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第166話 「燃え尽きる炎。さらばメイ・カルナック」(バトル)



 召喚された五体の神話級の魔物の三体を、赤子の手をひねるように下したメイは、残る二体も同様に始末をつけようとした。

 しかし、残る千手タイタンとヘルクラウドは同じ神話級と言えども、その格が違っていた。


 千手タイタンは巨人族でありながら敏捷性に優れ、メイの炎を躱しながらも反撃を怠らない。


 ヘルクラウドは、雲という自在に変化する体を活かし、無差別な広範囲の毒攻撃を仕掛ける。

 その体はメイの炎がいかに強力だろうが、焼かれる前に霧散し、再び終結し毒殺を狙い巻き付いてくる。


 技巧と変則。二種の攻撃体勢はメイから魔力ではなく体力を奪いつつあった。

「はぁ、はぁ、はぁ。こいつら、すごい戦いづらい・・・このままじゃ、スタミナ切れで動けなくなるかも」

 呼吸も荒く、メイは肩で息をする。

 魔力の勝負であれば無限に戦い続ける自信はあるのだが、体力に関してメイはミコやリンに比べ大きく劣る。

 最初に召喚された魔物の群れから数えれば、メイは休憩無しで一時間以上戦い続けていたのだ。

 その消耗は、魔法での飛行をやめ、地に足をついた瞬間、膝から崩れ落ちるほどのものだった。


 ヘルクラウドがメイの下方に広がった。上方に狙いを定めると、メイの全身を包み込まんと上昇する。

「近寄るんじゃないわよ、カカウォール!」

 炎の壁カカウォールが展開され、ヘルクラウドの侵攻を妨げる。

 壁は広域にわたりメイを守るが、毒の雲はそれよりもさらに広範囲に延び、壁の縁を乗り越えるとメイに向かってきた。


「しまっ・・・ぶはっ!」

 毒が顔に及び、包み込む。

 メイは咄嗟に息を止めたが、進入路を問わない毒の雲は更に細かい霧状となって毛穴や鼻の粘膜から侵入した。

「あ、あ・・・ぐぅ・・・」

 毒は瞬時に全身を巡った。その毒性は体力をさらに奪い視界を乱す。

「や、やばい・・・この毒・・・は、早く炎で浄化しないと・・・」

 アマテラスフォームは炎と聖の属性を併せ持つ。そのため解毒の手段も存在する。だが、毒の回りは速く、解毒術の発動を上回っていた。

 メイは必死に解毒術の発動を試みるが、震える手と乱れる脳では、それもままならない。

「ダメ、意識が薄れて・・・発動できな・・・!!」


 かすむ視界の端に、巨大な人影が現れた。

 千手タイタンが弱体化したメイにトドメを刺すために攻撃を仕掛けてきたのだ。

「しまっ・・・」

 巨人の百本の腕が束になって破壊の一撃を放つ。

 メイは下方に展開していたカカウォールを移動させ、直前で拳を防ぐも、弱体化した状態の壁は容易く打ち破られ、メイは体に拳を浴びせられ、はるか下方の地面に叩きつけられた。


