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第164話 「無謀な女、その名はメイ・カルナック」(バトル)

 空中の魔法陣から飛び出した鳥系の魔物のかぎ爪により、メイは両腕をつかまれ、強制的に降下させられる。爪が腕に食い込み、血が滲み始める。

「なによこの魔物、邪魔すんじゃないわよ!」

 怒りと共にメイは全身から炎を噴出させた。一瞬で数千度に達する炎は魔物に死を実感させる前に炭にそして灰に変えた。

 空中で体を横に一回転させ、メイは灰となった魔物を振り払った。


「くっ、間に合わなかった・・・完全に一角楼が封じられてる・・・」

 魔物に進行を妨害された数秒で、メイは完全に外に取り残された。

 炎を用いて結界を破壊しようと試みるが、炎はそこに何もないかのように通過し、一角楼が目に見ることが出来るが別次元の存在になってしまったことをメイは理解した。

 

 手の届かない存在となってしまった一角楼への対処を考えあぐねているメイの上方で、空間が歪み始めた。

「え、なに?」

 上方を見上げたメイの目の前で、歪んだ空間が魔法陣へと形を変えた。

「魔法陣?まさか、攻撃魔法?」

 魔法陣から予想される展開を口にしたメイだったが、その予想は直ぐに否定された。

 そこから出現したのは攻撃魔法ではなく、兜をかぶった巨大な顔だった。


 巨大な顔が出た次は、巨大な手が魔法陣のふちを掴んだ。

 手に力を込めると、強引に全身を引きずり出す。

「グオオオオオオオオオ!」

 地を揺るがす咆哮と共に、魔法陣から巨人が現れた。さらに地面を鳴らし降り立った。

 身長は約百メートルほど。一角楼の三倍以上はある。

 『血闘士ブラディエイター』。血に染まる剣を持ち、その盾であらゆる攻撃を防ぐ魔界の剣闘士。

 単体でも火竜の群れを駆逐するほどの戦力を誇る上に、多数での集団戦もこなす上位の魔物だ。


「ブラディエイター?しかも、魔法陣から出てきたってことは、召喚されたってこと?こんな上位の魔物を?一体何者なの?」

 メイ達、六姫聖の面々は、異界人管理局長オーリンの謀反計画のことを知らない。そのため、オーリンによって差し向けられた異界人特務部隊に心当たりがないのだ。

「しょうがない。誰が呼んだか知らないけど、やってやるか!覚悟しなさい!」

 メイは大きく息を吸うと、戦闘に特化した形態『アグニフォーム』となった。


 ◆


「あ、あんな化け物を召喚できるとは・・・これがチートスキルなのか?」

 急変した事態に、取り残されたジョンブルジョンは、ドウマたちとは別行動をとることとなったマミカと共に、巻き添えを避けるために岩陰に隠れていた。

「そうよ。私のスキルは『魔物召喚師サモンクイン』。あらゆる魔物を召喚して、従えることが出来るスキルよ」

「あらゆる魔物だと?たかが人間の小娘にそんなことが出来るというのか?」

「それができるからチートなんじゃない。うらやましいでしょ?」

「のぼせるなよ。貴様らごときには過ぎた力だ。いずれ手痛い返しを喰らうぞ」

「はいはい。負け惜しみ負け惜しみ。さぁブラちゃん、そんなオバさんなんて、やっつけちゃえ!」

 ジョンブルジョンを軽くあしらうと、マミカはブラディエイターに視線を向けた。

 

