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第162話 「激戦必至!超戦士、一角楼へ集う」(ストーリー)

 ルゼリオ王国を東西に走る大横断道を四凶のジョンブルジョンと異界人特務部隊隊長ドウマが一角楼を目指し追走劇を繰り広げているのと同じ頃、同じく一角楼を目指し、東へ向かう三つの人影があった。

 三つの人影は、一つは炎。一つは氷。一つは雷の魔法を発動させ、体に纏う事で飛行を可能とし、空を駆け急行していた。

 その正体は、六姫聖の『魔炎メイ・カルナック』『美の化身ナル・ユリシーズ』『暴風リン・スノウ』の三人であり、レイセント学園で臨時教師の任務を終えた彼女等は、中央都市へ向かったはずのサイガ一行が一角楼で賊の襲撃に巻き込まれたとの一報を受け、救援のために一角楼へと向かっていたのだ。


「しっかしまぁ行く先々で戦闘に巻き込まれるなんて、さすが生きる特異点よね」

「だが、その特異点とやらと言っているのはお前だけなんだろ?以前お前の魔力と触れたあとにサルデスが出現したらしいが、偶然じゃないのか?」

 能天気な調子で特異点と口にするのは、メイ・カルナックで、そこに疑問を呈するのがナル・ユリシーズだ。

「なに言ってんのよ?あいつがこの世界に来てからの戦闘歴聞いたでしょ?」


 メイの言うことはもっともだった。サイガの旅は戦闘の連続であり、サイガが自称するだけでも、まずは野党崩れの冒険者。そしてヒュージキマイラ。その次が六姫聖のリン。直後に異界人リュウカン。人間が変異したキラーアントにそのクイーン。

 次いでワイトシェルに移ってからは、サルデスに精神を侵食された六姫聖のメイ。戦いというには及ばないが、特選クラス生への指導。その際の四凶ジョンブルジョン。アンデッド系の大型魔物、そして死を司る神サルデス。召喚された地獄の将。サルデスの転生体シラ。

 ワイトシェル出立の際に初級冒険者。

 一角楼に到着してからはまたしても六姫聖でミコ。そして悪辣な非道な冒険者。と、戦闘の相手には事欠くことがなかった。


「戦いすぎでしょ、あいつ。仕事だったら何連勤になるんだっつーの。あはははは。あーおっかしい」

 サイガの身の上を、メイは豪快に笑った。バカにしたわけではないが、自分に置き換えた場合、とてもではないが耐えられないと想像してしまったのだ。

「ふっ、確かにな。そんなに戦いの連続では、流石の私でも肌が荒れてしまうぞ」

 ナルは真珠のように輝く白い肌を撫でた。

「ま、だから私達が援助に行くんだけどね。・・・て、あれ?リンは?ちょっと遅れてるんじゃない?」

 会話の途中でメイは、リンが一人後方にいることに気付いた。

 リンはメイやナルに比べ魔力量が少ないため、全力を出しても飛行速度は二人に劣るのだ。

 遅れるリンに合流するために、メイとリンは降下し街道で待つことにした。

 数分後、リンが到着する。


「ねぇリン、あんた前より遅くなってない?」

「逆よ逆、あなた達が速過ぎるの。私も以前より速くなってるけど、あなた達はそれ以上よ」

 この三人の中で、リンは最も魔力が少ない。対してメイはルゼリオ王国において比類なき量の魔力をほこり、ナルは魔力の扱いにだれよりも長じ精密な魔法をあやつる。それぞれの魔力の認識には大きな隔たりがあったのだ。

「どうする?これでは、三人足並みをそろえて到着というわけにはいかないぞ。リンと私を置いて、メイだけでも先に行くか?」

 圧倒的な魔力量のメイは、全力を出せば全てのものを置き去りにする速度を出せる。一角楼への到着を優先すると考えれば、ナルの提案は当然のことだった。


「気遣いは無用よ、ナル。ここは、私なりのやり方で解決してみせてよ」

 そう言うとリンは不敵な笑いを見せた。

 十年来の付き合いであるメイとナルの脳裏に悪い予想が浮かんだ。

「ちょっとあんた、変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」

 メイが問うと、リンは口に手を当て「うふ」と笑った。


 ◆


「あんたの言うとおり離れたわよ。で、これからどうすんの?」

 街道のど真ん中で、先日レイセント学園学園長タイラー・エッダランドより譲り受けた『聖錨せいびょうマスヨス』を右肩に担ぎながら、リンは距離をとるように指示し、二人はそれに従い三十メートルほど離れた。