 直前までの炎の魔法の影響により荒れきっていた地表は脆く、メイの墜落した衝撃で激しい土煙と灰が舞い上がっていた。 

 日光を遮る幕を取り払うように、降下してきたヘルクラウドが風を吹かせ土煙を吹き飛ばした。

 同じく着地した千手タイタンが、その腕で一斉に瓦礫と土砂を掴んで掘り返し、埋もれていたメイを掴みあげた。

 千手タイタンの正面には主腕と呼ばれる、人間と同じ箇所の腕がある。その主腕でメイを掴んでいた。


「うう・・・く・・・」

 掴まれた手の中で、メイはわずかに呻く。

 魔炎を拘束する巨人の足下に、その主であるマミカが満面の笑みで駆け寄ってきた。

「やったぁ!お手柄よセンちゃん。さ、そのオバさんをこっちに持ってきて。こっちで殺してあげる」


 マミカに命じられ、千手タイタンは膝をつき手中の魔炎を主に捧げた。その際、一瞬だけ掌に力を込め、メイの全身の骨を砕いた。

「ぎゃああああ!」

 悲鳴が上がった。広げられた掌の上で、メイは虫の息でうなだれていた。


「う、うう・・・」

 追いつめられ弱りきった体からは、先ほどまで暴れていた力強さは全く感じられない。

 あとは死を待つのみといった状態だった。

「六姫聖倒したなんて、絶対一番手柄じゃん。隊長も喜ぶわよ」

 マミカが手をかざすと、新たな魔法陣が出現し、黒い翼を生やし銀の甲冑に身を包んだ魔物『闇騎士キュロ』が現れた。これもまた神話級の魔物だ。

「さ、やっちゃってキュロちゃん」

 命じられたキュロが息も絶え絶えなメイに歩み寄る。その手にはスピアが握られている。


 キュロがスピアを逆手に構えた。数秒の後、一気に腕を振り下ろし、メイのその豊かな胸を貫いた。

「ぐぁ!」

 断末魔は濁っていた。

 スピアは的確に心臓をしとめていたが、キュロは念入りに穂先で心臓をほじると死を確実のものとした。

 その間、メイの体は何度も激しく痙攣した。


 ◆


「やったぁ、死んだ。死んだ。散々暴れて殺しまくったにしては、あっけない最後だったわね」

 動かなくなったメイの下に、歓喜の声を上げながらマミカが近寄った。無邪気な仕草で、冷たくなった頬と胸を叩いて笑う。

「な、なんということだ・・・六姫聖が・・・魔炎メイ・カルナックが死んだというのか?そんな、バカな・・・」

 かつての敵とはいえ、その強さを良く知るジョンブルジョンとしては、にわかには信じがたい光景だった。その無念の結末に、見づらい遠方とはいえ目をそらしていた。


「死体はもって帰ったほうがいいのかな?それとも写真だけでいいかな?どうしよっかなー」

 強敵の死という戦果を得て、マミカははしゃぐ。

 そのとき、メイの死体に変化が起こったことにキュロが気付いた。主に呼びかける。

「ん?どうしたのキュロちゃん?え、死体が動いた?うそ、キモ!」


 訝しんだ顔で、マミカはメイの死体を覗き込んだ。その死を確認するために、再びその胸を手で弾く。

「んー、なにもないなぁ。ね、キュロちゃん、本当に・・・」

 そう配下の魔物に問いかけようとした瞬間、メイの体が風船のように肥大し、爆発した。


 強烈な爆発だった。全てを巻き込んで無に帰す、やけくそのような爆発。

 光が走った後に衝撃と音が追いつく爆発。

 遠方のジョンブルジョンからでも威力が理解できる爆発。

 その爆発に巻き込まれて、マミカは全身を焼かれた。

 死ぬことはなかったが、右半身と衣服を全て失い、ほぼ死んだも同然だった。


 千手タイタンは右の主腕を失った。頑強な巨人族の猛者といえど、その爆発に耐えることは出来なかった。

「グォオオオオオオオン」

 失った右腕の傷口を押さえながら、千手タイタンは悲鳴を上げる。痛みを発散するように体を振り回す。


「な、なんだ・・・何が起こったんだ?まさか、メイ・カルナックが命と引き換えに自爆したのか?」

 ジョンブルジョンは事態を呑みこめず、予想を巡らせその一つを口にした。

「なに言ってんのよ・・・そんなわけないじゃない」

