第161話 「希望への大滑走。駆け抜けろジョンブルジョン・後編」(バトル)
サイガと同じ忍者を自称する異界人部隊長ドウマとの戦いは、ジョンブルジョンにとって、擬似的なサイガとの再戦となった。
その繰り出す技、動きの殆どが同一と見まがうぐらいに酷似していたのだ。
「自ら同格と言うだけはあるな。なんという既視感だ、この鋭い剣筋、一瞬も気が抜けんぞ!」
当たれば絶命必至の急所を狙った忍者刀の蓮撃を、ジョンブルジョンは右の義手を剣、左の義手を小型の盾バックラーに変化させて応戦を続けていた。
縦横無尽襲い来る刃の包囲網を、剣と盾は牽制と防御を駆使して切り抜ける。
「へぇやるじゃないか。サイガとの戦いの経験をしっかり活かしてるんだね。えらいえらい」
サイガと同格ということはその攻撃速度は人知を超越する。
ドウマはそんな規格外の攻撃を行いながらも、敵を称賛する余裕を見せる。
余裕の攻めと必死の守り。そんな攻防が数十合と続いた頃、対称的な二人の様子に変化が起こった。
起死回生を試みたジョンブルジョンが攻勢に転じたのだ。
右手の剣の形状が変化した。
一般的な長剣から刺突に特化した細剣となり、一直線にドウマの顔に迫る。
その速度は義足のブーストと重なってドウマの素早さを上回る。
「獲った!」
一点集中の神速の刺突。ジョンブルジョンは勝利を確信した。
「はい、残念。ちょっと素直すぎるね。軌道が単純だよ」
ドウマは笑っていた。神速の突きを、逆手に持った忍者刀の切っ先で受け止めながら。
「な、そんなバカな。切っ先で切っ先を受け止めるなどと…」
にわかには信じがたいドウマの神業に、ジョンブルジョンは口を閉じるのを忘れていた。
激しい衝撃が、下方からジョンブルジョンの緩んだ顎を襲った。
衝撃の中、焦点の乱れる目で正体を探ると、そこではドウマが左足を天を突くほど鋭く蹴り上げていた。
ドウマがジョンブルジョンの緩んだ顎を蹴り抜いていたのだ。
一瞬、ジョンブルジョンの意識が体から離脱した。
体の自由は利かないが、膝から崩れ落ちていることは冷静に理解出来ていた。
「ぬぅ!倒れてなるものか!」
ジョンブルジョンは寸でのところで踏みとどまった。しかし体のダメージは深刻で膝が笑っている。
「お、やるね。今ので気絶しないのは流石だよ」
まるで子供をあやすように、ドウマは上機嫌でジョンブルジョンを称えた。その振る舞いが、四凶のプライドを抉った。
意識を取り戻すより速く、体が動いた。
右義足の踵と左義足の爪先でそれぞれブースターを発動させるとその場で高速の急回転を行い、回転斬りを繰り出す。
ジョンブルジョンならではの人間の仕組みを超越した攻撃方法に、ドウマは虚を突かれ余裕を一瞬喪失した。回避のために体術ではなく、忍術を使用したのだ。
『遁法 浮舟』。攻撃の流れに身を委ね、水流に浮かんだ笹舟のように攻撃を受け流す万能の回避法だ。
ドウマは距離をとった。それは、余裕を見せていた忍にとって拭いがたい屈辱だった。
「ふ、ふぅん、やるじゃん。窮鼠猫を噛むってやつ?咄嗟にしては上出来だよ」
余裕を演じるが、ドウマのその声は震えていた。動揺ではなく、怒りが余裕を失わせる。
「お褒めにあずかり光栄だな」
体勢と意識を持ち直したジョンブルジョンが構えた。
二人の間の緊迫感が増した。
「仕方ないね、ここからは遊びは無しだ。本気でいくよ」
ドウマは呼吸を整え、スキルを発動させた。
ルゼリオ王国に召喚された異界人たちはスキルと呼ばれる特殊技能を有する。
それは天の気まぐれか羨望の発露か、本人の性格や人生を踏襲した効果や現象を起こすものが殆どだ。そして、そんな異界人の中でも、最も己に適した能力を得た者の一人がドウマだった。
「くらぇえ、『火遁 爆炎龍』!」
ドウマの両腕が勢いよく燃え上がり、うねりを生じさせ龍の形となった。
右腕で地面を殴る。続いて左。二匹の炎龍が地に放たれた。
炎龍は地から地へ半円を描きながら猛進を始めた。標的は当然ジョンブルジョンだ。
「な、なんだ、魔法か!?」
ジョンブルジョンは狼狽した。ドウマが放った二匹の龍を魔法だと考えたが、当人の記憶にはその名称も効果も存在しない。未知の攻撃だったのだ。
両の義手の指を組ませ、ジョンブルジョンは両手を盾に構築するために魔法珠を発動させた。
しかし、ここで一つの不安が頭をよぎる。それはドウマが呼んだ『爆炎龍』という名前だ。
経験と勘に従い、ジョンブルジョンは義手の構築を変更した。身を守る分厚い盾から、迎撃するための大砲が形成される。
「消えろぉおおお!!」
雄たけびと共に、ジョンブルジョンは二匹の炎の龍を迎え撃った。
砲弾が放たれ、龍と触れた。その瞬間、龍が爆ぜ、爆発と炎が入り混じった竜巻となって空に昇った。