「ねぇ、なにすると思う?」

「さぁな。あいつは、お前とは違う意味で無茶苦茶だからな、正直考えるだけ無駄だろ。まぁ見守るとするさ」

 両腕を胸の下で組み、ナルは彫刻のような美しい立ち姿で傍観の姿勢となった。

 リンの発想と行動に、二人はこれからの事態を想像しながら不安と期待に胸を高鳴らせていた。


「それじゃあ、いくわよ!うぉおおおおおおおお!」

 聖錨マスヨスを繋いだ鎖を短く持ち、リンはその場で自分を中心として回転を始めた。その動作はハンマー投げのそれだった。

 激しく空気を裂く音をたてながら、リンは回転を続ける。まるで小さな竜巻が生じたようだった。


「く、風がここまで届くぞ。さすが『暴風』だな」

 強風に乱れる絹糸のような滑らかな髪を押さえながら、ナルはルビーのような鮮やかな赤の唇でリンの二つ名を口にする。

 小規模の竜巻はさらに回転数と速度を増す。勢いが極限まで達し、空を裂く音が激しいものから鋭いものに変わる。聖なる錨から発せられる音からは重量感が失せていた。


「ねぇナル、私、リンがなに考えてるか、なんとなくわかちゃった」

「そうだな。私もなんとなくわかったぞ」

「あいつ、錨をぶん投げてそれに引っ張ってもらうつもりよ」

「まったく、力任せにも程があるだろう。よくそんなことが思いつくものだ」

 更に勢いと風速を増すリンに耐えかね、二人は距離をとるため少しずつ後退していた。


「いぃけぇええええええええ!でりゃああああああ!」

 回転の速度が最高潮を迎えたところで、リンは聖錨マスヨスを東の先、一角楼に向けて投じた。

「さぁ、私を引っ張りなさ・・・ぃぃぃぃぃいいいいいい・・・・」

 目論見を言い終わる前に、リンの体はマスヨスによって東の空へと連れ去られた。その姿も声も吸い込まれるように空に消えていく。


「速っや!なによあれ、速すぎるわよ!」

「なにしてる、追いかけるぞ!」

 その異常なまでの速度に驚き終わる暇もなく、リンに続いて、メイとナルも東の空へと飛び去った。

 激しい炎と美しい氷の軌跡が空に線を描いた。


 空に消え去ったリンを全速で追いかけて一分、二人はようやく、されるがまま東に飛ぶリンに追いついた。

「リン、速すぎるわよ!もうちょっと速度落として。私でも追いつくだけで精一杯だわ!」

「そ、そんなこといっても、どうしようもないのぉ!マスヨスが勝手に飛んでるみたい!」

 聖錨マスヨスはリンの言葉どおり、その制御下になかった。リンに振り回されたマスヨスは、偶然にもその内に眠る力を強制的に目覚めさせられ、その機能の一つ『戦士を戦地へと導き繋ぎ止める』という役割を果たそうとしているのだ。


「どうにかできないのか?自分の力で投げたんだろ?」

 メイに続き、ようやく追いついたナルが大声で尋ねてきた。

「無理!これ、私の力を利用して飛んでるところに、マスヨスの魔力が上乗せされて加速してるわ!もう止められないのぉぉぉぉぉ・・・」

 リンの声を置き去りにして、マスヨスは更に加速した。

 メイとナルの目にはリンの足の裏だけが映っていた。



イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。


メイ・カルナック

挿絵(By みてみん)


ナル・ユリシーズ

挿絵(By みてみん)


ナル・ユリシーズ2

挿絵(By みてみん)


リン・スノウ

挿絵(By みてみん)

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