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第169話 「激震の一角楼。特務部隊進撃す」(ストーリー)

 異界人特務部隊、テンタのチートスキル『次元封印アンダーザドーム』によって、一角楼は完全に別次元に分断された。

 しかしその直前、聖錨マスヨスに引かれた六姫聖のリン・スノウが投石のように到着し、それに続いてナル・ユリシーズが舞い降りた。


 ◆


 一角楼一階の大エントランスには、上階に住む住人達が大挙して押し寄せていた。

 先日の冒険者の襲撃に加え、先刻のジョンブルジョンのミサイルの着弾。さらにテンタのスキルによる次元封印の帳と、立て続けに起こった異変に、住人たちの精神は限界を迎えていた。

 住人達は、訪れた異変にこれまで悠長に構えていた。その反動で、恐怖心が一度に押し寄せ、暴徒のような行動を起こさせていた。

「おい!一体これはどういうことなんだよ!?」

「なんで急に暗くなったんだ!」

「さっきの爆発はなに?また盗賊なの?いいかげんにして!」


 エントランスに押し寄せる住人たちの剣幕に、一角楼の警備隊の面々は対応に手をこまねいていた。

 その光景を、一角楼中央を一階から最上階の五階まで突き抜ける大階段の二階部分から、六姫聖のシャノン・ブルーが静かに見つめていた。その隣には、同じく六姫聖のミコ・ミコ、エルフのエィカ、蠱毒の主リシャクの姿がある。

「シャノン様、あの方達、魔法で落ち着かせることは出来ないのですか?あんなに混乱したままでは、どうなることか・・・」

 不安げな声で、エィカはシャノンに尋ねた。回復と補助魔法を極めたシャノンであれば、昂った人々の気を鎮める術を施せるのではないかと考えたからだ。

「ええ、そうね。一角楼を包んだ暗闇が敵の攻撃なら、この混乱に乗じて何か仕掛けてくるはず。不安の種は取り払っておいたほうがいいわ」

 そう言うと、シャノンは女神の装飾を施した銀の杖を取り出し、鎮静のための魔法の詠唱を開始した。だが、それは突如として破られた。


 ◆


「はいはーい、みなさーん。注目、ちゅうもーく」

 その声は、よく響く声だった。透き通ってはいるが、甲高く、どこか不快な声だった。

 声の方向に全員の視線が集まる。その先は一角楼の入り口。そこにいたのは、異界人特務部隊面々であり、発言者はチートスキル『万物誘惑(ラブジャンキー)』のクジャクだった。

 クジャクは視線を一身に浴びると、全員を品定めするように一瞥する。


「な、なんだあの女?」

「下品な格好、痴女じゃない?」

 クジャクの姿を見たものは、口々にその格好に感想を漏らす。

 それもそのはずで、クジャクの服装は体の前後に布を一枚ずつあてがう程度の薄手のドレスだったのだ。

 その姿に男たちは鼻の下を伸ばし、女たちは嫌悪の態度を示す。


「いま、私たちは人を探していまーす。なので、いまから皆さんには、それに協力してもらいまぁす。わかりましたぁ?」

 クジャクのとぼけた口調に、住人たちは一瞬、考えることを停止してしまっていたが、数秒後、我に返った一人の青年がクジャクに積めよった。

「おい、意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇ!おかしな真似しやがって、お前らいったいなんのつもりだ!」

