第159話 「希望への大滑走。駆け抜けろジョンブルジョン・前編」(バトル)
ルゼリオ王国を細部に至るまで縦横無尽に走る大小の整備された道から成る街道網。
その中で最大幅をほこり、王国を四分する形の大十字路は、縦、横の街道が正確に国土の中央を走り、正確に中心で交差する。
交易、流通に特化した街道に、国内の主要都市は沿って発展を遂げてきた。
クロスト、ワイトシェル、一角楼。国内の名だたる施設はその恩恵を受けているのだ。
しかし、その整備され優れた街道も、追っ手からの逃走時となれば、仇となることこの上ない。
四凶の一人ジョンブルジョンは、異界人の特務部隊追撃を振り切るべく、一角楼へ向けて街道を急速西進していた。
「くそっ、まだ一角楼は見えないか!?このままでは追いつかれる!」
ローラーとジェットの機構を備えた義足で街道を西に向かって疾走しながら、ジョンブルジョンは後方を伺う。そこには、大型バイクを操縦する、チートスキル『無限武具精製』のシュドーを先頭に、七人が命を狙う。
最も距離の近いシュドーが動いた。左手でバイクのハンドルを握ると、スキルで造りだしたライフルを右手で構える。
「さぁて、的当て開始だ。なるべく楽しませてから当たってくれよ」
不穏な発言と共にシュドーは引き金を引いた。貫通に特化した鋭い弾丸が撃ち出される。
後方から飛来する弾丸が、ジョンブルジョンの左の頬を掠めた。
「じゅ、銃撃だと?となるとさっき我々を撃ち落そうとしたのはあいつか。好き勝手に武器を作れるとは、これがチートスキルというものか。反則もいいところだな」
この世界において、便利の代名詞は高度な魔法となる。しかしそれは修練と魔力という代償が存在する。それが力を行使する最低限の対価なのだ。
しかしチートスキルにはそれがない。気軽に意識、所作の一つで魔法と同等、それ以上の効果を発揮する現象を発動させ結果を得る。
四肢を失い、仮のものへと付け替え地獄の苦しみの中で使いこなすまでに至ったジョンブルジョンからしてみれば、手軽に力を行使する異界人は正にチート(不正)そのものだった。
頬を掠めた弾に続き、更なる連続の追撃が音をたてて後方から襲い来る。
頭髪、足、足下、肩、裾と、被弾は免れるが限りなく近距離を通過していく。
「くそ、運転しながらじゃ狙いが定まらねぇ!」
焦れたシュドーがライフルを投げ捨てた。
続けて懐から小さな金属の板を取り出すと、スキル発動のための金鎚で叩く。板は再びロケットランチャーへと変化した。
「やっぱチマチマ狙うのは性にあわねぇ!こいつでぶっ飛ばしてやるよ!」
肩にランチャーの重量を感じながら、シュドーは引き金に指をかける。
「あ。ダメ」
ランチャーの発射の寸前、『未来予知』のアラシロが呟いた。それは側を走る隊長にだけ聞こえた声だった。
「シュドー、待て!アラシロがなにか感じた!」
隊長が先を走るシュドーに声をかけた。
アラシロの未来予知は十秒先の未来を見通す。その的中率は完璧で、これまであらゆる危機から仲間達を救ってきた。
しかし難点があった。アラシロは極端に内向的な性格のため、未来を予知したとしても強く主張せず、結局その事態に陥ることがあるのだ。
当然仲間は怒り、抗議するのだが、大抵の場合アラシロは小さな声で「言うまでもないと思った」と返し、ひと悶着が発生する。
「なんだ隊長?またアラシロか?って、ぬぁああああ!」
攻撃の手を止めたシュドーのバイクの前輪に異常が発生し、速度を低下させた。目を向けると、前輪に紐で連結された数本のスパイクが突き刺さっていた。
ジョンブルジョンは構築魔法で簡易的なスティンガースパイクを作り出して仕掛けたのだ。
「おいアラシロ!わかってんならさっさと言え!うああああああ!」
苦情を口にした直後、シュドーの乗るバイクはコントロールを失い、縁石に乗り上げて横転した。
シュドーは投げ出されたが受身を取り無傷で済んだ。
「くそっ、いい加減にしろよ、アラシロ!」
横になりながらも、シュドーは悪態をつき続けた。
「シュドー、お前はそこで休んでろ。マミカ、行けるか?」
「はーい。マミカ出まーす」
隊長に命じられ、チートスキル『魔物召喚師』の女子高生、マミカが前に出た。
