表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
165/322

第160話 「希望への大滑走。駆け抜けろジョンブルジョン・中編」(バトル)

 二人の異界人を退けたジョンブルジョンは再び前後を入れ替え前を向いた。義足のエンジンに更に火が入り加速した。

「ちょっとぉ隊長、マミカもシュドーもやられちゃったら、まともに戦えるのは隊長だけよ。どうするの?」

 撃退された二人を尻目に、四人乗りの大型の自動車の助手席に乗った美女クジャクが、徒走りで隣を疾走する隊長に尋ねた。

「さすが四凶、単独で我らを退けるか。これはやり方を変える必要があるな。ホウエン、マミカとシュドーを拾って、ムクたちと合流してくれ。一旦戦力を整える」

「わ、わかりました。それで、隊長は?」

 ホウエンと呼ばれた、自動車のハンドルを握る男が尋ねた。

「俺は四凶と遊んでくる。それじゃあ、後は任せたぞ」

 そう言うと隊長の男は加速し、自動車を引き離す速度でジョンブルジョンを追走した。


 ◆


 バイクの駆動音、ワイバーンの飛行音、ケンタウロスの馬蹄音。疾走する中で、三つの音を退けた。

 そして今、新たな四つ目の音が聞こえてくる。これまでで最も軽やかで、最も疾走感のある音。

 予感していた。その軽快な音の主が、これまでで一番の手だれであることを。四凶の若輩は、首に冷たいものを感じていた。


「逃げながらシュドーとマミカを退けるなんて、やるね」

 ジョンブルジョン後ろから声が聞こえた。後方からではなく、真後ろだった。後頭部に鼻が密着しているのではないかと思えるほどの、近い位置での声だった。

 寒気と冷や汗が体中の汗腺から一斉に吹き出した。おぞましさと恐怖が首に手をかけているようだった。


「う、うおおおおおお!」

 冷たい恐怖に、ジョンブルジョンは取り乱し絶叫と共に加速、前進した。

 前進し、充分に距離をとったと思ったところで、構築魔法で右腕を蛇腹剣に変化させる。

 振り向きつつ、鞭のように剣をしならせ、ジョンブルジョンは敵の姿を視認しないまま攻撃を開始した。


「おっとぉ残念」

 真後ろの声の主、特務部隊長の男は、ジョンブルジョンの蛇腹剣を手にした剣で疾走しながら軽やかに受け止めた。

 その動きは軽やかにして鮮やかで、まるで蛇腹剣がそこを狙ってくることをあらかじめ知っていたかのような動きだった。そして、その鮮やかな動きに、ジョンブルジョンは見覚えがあった。

 

「今の動きどこかで・・・いや、動きだけじゃないぞ!あの武器、装い。まるでサイガじゃないか!」

 剣捌きだけではなく、部隊長の全てにジョンブルジョンは既視感を覚えた。それはその言葉どおり、サイガを髣髴とさせるものだった。部隊長が身に纏っているのは忍び装束で、手にしているのは忍者刀だったのだ。違いといえば、サイガが黒なら、部隊長の男は赤一色ということだった。