竜巻は空に上りながら爆発を繰り返す。もし防御に徹していれば、爆発に全身を包まれ砕け散っていただろう。
ジョンブルジョンは咄嗟の判断で命を救ったのだ。
「あ、危なかった。しかし、なんだあれは?魔法ではないのか?」
空に消える爆発を見送りながら、ジョンブルジョンは呟く。
「そうだよ。アレは魔法なんかじゃない。忍法だ」
「忍法?」
「そ。俺たち忍者が使う独自の技さ。ただし、特撮やマンガの中だけの架空の技だけどね。俺はこの世界に召喚された再に、この忍法を放つスキルをもらったのさ」
ドウマは両手を顔の横で広げ、おどけてみせる。
「特撮やマンガとやらはよくわからんが、つまりはスキルを完全に使いこなせているということなのだな?」
「大雑把に言えばそういうことだね。その名も『忍者』。俺の思い描く忍術を実現させるチートスキルさ」
「なるほど、創作の攻撃を可能とするのか。そのうえ、身体能力は俺が知る中で最強格・・・厄介なことだ」
「理解できた?それじゃあ、わかったところでもう一丁!『雷遁 痺れクナイ』!」
ドウマの両手が体の前で交差する。するとそこから、青白い光を纏った二本のクナイが投じられた。またしてもジョンブルジョンは攻撃に危機感を覚えた。
右腕をショットガンに変化させ、散弾の連射で二本のクナイを迎撃する。クナイは霧散して消えた。
「正解、正解!それは雷で作ったクナイだよ。もし触れていたら、一瞬で感電死してたところさ」
ジョンブルジョンの機転に、ドウマは声を上げて喜ぶ。
忍術を使うことで優位性を得たのか、すっかり余裕を取り戻していた。
優れた身体能力と未知のスキルを弄する敵に、ジョンブルジョンは勝機を完全に失ったことを確信した。
ただでさえ大敗をきっしたサイガと同格の体術に加え、未知数の未見の技。無策で挑んでは敗北は必至。口惜しいが、ジョンブルジョンは勝利を捨て、目的の達成のためにその身を捧げることを決心した。
目的の達成。それは、一角楼に滞在する四凶との合流と姫派との共闘。そのためにジョンブルジョンはドウマに背を向け、西に急発進をした。
四肢の全てを加速のための装置に変化させ、ドウマを引き離しにかかる。
「悔しいが、ここは逃げる!さらばだ。今はお前の相手はしていられん!」
「まったく、優秀な忠臣だね」
ジョンブルジョンの転身に、感心しながらもドウマは駆け出した。その速度はジョンブルジョンの全力よりもわずかに速い。
逃げる。
追う。
逃げる。
追う。
延々と繰り返される逃避行と猛追。
ジョンブルジョンの逃走劇は数分、数キロの距離に及ぶまで繰り広げられた。
そうこうしているうちに、ジョンブルジョン前に目当ての巨大な一本角、一角楼がその先端を見せた。
「み、見えた。一角楼だ!あそこにいけば、アールケーワイルド、シズクヴィオレッタもいる。そのうえ六姫聖の協力をとりつけられれば、如何にチートスキルであろうと・・・」
ジョンブルジョンは希望に目を輝かせ、声を弾ませる。
「あーあ、着いちゃったか。仕方ない、遊びは終わりだ。『風遁 疾風靴』」
忍術を唱えると、ドウマの足が風に包まれた。体がわずかに浮き上がり、滑る様に加速を始める。二人の距離が見る間に縮む。
「なんだと!まだそんなものを隠していたのか!?」
「そういうこと、所詮君は掌の上だったってわけさ」
「お、おのれぇええええ!バカにしやがって!この四凶、とどまることを知らないジョンブルジョン!最後まで足掻いて見せるぞ!」
弄ばれた怒りを胸に、ジョンブルジョンは最後の手段に出た。
左腕を、収納の魔法珠内の材料全てを使い、構築魔法で大規模な構築を行った。
大仰な構築作業を経て、ジョンブルジョンの左の義手は巨大なロケットへと姿を変えた。
「いけ!一角楼の連中に報せを届けろ!」
「やらせるか、『土遁 岩石牢』」
ジョンブルジョン周囲を土石が取り囲み体を包んだ。
だが、拘束されながらもジョンブルジョンは目的を遂行した。左腕のロケットを一角楼に向けて発射する!
「いけぇえええええええ!・・・うぐわっ!」
望みを乗せてロケット打ち出したところで、ジョンブルジョンは全身を包まれ土の球の牢獄に囚われた。
射出されたロケットが一角楼に迫る。
主の望みを乗せたロケットは、一角楼の手前の地に着弾し、巨大な爆発と轟音をとどろかせ、一角楼に在する全ての者に危機の到来を告げた。
イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。
爆炎龍を放つドウマ
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