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第168話 「神を滅する聖火‐再び」(バトル)

 地中から飛び出した鯨が、その巨体を宙に舞わせる。

 超化したマミカが召喚した鯨型の神『腐地魔神グラボイゾン』は悪しき信仰を集める邪神だ。

 太古の昔、グラボイゾンは海を統べる神の使いだった。

 しかし、永い時の中で海洋の生物たちの頂点にいたグラボイゾンは増長し、神への反逆の意思を抱いた。

 海の魔物を引きつれ天上へと迫ったグラボイゾンは、天の雷に討たれ地に落ちた。

 地に落ちた先で、グラボイゾンは焼け爛れた醜悪な姿から悪しき民たちの信仰の対象となり、『憎悪と反逆の神』と呼ばれ、長い間崇拝され続け、遂には邪神としての力を身につけた。

 こうして『腐地魔神グラボイゾン』は誕生した。


「あはっ、あはっ、あははははははっ!すごいすごーい!こいつすごい力じゃない!私の中にも力が流れ込んでくる!これが魔力なのね?あはははは、神の力なのね?いける、殺せるわ!オバさん、ぶっ殺してあげるわぁぁぁぁぁ!」

 グラボイゾンの背にまたがり、狂ったように声を上げるマミカ。腐地魔神グラボイゾンの魔力はその邪悪性をもって瘴気と一体化しており、主であるマミカの体と精神を侵蝕していた。


「あの娘、壊れ始めてるじゃない。神の使役なんて、器以上の無茶な真似するからよ。もぅ、ばか!」

 呆れながらも、アマテラスフォームのメイはマミカを邪神から救うために飛翔した。

 メイの最強形態アマテラスフォームは、慈愛の心によって発動する形態。そのため、大敵といえども滅するよりも救うことを優先に考えるのだ。


 大空を泳ぐグラボイゾンの胴体から腕が生えた。腹側と背側に二本ずつの計四本。生え終わると、感触を確かめるように掌を開閉する。

「うげぇ、気持ち悪。鯨の体に人の腕って、どんな構造よ!?」

「あひゃひゃひゃひゃひゃ、腕生えたーー。きもーい。ひゃひゃひゃひゃ、やっちゃえー!」

 四本の腕の掌に瘴気の塊が発生した。続いて、硬質の口が上下に開き、口腔内にも瘴気の球が発生した。口と掌の瘴気が線で繋がる。

 グラボイゾンのそのあまりの魔力の量に大気が振動を始めた。迸る魔力と瘴気が次元の境界線を歪ませていく。


「な、なんて魔力・・・。これ、受け止めて消さないと、余波でも漏らすのはやばいわ」

 異常なまでの魔力と瘴気に、メイの使命感は燃え上がった。もてる魔力の全てを注いで、発動できる限りのすべての攻撃・防御魔法を一斉に発動させる。

 聖なる炎の壁『カカウォール』。

 浄化の聖風『ブリギッドブレス』。

 命を守る転生の衣『フェニックスヴェール』。

 八枚の灼熱の斬撃円盤『プロミネンスソーサー』。

 神すらも焼きつくす灼熱の拳『ゴッドフィスト』。

 さらに魔力を限界まで引き出す最終奥義『カミヨノハゴロモ』を纏う。

 事前に発動可能な魔法を惜しみなく展開した。


 瘴気が束となり、グラボイゾンの口から放たれた。

 『腐気怨砲ふきおんほうシュリムトンビーム』。触れた部位に、破壊のみならず腐敗をもたらす悪質な攻撃だ。攻撃の触れた箇所は未来永劫回復することはなく、生物が受けたなら体は腐り死を選ぶしかない。