召喚した大型のワイバーンにまたがり、元気に前に指を向け、それに従い、ワイバーンが加速する。
エンジン音が消えたと思えば、今度は羽ばたく翼の音。
不穏な気配に、ジョンブルジョンは後方を見る。視認すると近づいてくる翼竜に驚愕した。
「今度はワイバーンだと?なんでもありか、こいつらは?だが、魔物なら慣れたものだ。まだ打つ手はある!」
ジョンブルジョンの言うとおり、魔物はこの世界の生物であり、近代兵器のランチャーとは違い対応は初めてではない。そして、そこに勝機を見出した。
体を前後反転させると、ジョンブルジョンは右手をボウガンに変化させた。
ワイバーンの頭部に狙いを定め、矢を数本放つ。
ジョンブルジョンは自身が構築する武器の扱いに熟達しており、矢は全て頭部に撃ち込まれた。
ほぼ致命傷を受けたワイバーンは、絶命はしないまでも、その速度を大幅に落とし、下降する。
「ちょっと、なにやられちゃってんのよ?使えないわね。じゃあもういらない」
命に対してのいたわりの意思を全く見せない態度で、マミカはワイバーンを見限った。
呆れた顔のまま右手をかざし指先で円を描くと、空中に魔法陣が出現する。
「それじゃあ次はこの子。出て来い、ケンタウロス!」
召喚の言葉に従い、魔法陣から半人半馬の魔物ケンタウロスが現れた。
マミカはその背に飛び移ると、全速前進を命じる。自我を消されているのか、ケンタウロスは雄たけびで応じた。
「それ、いけいけ!死ぬまで走り続けろ」
馬蹄の音を街道に響かせながら、ケンタウロスは無茶な加速を始めた。
チートスキル『魔物召喚師』は位を問わず、あらゆる魔物を召喚する。そしてその指示の言葉は、魔物から意識を奪い、命令を忠実に実行するだけの奴隷と化させる。そのため、マミカは魔物に一切の情を抱かず、使い捨ての道具程度にしか捕らえていないのだ。
思いやりのないマミカの命令で、ケンタウロスは肉体の限界を超えた疾駆を行っていた。
だが、苦しみながらもその痛みを口にできず、歪み続ける顔がそれを物語る。
「ねぇ、スピード落ちてるよ。もっと全力出しなさいよ!ほらほらぁ走れ走れ!」
マミカの無茶な要求も、召喚された魔物は拒否権を持たない。
ケンタウロスは更に苦痛に顔を歪めながら、血まみれの蹄を硬い街道に叩きつける。
「いくら魔物とはいえ、貴様、人の心はないのか?苦しんでいるのはわかるだろ。やめてやれ!」
「きゃはは、なに言ってんのよ?同情してるの?バカじゃない、こいつら魔物だよ?マミカが使ってあげてるの。偽善者は黙ってなよ!」
命を粗末に扱うことに喜びを感じているのか、マミカは高揚した笑い声を上げる。
チートスキルを有する異界人は、その強すぎる力のため、いささか倫理観と人格が崩壊している傾向があるのだ。
「おのれ、非道の輩め!だったら、その報いを私が与えてやる!」
マミカの言葉に怒りを覚えたジョンブルジョンが右手を更に変化させた。右手は電気を纏った端子のような形となった。
「ケンタウロス、その命を無慈悲な主から解放してやるぞ!」
端子状の右手から電撃が放射された。その勢いと電流と電圧は充分な致死量だった。ジョンブルジョンはケンタウロスに情けをかけ、一瞬で死に至る量の電気を放ったのだ。
「きゃ!」
「があああああああ!」
マミカとケンタウロスの悲鳴が重なる。
一瞬で絶命したケンタウロスは望まぬ主と共に地面に転がった。
「命を軽く扱う貴様には似合いの最後だ。共に果てるがいい」
電撃の後、ジョンブルジョンはマミカの死体が転がる思っていた。
しかしそうはならなかった。マミカは瞬時に雷属性に耐性のあるスライムを召喚し、全身を包んでいた。
さらにスライムは緩衝材の働きもかねており、衝撃を吸収したためマミカは無傷だった。
「な、なんだと!?無傷?くそ、こんなことが許されるのか!?」
遠方に消え行くケンタウロスの亡骸を見送りながら、ジョンブルジョンは後悔の念に包まれた。
追跡する冒険者はいまだ五人が健在だった。
イメージイラスト(AI)※あくまでイメージなので、他のイラストと差異があったりしますがご容赦ください。
完全予知アラシロ
無限武具精製シュドー
魔物召喚師マミカ
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