 赤い忍び装束の部隊長が加速した。距離を縮め、後ろ向きに前進を続けるジョンブルジョンの視界を瞬く間に占有してゆく。

「今君、サイガって言ったかい?あいつのこと知ってるんだね」

 またしても触れ合いそうなほどの距離まで接近する部隊長。鼻と鼻が接触するまで紙一重というほどの位置で語りかける。

「なな・・・な・・・」

 無遠慮な距離感で無邪気に問いかける赤い装束の部隊長に、ジョンブルジョンは思わず言葉を失う。

「ねぇ答えてよ。サイガと戦ったの?どう、あいつは強かったか?ねぇねぇ?」

「う、うるさい!サイガ、サイガと、一体なんなんだお前は?」

「俺?俺はドウマ。あいつと同じ世界から来た、あいつのライバルさ」

「ら、ライバルだと・・・?」


 ドウマと名乗った部隊長の男の発言にジョンブルジョンは気をとられ、路上の石につまずき転んだ。

 受身を取って、瞬時に立ち上がるが、そのあまりに大きな隙をドウマは見逃さない。体勢が整う前にジョンブルジョンに近づき、首に忍者刀をあてがった。

「さ、答えてもらうよ。サイガを知ってるんだね。あいつのこと教えてよ」

 ドウマはまた無邪気に笑った。そこには部隊長の責務よりも級友との再会を優先する少年のようなあどけなさがあった。

 抵抗を無意味と悟ったジョンブルジョンは、先日のワイトシェルでのサイガとの戦いと共闘の詳細を語って聞かせた。


「へぇ・・・そうなんだぁ。レールガンを足場にして神様の首を刎ねるって、相変わらずやるなぁ。今から会うのが楽しみだよ。ふふふ・・・」

 ジョンブルジョンの体験記を聞きながら、またしてもドウマは高揚する心を抑えきれず少年のように笑う。忍者刀は首筋にあてられたままだ。

「会って、どうするつもりなのだ?」

「どうするって、勿論、戦って殺すんだよ」

「こ、殺す?なぜだ?」

「あいつとは決着がついてないからね。あっちの世界では、勝負の途中でこの世界に呼ばれて有耶無耶になっちゃったから、ちゃんと白黒つけないとね」

「そ、それだけのことで命を・・・」

「それだけじゃないさ。今のサイガは姫の部下の六姫聖と行動を共にしているだろ?つまり姫派、オーリン派の俺たちの敵。立場上、命を狙うのは当然だろ?任務をこなしながら因縁まで片付くんだから、一石二鳥だよね」


「オーリン派か・・・最早、謀反を隠そうともしないんだな」

 ドウマの言葉を、ジョンブルジョンは聞き逃さなかった。自身をオーリン派と語るということは、王とは別離を意味する。謀反を肯定していたのだ。

「ふふ、そりゃそうさ。じゃなきゃ、君達に攻撃をしないよ。もう事態は動き出している。隠す意味はないだろうからね」


「ついでに一つ聞かせてくれないか?」

「なんだい?」

「お前やサイガは一体何者だ?なぜそんな超人的な身体能力を有している?」

「それは、俺たちが忍者だからさ」

「忍者?そういえばドクターウィルもそんなことを言っていたな。何者だそれは?」

「裏の仕事をこなす影の組織とその構成員。そうだね、この世界で言えば、アサシンがそれに近いかな。俺とサイガはその中でも最強と呼ばれた同格の実力者。それがこの世界でも最強だったってことさ。で、聞きたいことはそれで終わり?」

「ああ、終わりだ。充分時間は稼げたからな」

「なに!?」


 ジョンブルジョンがドウマに投げかけた質問には二つの意図があった。

 一つは、内容そのまま、かねてより興味の尽きなかったサイガの素性とその正体。

 もう一つがドウマに気取られぬように、構築魔法で電気と光の特製のスタングレネードを製作することだった。

 そして、話の終わりと同時にその狙いは達成された。

 ジョンブルジョンは二人の体の間に小型のスタングレネードを投じた。

 激しい電気と光が二人の体を駆け抜ける。


「な・・・かぁ・・・」

 完全な不意打ちだった。ドウマは全身が痺れ、視界が光に覆われて、白い世界に拘束された。

 一方のジョンブルジョンはスタングレネード発動の衝撃で数歩後ろにさがるが、ほぼダメージがない。サングラスに絶縁体の服と、対策は万全の上での行為だったのだ。

「くそっ、やるね。俺を出し抜くなんて、忍者の素質あるんじゃない?」

 白に染まった視界の中で、ドウマは狡猾な戦士を賞賛する。

 その対応にジョンブルジョンは驚愕した。それは、あまりの驚きにドウマの言葉が耳に入らないほどだった。

「な、もう喋れるのか?常人なら絶命するほどの電量だったはずだぞ!?」

 

 ジョンブルジョンが驚くのも無理はなかった。

 ドウマがサイガに匹敵する実力というなら、スタングレネードの電撃での決着は期待できない。だがそれでも、時間稼ぎは可能だとふんでいたからだ。

 だが、ドウマの短時間での持ち直しは、ジョンブルジョンの予想をあっさりと裏切ったのだ。

「たしかに、サイガならこれぐらいの芸当やってくれるか。・・・どうやら、俺の見積もりが甘かったようだな」

 反省と共に考えを改めると、ジョンブルジョンはかつて己を下した強敵に並ぶと称する男を迎え撃つため、義手に装着した収納と構築の二つの魔法珠を発動させた。

 



イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。


ドウマ(???)

挿絵(By みてみん)


クジャク(???)

挿絵(By みてみん)


ホウエン(???)

挿絵(By みてみん)

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