 黒紫の波動がメイを襲う。

 メイは三重のカカウォールでビームを中和。さらにブリギッドブレスで包み、弱ったところをゴッドフィストで正面から殴って消滅させた。


 グラボイゾンの大きな口の奥が蠢いた。

 喉奥から、無数の触手が現れ、踊るようにメイに襲い掛かる。

「触手なんて、神のくせに三下みたいな攻撃するんじゃないわよ!切り刻め、ソーサー!」

 蠢く触手を、灼熱の円盤プロミネンスソーサーが乱れ舞い細切れにしていく。

 散り散りとなった瘴気を含む肉片と飛び散る血液を、背後の日輪から照射された浄化の光が焼き、消滅させた。


「その汚い口を閉じろ!ゴッドフィスト・ラッシュ!」

 巨大な炎の拳がグラボイゾンの顎を叩いた。硬質の頭部が揺れ、大きくのけぞる。

「今の私さぁ、全力の本気だからさぁ、消滅するまで拳叩き込むからぁぁぁぁああああ!」

 右、左、右、左と灼熱の巨大な拳が休みなく醜悪な鯨を殴り続ける。その威力は、一撃一撃が千手タイタンを爆殺させた爆発に匹敵していた。


 数百発の拳を受け続け、グラボイゾンは次第にその動きが鈍り始めた。

「きゃああああ!ちょっとしっかりしなさいよ。神様のクセに情けないわよ。一方的にやられてるじゃない!」

 揺れる巨体にしがみつきながら、マミカが絶叫する。

「ほら、力を貸してあげるからもっとがんばりなさい!」

 マミカがグラボイゾンの体に手を添えた。巨体に魔法陣が発生し、召喚された『寄生魔蟲きせいまちゅう』がその体に穴を開けて潜り込む。

 『寄生魔蟲きせいまちゅう』は魔物に取り付きその力を強化する改造生物だ。マミカは超化したスキルで寄生魔蟲を進化させ、神すらもその対象としたのだ。


 グラボイゾンが大きく身をうねらせ、空をのたうち回り始めた。

 体内で魔蟲が活発に動き回り、強制的に吸収強化を促しているのだ。

「役に立たないならさぁ、こうやって改造してあげるからぁ!もっと頑張りなよぉ!ほら、ほら、ほらぁあああ!」

 狂ったように声を張り上げて、マミカはグラボイゾンの背を叩く。


 体内に潜り込んだ魔蟲がその真価を発揮した。

 内部からグラボイゾンの体を作り変えると、その姿に改造を施した。

 鯨型の体に二本の太い足が生えた。さらに全身に黒く汚れた、悪臭を放つ毛が生い茂り頭以外を埋め尽くす。

 硬質の頭が開いた。嘴のような上下の頭部に縦の亀裂が走り、花びらのように四方に開く形に変形していた。

 四方に開いた頭部の中央に肉塊が生えた。さらに肉塊から目玉が一つ出現した。そして肉塊を触手が取り囲む。

 腐地魔神グラボイゾンは邪神から醜悪な怪物へとその姿を変貌させた。


「な、なによこれ、気持ち悪いわね。邪神とはいえ、一応神様をこんな姿にしちゃうなんて、あんたばち当たりもいいところね」

 変わり果てはグラボイゾンの姿に、メイは同情の意思を示す。

 一方、グラボイゾンは変貌の影響か、四本の腕で頭部を押さえ苦しみもがいていた。

「ちょっと、せっかく強化してあげたんだから、しっかりしなさいよ!はやくやっちゃいなさい。って・・・きゃああああ!」

 マミカの叱責は耳に届かず、グラボイゾンが浮遊を維持できずに地上に落下した。

 轟音と激震が辺りに響き、周辺の丘があまりの振動で崩れる。


 グラボイゾンの重量と落下の勢いに耐え切れず、一角楼周辺の地面には深く大きな亀裂が走っていた。 

 亀裂の中央に出来たクレーターに神から醜悪な化け物へと姿を変えたグラボイゾンが横たわる。

「おいこらぁ、なに寝てるの?起きなさいよ。起きなさいよ。わたしがぁあ、せっかく強化してあげたってのにぃぃぃ!きぃぃぃぃ!」

 金切り声をあげながら、発狂したマミカがグラボイゾンの背を殴り続ける。


 暴れるマミカを見下ろしながら、メイが降下してきた。

「あんたいい加減にしなさいよね。いくら召喚師だからって、呼び出した魔物を好き勝手に扱いすぎよ。もうやめなさい」

「う、う、うるさい!うるさい!私が呼んだ子をどうしようと私の勝手でしょ?魔物だろうが、神だろうが、私のスキルには逆らえないのよ!さからえないのよ!説教するなよぉおおお!」

