第170話 「殺意は狂気の色。炸裂するドウマの殺戮忍法」(バトル)
「俺の強さがわかるなんてすごいね。お嬢ちゃん」
一階のエントランスから二階まで、一角楼中央の大階段を瞬く間に駆け上がって六姫聖のミコの前に接近したドウマは、己の実力を遠方から瞬時に見抜いたミコの慧眼を笑顔でたたえた。
その不気味な笑顔に、ミコは全身の毛がおぞましさで逆立った。
「な、なんだおまえ。気持ち悪い・・・」
ミコの野生の部分がけたたましい警告音を鳴らしていた。「この男は危険だ」と。
「まぁそう嫌わないでよ。戦いもせずに俺の実力を見抜いたのは君が始めてだ。だからさ・・・一番に殺してあげるよ」
ドウマは笑顔のまま、掌に隠し持ったカランビットナイフをミコの喉に目掛けて走らせた。
「に゛ゃあ゛!」
濁った鳴き声と共に、ミコはナイフに瞬時に反応した。
両手に爪を装着すると、ナイフを弾き垂直に跳躍して緊急避難。
空中で身を翻すと左の蹴りを赤い忍び装束の不気味な男、ドウマに放つ。
ドウマもミコのように身を翻して蹴りを躱した。その動きは鮮やかで洗練されていた。
同じ場所にドウマは着地した。
「やるねぇ、体術は俺と同レベルか、ちょっと上かな?まるで猫みたいな動きだね。それなら・・・『雷遁 猫鳴器』」
ドウマの忍法が発動した。それは所謂ねこだましだった。
両の掌が接触すると同時に、ミコの全身を一瞬の電気が走る。
「ぎに゛ゃっ!!」
短い悲鳴を上げてミコがのけぞった。全身から煙が昇り、直立のまま微動だにしない。
「どうだい?さすがに電気は避けられないだろう?しかも即死レベルの電流だ。君とはもうちょっと遊びたかったけど、仕事が優先だからね」
こげた匂いを漂わせたまま痙攣を続けるミコを尻目に、ドウマはシャノンに視線と指を向ける。
「次は君だ。そしてそのあとは、暴風と美の化身だ。六姫聖には全員死んでもらうよ」
「リンとナル?やっぱり、さっきの大きな音はあの二人ね。魔力の感じが似ていると思ったら・・・」
「ま、解ったところで会うことは無いけどね。とういわけで、じゃ、さよなら」
言い終わる前に、ドウマは忍者刀を抜き放ち一瞬で刃をシャノンの喉元に近づけた。
格闘を得意としないシャノンはその一撃に反応できなかった。
刃がその白い肌の喉を真一文字に切り裂く。と、ドウマは確信していたが、突如、必殺の忍者刀を黒い爪が弾き返した。
鋭い金属音が一角楼に響く。
黒い爪はミコの爪だった。
「みゃ・・・み゛ゃああああああ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
六姫聖の一人『超獣』のミコ・ミコは魔力の量が極めて低い。そのため、戦闘はもっぱら異常なまでの高い身体能力と篭手、具足を用いた打撃。そしてそこに備わる爪の斬撃となる。
ミコが手足に装着するのは、『聖具 獣撫』。猛獣の爪は撫でるだけでも獲物を屠るほどの威力があることから付けられた名だ。
その爪は、人間数十人程度ならあっさりと細切れにしてしまうほどの切れ味だ。
忍者刀と獣撫の威力は互角だった。
ドウマの刀はミコの爪に弾かれ、二人は同じだけのけぞった。
「おっとぉ、『猫鳴器』くらって生きてたの?小柄のわりにはとんでもなくタフだね。さすが六姫聖」
シャノンへの攻撃を防いだが、ミコのダメージは深刻だった。
ミコの魔法への耐性は消して低いほうではないが、ドウマのチートスキル『忍法』は、瞬時に上級魔法以上の威力の技を放つ。
ミコの体を駆け抜けた電撃はドウマの言うとおり、状況次第では大型の魔獣ですら即死するものだった。
