエィカとミコが同意した。

「でも、敵の隊長はサイガを狙ってるかもしれないんだろ?皆でいくわけには・・・」

 セナが不安を口にする。

「だったら私が残るぞ。セナも残れ。二人であいつをやっつけるぞ」

「は、はい!」

 元気良くミコが名乗りを上げた。セナの不安を吹き飛ばすほどの、はつらつとした笑顔だった。

 

 方針が決定すると、全員は一斉に動き出した。

 シャノン、エィカ、リシャクは一階部の支援系スキルの異界人の討伐に向かい。セナとミコはいずれ襲来するであろうドウマからサイガを守るために護衛に着いた。

「すまない。この体が動かないばかりに・・・」

 サイガは己の不甲斐なさを悔やんだが、セナは頭に手を置くと、再び安心するよう促した。


 ◆


 同じ時刻、一角楼の外、キャラバン隊駐留地跡に違和感のある空間があった。

 その違和感はきわめて微細なもので、巧みに景色に偽装同化させられ、注意深く、探索の魔法などを使わない限り気付けないほどのものだった。

 空間の裏側から声が聞こえた。

「リン、魔力は回復したか?なにやら、一角楼の内部で動きがあったようだ。我々もそろそろ動かないと出遅れることになるぞ」

 声の正体は、六姫聖の一人『美の化身』ナル・ユリシーズだった。

 ナルの後ろから、名を呼ばれたリンが応える。

「ええ、もう大丈夫。一時間ゆっくり休んだおかげで、マスヨスに吸われた魔力は回復したわ。もう全快よ」


 空間を偽装していたのはナルの氷魔法で、氷に幻を映し出し偽装する『氷鏡蜃気楼』(ひかがみしんきろう)だった。

 聖錨マスヨスの『戦士を戦地へと導き繋ぎ止める』機能によって一角楼に導かれたリンは、その際に魔力を根こそぎ吸い取られていた。

 リンの魔力は、六姫聖内でミコの次に少ない。そのため、わずかの消費で底をついてしまうのだ。しかしその反面、一時間程度の休憩で魔力は上限まで回復する。

 ナルは、リンの魔力が回復するまでの時間、『氷鏡蜃気楼』でリンを守っていたのだ。


「では、氷鏡蜃気楼を解くぞ」

 ナルが魔法を解除すると、違和感のある空間に亀裂が入り、砕けて粒となって消えた。

 氷の粒が陽光を乱反射し、ナルの美しい姿を一層際立たせる。その姿は絵画に描かれる女神のごとき神々しさがあった。

 輝く粒を全身に浴びながら、二人は戦いへ向けて歩き出した。

お読み頂き、ありがとうございます。

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