 ◆


 塔のようなブラディエイターの剣が振り下ろされた。

 しかし巨人の動きは重く、メイは高い機動性で難なくそれを躱した。

 剣の外、巨人の右側に回りこんだメイは、その顔面に小さな炎の槍『スザクビーク』を連続で撃ち込んだ。

 顔の右半面に多数の炎の槍が刺さり、赤く染める。

 ブラディエイターは苦しみの雄たけびを上げて剣を狂い振るう。


「ほらほらどこ見てんの?わたしはこっちよ!」

 巨人の頭よりもはるか上方に回避し、メイは挑発をする。

 声につられ、顔を真上に向けて残された目で睨む巨人。

 そこには、燃え盛る炎の槍を持つ魔炎がいた。


 あまりにも強い炎を目の当たりにして、巨人はその命が危機にあることを悟った。顔は恐怖に引きつり、左手の盾を上空に向ける。

「無駄よ!そんなので防げるわけないでしょ!」

 メイは炎の槍を直下に投じた。

 炎の熱と力を凝縮させた炎槍『メギドスピア』の投擲は、頑強なはずの巨人の盾を易々と貫き、眉間、首、背骨、股間を一瞬で通り抜けた。

 両膝が地に着き、股からは血液が燃えながら流れ落ちる。


 体を頭頂部から股間に渡って貫かれるという、下級、中級程度、種類によっては上級であっても絶命必至の高熱の槍の一撃。

 しかし、頭抜けて強靭な肉体と、現れるだけで地を揺るがす圧倒的重量、質量の魔物は絶命することはなかった。

 空洞となった体に咆哮を響かせながら、巨人は再び立ち上がる。


「ええ!?アレで死なないの?さっすが上位種。こうなったら・・・」

 メイは目を閉じ精神を集中させた。

 一瞬、アグニフォームの炎が消え、再び燃え盛った。

 『アグニフォーム・ヴァジュラスタイル』。破壊力を優先させたアグニフォームを更に強化した殲滅特化スタイル。

「この状態って、辺りお構い無しに暴れまわっちゃうから使わないようにしてるんだけど、一角楼はこっちから接触できないし、商人たちの避難も終わってるみたいだから、何にも気にせず思いっきりやらせてもらうわ!」


 ヴァジュラスタイルはメイの言葉どおり、本人の制御を離れた殲滅行為にはしる。

 それは発動の瞬間から始まっており、メイの意識は既に破壊衝動に支配されていた。

「グォオオオオオオオ!いくぞおおおおお!くたばれえええええ!」

 闘争本能を具現化したかのようにメイの全身が炎に包まれる。さらに炎が右手に集約された。

 炎の塊と化した右腕がブラディエイターへと向けられた。

「ヴァジュラァァァァアア!バスタァァァアアアア!」

 炎の大砲が直下に放たれた。


 それはあまりの熱量に炎を凌駕した光の柱となり、ブラディエイターを柱の中に封じた。

 数秒後、光が消え去るとそこには何も残っていなかった。ブラディエイターは消滅した。

 ヴァジュラバスターの熱は数十万度に達するが、その範囲は光の柱の範囲に限定される。範囲を局所に絞ることで威力を比類なきものへと高めているのだ。


「はぁはぁはぁ・・・うぉおおおおおおおお!」

 巨大な敵を殲滅してなお、その内に燃え盛る炎は消えず、メイは暴走状態に突入した。

 頭の中は冷静なのだが、体が熱によって制御を失ったのだ。

 両手を広げると、その全ての指先から数千度に達する炎の球を大量に射出する。

 辺りは瞬く間に溶岩の海に変貌した。

「(あちゃー、やっぱりこうなっちゃったか。遠くを攻撃しだす前になんとかしなきゃ)」

 暴れる体と反して、その心中に冷静な自己を残したまま、メイは事態が悪化する前にヴァジュラスタイルを制御しようと試みる。

「(ほら、私、しっかりしなさい!この程度で我を失ってどうするの!)」


 ◆


「ちょっと、ちょっと、なに考えてんのよあのオバさん。滅茶苦茶すぎるわよ。地形変わっちゃうじゃない!」

 降り注ぐ火球と溶解する地面。

 溶岩の海と熱波から、マミカとジョンブルジョンは身を縮ませて防御の体制をとっていた。

「あの女はああいうものだ。とにかく後先を考えずに、己の魔力を振り回すのだ。この事態を収めるには、あいつを気絶させるしかないぞ」

「なによそれ、魔物よりも一番の害悪じゃないの!しょうがないな、こうなったら、私も滅茶苦茶やってやるわよ!」

 宣言すると、マミカは魔法陣を発動させた。

 暴走するメイの周辺に無数の魔法陣が出現する。そこからは、位の上下問わず、様々な魔物が現れた。

 百を越える魔物がメイを取り囲んだ。

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