 いまにも噛みつきそうな勢いの青年。しかしクジャクは涼しい顔でそれを見る。

 クジャクがとろけた表情で呟いた。

「いいわぁ、血気にはやってる若い男。美味しそう…じゅる」

 ヨダレをすする音とともに、クジャクは前に出て男と唇を重ねた。

 後方の特務部隊の面々は苦々しい顔でそれを見ていた。


 じゅるじゅると、青年と唇を重ねたクジャクはその舌を舌に絡ませる。

 日本人の舌の長さは約七センチ。だが、クジャクは十五センチ以上の長さの舌を持ち、それを口腔内に押し込むと舌に絡ませ躍らせた。

 青年は、未体験の快楽に全身を震わせ、恍惚の表情でとろけた声を漏らす。


「うぇぇ、相変わらずすごい光景だね。大人のキスって、あんな感じなの?だったら僕やだな」

 思わず身を背けたくなるようなクジャクの痴態に、少年のテンタは、大人というものに絶望していた。

「安心しろ、あんなおぞましいのはクジャクだけだ。ていうか、あんなもん見なくていい」

 そう言うと、シュドーはテンタの頭に手を置いて軽く撫でた。


「ぷはぁっ、ああ美味しかった。若い男はやっぱりいいわね。お腹の奥から疼いちゃったわ」

 ひとしきり舌を絡め終えると、クジャクは口を放した。

 青年は腰が砕けその場に崩れ落ちる。

「あ・・・ああ・・・うひぃ・・・」

 呆けた顔で空を見つめる青年。数秒置いて、青年は呆けた顔のまま立ち上がった。


「はい、魅了チャーム完了。しっかり私のために働いてね」

「あう・・・ああ・・・あう」

 声にならない返事を、青年は返す。そこに人格は存在していない。

 

 クジャクのチートスキルは『万物誘惑ラブジャンキー』。自信の体液を付着させた対象すべてを魅了し、己の支配下に置くスキルだ。

 発動の条件は体液の付着だが、その種類は分泌、排泄を問わない。つまり、青年と舌を絡めたのはクジャク自身の癖でしかなかった。

「おい、クジャク。いちいちそんな悪趣味な方法をとる必要は無いだろ。さっさと他の連中もやってしまえ」

「はーい。じゃあいくわよぉ。私の愛に溢れたラブジュース、たっぷり味わいなさい」

 クジャクは腰に備えていたボトルを手にとると、その中の液体を口いっぱいに含み、しっかり唾液と絡めるとエントランスに集まっていた全ての住人達に向けて一気に噴霧した。

 その行為に、住人達は思わず悲鳴を上げる。

 クジャクのスキルを知る特務部隊の面々は、あらかじめ身を避けていた。

 スキルの影響を避けることもそうだが、なにより不衛生だからだ。


 唾液の溶け込んだ液体を浴びた住人たちの目から光が消えた。

 先ほどの青年と同じく、呆けた顔で立ち尽くしている。

「はい隊長、全員魅了できたわ。次はどうするの?」

 一仕事終えたクジャクがドウマの腕に飛びついた。胸を当ててくる。

「ご苦労、クジャク」

 ドウマがクジャクをねぎらい頬を撫でた。顔がとろける。

「シュドー、威力が高い武器を精製してくれ。それをムクが複製だ。住人達に与えてやれ」

「あいよ!」

「うん・・・」

 シュドーとムクが返事をして作業にかかった。


「武器を与えるってことは、住人達を使って狩りでもするつもり?悪趣味だね」

 ドウマにアラシロが声をかけた。十代後半のアラシロはなにかにつけ一言付け足したがるのだ。

 そんな一言多いアラシロを、ドウマは余裕をもってあしらう。

「ふふ、せっかくの面白い状況なんだ、楽しませてもらおうじゃないか。追うものと追われるものたち、命がけの最高のショーになりそうじゃないか」

 アラシロから特務部隊の面々に、ドウマは順々に目線を移す。

 八人目のホウエンに声をかけたところで、ドウマは下を向いた。

 静寂が訪れる。不気味な空気が流れた。

「なぁ、君達もそう思うだろ!?」

 次に口を開いたとき、ドウマの顔は、上階で様子を見ていたシャノンたちに向けられた。

 見抜かれていたのだ。

 言葉にならない殺気が波動となって四人に届いた。


 ◆


「みんな逃げろ!あいつ、すごく強いぞ!」

 ドウマの危険性を、ミコは野性の勘で理解し警告を発した。

 直後、一角楼中央の大階段を一つの影が直進してくる。それは数秒の出来事だった。

 影は、四人の前で止まった。それはドウマだった。

「やぁ、君達はサイガの仲間だね。サイガはどこか教えてくれる?それとも、体に直接聞いたほうが早いかな?」

 赤い唇を歪ませて、ドウマはおぞましい微笑を浮かべた。



イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。


クジャク 『万物誘惑(ラブジャンキー)

挿絵(By みてみん)


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