 大きく目を見開き、感情というよりも狂気の様相でマミカは乱れる。

「なぁ、動けよ!おまえよ!動けよ!バカヤロウ!ああああああ!」

 最早正気ではないマミカは、何度も悪臭を放つ毛に覆われた背を殴り続ける。


「この娘、もうだめだ・・・壊れちゃってる・・・仕方ない、気絶させて・・・!?」

 マミカの様子に説得は不可能と判断したメイが、その意識を奪うためにマミカに向けて右手をかざした。

 そのとき、グラボイゾンに異変が生じた。

 体を覆う体毛が鳥肌のように逆立ち、マミカを包んだ。


「なによこれ?毛が、まとわりついて・・・ひぃぃぃ!」

 瞬く間に、マミカは体毛に巻かれた。全身を覆われ、身動きがとれず毛の塊となる。

「ほら、言わんこっちゃない。手に余ってるのよ!待ってなさい、今助けるから。いけ、ソーサー!」

 炎の円盤が舞い、マミカを救うために毛の塊に切りかかる。が、マミカの体は円盤が到達する直前で邪神の体の中に沈んだ。

「な・・・消えた?まさか、吸収されたの?」

 メイの予想は的中していた。マミカは暴走したグラボイゾンによって、主でありながら養分とされてしまったのだ。


 地面に横たわり、沈黙を守っていた醜悪な魔物と化したグラボイゾンが動き出した。

 手をつき、体を起こすと、四片の頭部を開き地を揺るがす咆哮を発する。

「グヴォオオオオオオオオオオオオオ!」

 耳を塞がねば、鼓膜が耐え切れないほどの咆哮。地震の様に響き渡る声に、メイは思わずたじろいだ。

「うるっさぁ!あの娘は自業自得だけど、これ以上被害が出る前にさっさと始末をつけあげるわ!さあ、くらいなさい!」

 メイが燃え盛る両手を、手首を合わせた形でグラボイゾンに向けた。


「ゴッドハンド・ラー・キャノ・・・!」

 決着をつけんと、必殺の一撃を放とうとしたメイが、何かに気付いて発動を止めた。

「な、なによ・・・それ・・・」

 メイは言葉を失った。その目に映ったのは、グラボイゾン口腔内の肉塊が形を変え、マミカの顔になっていたものだったのだ。

「まさか・・・吸収したあの娘?そんな・・・こうなったらもう・・・」 


 マミカは明らかに一体化していた。それは、肉体のみならず魂までも取り込まれたということが一目瞭然であるほど、マミカは肉塊と同化しグラボイゾンの一部と化していた。

「うう・・・あう・・・あ・・・ああ・・・たす、け・・・」

 意識が無いであろうマミカの顔から声が聞こえた。悲哀に満ちた声だったが、メイはその声を聞いて怒りに燃えた。


「ふっっざけんじゃないわよ!解ってんのよ、魔物に吸収された人間が、意思なんて保てないことを!もう戻れる可能性なんてないってことも!その娘の声だって、私を油断させるための姑息な手段だってことも!」

 マミカの末路は自業自得のものだったが、それでも命を利用し弄ぶ行為に、メイは怒りを禁じえない。

 怒りは炎を昂らせ、これまでで最大の燃え上がりを見せた。


 メイの炎の拳が膨れ上がり、巨大化した。

 それは数倍どころではなく、何十倍もの大きさへと変わっていく。

「これで終わらせる!ゴッドハンド・ラー・グラップ!」

 炎の両手が醜悪な汚毛の魔獣を掴み上げた。

 あまりの熱気と圧力に、グラボイゾンだった魔獣は抵抗しもがくが、その巨体をもってしても両手は微動だにしない。

 メイが両手を天に向けた。それに従い、炎の両手は魔獣を挟み込んだまま、上空へと浮揚していく。


 上空に浮かび上がった炎塊をメイは穏やかな目で見上げた。

「こんな言い方したくないけど、あんたさ、命を軽く見すぎたんだよ。召喚術で好き勝手呼び出せるからって、意思も心も無視して道具みたいに扱ってさ・・・」

 メイは静かに、ぽつりぽつりと呟く。その目には慈愛の光が宿る。

「これは報い。弄んだ命の分だけ、あんたに返ってきたんだ。だからさ、せめて最後は私が終わらせてあげる。私だけでもあんたの贖罪に付き合うから・・・」


 上空の炎が強く輝きだした。

「さよなら・・・ゴッドハンド・ゼットパニッシュ!」

 炎塊の中央から、強い光が漏れ出した。それはまるで新たな太陽が誕生したかのような強い光。

 メイの慈愛の心は、魔炎の火力を最大のものへと導いた。その温度は一兆度。

 メイは、炎の掌の中という極めて限定的な箇所においてのみ、この世界のあらゆるものを焼き尽くす炎の力を身につけた。


 異界人としてルゼリオ王国に転移し、『魔物召喚師』のチートスキルを得たマミカは、命を蔑ろにするその力の果てに、魔物と一体化し、遂には魔物としてその命を燃やし尽くされた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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