「な、き、貴様、生きていたのか?」

 ジョンブルジョンに後ろから声をかけてきたのは、先ほど胸を突かれ殺されたはずのメイだった。

 メイは生きていたのだ。しかし、その姿は到底無事とは言いがたかった。心臓に穴こそないが、全身は出血と痛々しい打ち身の痕があるのだ。


「ジョンブルジョン、あんたなんでここにいるのよ?しかもなにその格好?遊んでるの?」

「やかましい、聞くな!それよりも貴様、一体、どうやって助かったのだ?」

「さっき殺されたのは私じゃないわ。私そっくりの分身を作り出す『スレイブブレイズ』で、限りなく精巧な偽者を作り出したの」

「分身だと?いつの間に・・・?」

「私が地面に叩きつけられて、土煙が上がったでしょ。あの時、瓦礫に埋もれたのと視界が遮られたのを利用して、分身を作っておいたの。そして狙い通り、あいつらは分身を私と間違えて距離を詰めた」

「そこを爆発でしとめたのか」

「そういうこと。つっ・・・ちょっと、やられすぎちゃった。ブリギットブレスで毒は浄化できたけど、影響がきつい・・・ちょっと休まないと」


 会話を終えると、メイは腰を下ろし大きく息を吐いた。回復のための炎魔法『不死鳥の慈血』を発動させ体を癒す。

 疲労に勝てず、メイはその場で横になった。

「お、おい、回復するのはいいが、魔物たちがほったらかしだぞ、いいのか?」

「召喚された魔物なら、召喚師が死んだなら、そのうち帰るわ」

「そうなのか?私は魔法や召喚術には疎いのでよくわからんが、そういうものなのだな」

「ところであんた、その格好は何よ?敵に捕まるにしても、捕まり方ってものがあるでしょ?なっさけない」

「仕方あるまい、敵の隊長の腕前がサイガに匹敵するほどの技巧だったのだ」

「え、サイガに匹敵?そんなやつがいるの?」

「ああそうだ。サイガと同じ技、同じ体術を使った。一角楼の中の連中にこれを教えてやらねば、被害甚大だぞ」

「そうね。じゃあ傷が治ったら、直ぐにでも一角楼に入る方法を考えましょ」


 メイが横になり、不得意な回復に魔力を集中させて五分が経過した頃、ジョンブルジョンはあることに気付いた。

「おい、メイ・カルナック。あの魔物たち、つっ立ったまま帰る気配がないぞ」

 その指摘どおり、魔物たちはマミカが爆発にまきこれて以降、微動だにしていなかった。

 ただその場に立ち尽くし、虚無の顔で空を見つめている。

 メイが身を起こして魔物を見る。傷は殆ど塞がっていた。

「そうね、何か変だわ。まさか・・・」

「あの女、まだ生きているのか?」


 一つの結論にいたり、二人は同時に視線を体の半分を失ったマミカに向けた。

 死んだと思っていたマミカはかろうじて生きていた。

 マミカは諦めていなかった。爆発により半分が失われた体と意識で、隊長ドウマに与えられた『超化翠』をその手に握っていた。

 メイが回復に注力していた五分は瀕死のマミカに充分な時間を与えていたのだ。

 「ちょ・・・超化」かすかな言葉が焼けた唇から発せられる。その直後、握られた超化翠から緑の光が走り、マミカの傷ついた全身を包む。

 緑の光は更に激しさを増した。

 マミカの重傷の傷が癒され、失われたはずの半身が再生されていく。

 超化翠はマミカのスキルを強化するのと同時に、回復のために開発された生贄の魔物『サクリファイスベビー』を召喚し、吸収することで傷を癒したのだ。

 『超化翠』によって、チートスキルは更なる次元へと『超化』した。

「オバさん、よくもやってくれたわね!借りは返すからかくごしなよ!」

 完治したマミカが、緑の光を身に纏いながら、高らかに勝利宣言をする。


「なんということだ、あの緑の石、とんでもない効果だぞ。どうするのだ、メイ・カルナック?」

「じょ、上等じゃない。だったら今度こそ、燃やし尽くしてあげるわ!」

 逆転した局面に、メイは再びアマテラスフォームを展開した。

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