ミコは本能だけで反応し、シャノンへの刃を食い止めたのだ。
「み・・・み゛ゃあ・・・み゛ぃぃや゛ぁあああああああ!」
ミコが振り絞るように絶叫を上げた。
右腕を大きく振り上げると、全力で振り下ろし、ドウマの足場となっている階段を切断した。
ドウマと共に階段が崩れ落ちる。
「おわっととと・・・無茶するねぇ」
足場を失いながらも、ドウマは余裕を乱さない。冷静に次の足場を探し、二階へ飛び移ろうとする。
だがそこで、ドウマの視界を無数の小さい影が覆った。
蠱毒の主リシャクが地獄の毒蛾、『メクロガ』を吐き出し、ドウマを襲わせたのだ。
メクロガはドウマの全身に取り付き動きを封じる。
「な、なんだこの虫ども!?気持ち悪いな、消えろ!『火遁 火達磨毬』!」
ドウマの体が一瞬だけ、高熱の大火級へと変化した。周囲の蛾が炭となって落ちる。
しかし、リシャクが稼いだ時間はその一瞬で充分だった。ドウマは次の足場を見つけることなく一階へと落ちていった。
「あーあ。まぁいっか。どうせ逃げ場は無いんだ、じっくり追いつめさせてもらうよ」
ドウマは余裕の笑みを浮かべたまま着地すると、落下する階段を避けて入り口の仲間の下へ帰還した。
◆
「な、なんだ、さっきの振動は?大分前から何度も爆発のような音が聞こえてくるが、まさか敵の攻撃か?」
療養のために横になっているベッドの上で、サイガは横で看病するセナに尋ねた。
セナは手を握ったままサイガを見つめる。
「わかんないけど、さっき大きな音がしてから、一角楼自体が随分あわただしいね。私、ちょっと様子を見てくるよ」
そういうと、セナは部屋を出て六姫聖のシャノン・ブルーノの元へ向かった。事態に異変があれば、冒険者ギルドの職員などは姫直下の六姫聖を頼ると考えたからだ。
「セナさん、敵襲です!サイガさんを連れて大広間に向かってください!」
シャノンを探し廊下を進むセナの正面から、動転した様子のエィカが現れ声をかけた。
息を乱すエィカにセナが駆け寄って体を支える。
「エィカ。敵襲ってさっきの振動かい?一体何があったんだい?」
「エントランス、に、奇妙な人たちがやってきて・・・それで、サイガさんみたいな、強い人に・・・ミコ様が・・・」
呼吸を整えつつ状況を伝えようとするため、エィカの言葉は聞き取りづらい。
「わ、わかった。わかったから、落ち着いておくれよ。とにかく、大広間にサイガを連れて行けばいいんだね」
「ええ・・・そこに、皆さんもいます」
「じゃあ、サイガを連れてくるよ。エィカは先に行ってておくれよ。なんだか、あんたのほうが心配になるよ」
セナはエィカは大広間に向かわせると、部屋へと戻った。
「・・・セナ」
「なんだい?」
「大広間に向かうのは解ったんだが、なにも前に抱えなくてもいいだろう。背中ではダメなのか?」
「仕方ないだろ?体が動かせないんだから、私が抱えあげたほうが早いんだ。今は身をゆだねな」
「むぅ・・・」
サイガは黙った。
『蹂』状態の反動で体の動かないサイガは、セナの腕に抱えられた、いわゆるお姫様抱っこの状態で大広間に向かっていた。
その姿に、サイガは男としての情けなさを感じずにはいられず、思わず位置の変更を申し出たのだ。
しかしそれは、セナに一蹴されてしまった。
「つまんないこと気にしてる場合じゃないだろ、あんた体が動かないからって、ちょっと繊細になってるよ」
「そ、そうか。すまない」
セナはやれやれといった顔で大広間に走った。
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